クロノプロデュース『ミノちゃんに邪魔されてばっかでイチャれない二人をこっそりラブらせて、可愛いベビたん作ってアフェルナ姉様に続こうYO大作戦』

腐令嬢、脳揺れる


 本日の午後最初の授業は、私の大好きな体育。

 同じ体育館内で女子はバレーボール、男子はバスケットボールと別々の競技を行う。


 バスケじゃなくて良かった。バスケだけは苦手なんだ。前世ではハンドボーラーだったから、似て非なるルールにどうにも慣れられなくて。



「女子はバレーボールで良かったですねぇ……バスケだとクラティラスさん、即反則からの即退場確定ですもん。逆に退場させられなかったら、ビックリして死ぬ自信ありますよ」


「バスケとクラティラス様は、凶器と殺人鬼みたいなものですからね。今死人を出しては、こんな殺人狂の女などイリオス殿下の隣に相応しくないと糾弾され、カミノス様に婚約者の座を取って代わられても文句は言えません」



 左右から私を挟み、リゲルとステファニがこそこそ声で好き放題言ってくる。


 私のバスケのプレースタイルは、確かに荒々しく猛々しい。わかってるし、ちゃんと自覚してる。でも自慢じゃないけど、まだ人を殺したことはないよ!?


 先行チームのゲームが終わり、私達のチームか呼ばれた。



「さあ、クラティラスさん。ここからは友ではなく敵ですよ。ぶっ潰してやりますからね!」



 立ち上がるや、敵対チームとなったリゲルがニタリと可愛らしい顔を歪めて笑う。



「クラティラス様、先にも言いましたが、手加減は一切いたしません。殺す気でいきますので、ご覚悟を」



 リゲルと同じく相手チームに属するステファニも、無慈悲な台詞を放つ。


 ぶっ潰すって……殺す気で……って、ええ!?


 ネットを境界線に隔て、二人と対面する形でコートに立った私は、それらの言葉が嘘ではなかったとすぐに思い知ることとなった。



「オラァ、食らえ! デッドマン・ブレイク・アターーック!!」


 リゲルが雄叫びを上げ、私目掛けてボールを打ってくる。ボールは目にも止まらぬ速さで私の顔面すれすれを通り抜け、ドォン! という凄まじい音を奏でて床に落ちた。



「次は私の番です! ディスティニー・クラッシュ・ショーーット!!」



 続いてステファニが、サーブ……と見せかけて、これまた私を狙ってとんでもない勢いのボールをぶっ放してきた。


 あわやのところで避けられたから助かったものの、あんなのに当たったら本当に死ぬって!



「ゴルァ、ちょこまか逃げてんじゃねー! インフェルノ・ザ・フレイム・ブラストォォォーー!!」


「逃げても無駄だ、とっとと逝け! ヘブン・ザ・フォール・エクスプロージョォォォーーン!!」



 二人は必殺技を叫びながら、次々と高威力のボールをぶつけようと仕掛けてくる。


 ここここれ、乙女ゲームよね!? 格闘ゲームじゃなかったよね!?


 例の計画では、私はボールに当たらなくてはいけない。思いっきりやってくれて大丈夫とは言ったけどさあ……だけどここまでとは聞いてないよ! こんなの無理無理無理!

 いくら『死なない身体』とはいえ、当たった部分は粉砕骨折待ったなしじゃないの! 頭だったら脳味噌吹っ飛んじゃうよ!!


 しかしリゲルもステファニも、今は頭に血が上りきって戦闘モードに突入している。先生の注意も聞こえてないみたいだし、私がやめてくださいと土下座してお願いしたところで、その頭を狙ってボールを叩きつけるだけだろう。


 ちらりと得点板を見ると、こちらのチームはゼロのまま、相手チームの一方的な展開でセット終了間近だった。バイオレンスアクションみたいなアタックばかりだけど、二人してしっかりとラインの内側に落としてきていたおかげだ。


 あと少し、我慢してやり過ごそう。それがベストだ。


 そう考えて私はガタガタ震える足を踏ん張り、二人からの猛攻に必死に耐えた。『計画』ではボールに当たって気を失うフリをしなきゃならない。だけど、本当に失神するならまだしも、あの球威じゃしばらく意識不明になること間違いなし。それじゃせっかくの計画も本末転倒だ。


 だってこの計画は、『私とイリオスが話す時間を作るため』のものなんだから。


 試合が終わったら、恐怖のあまり脱力してよよよと倒れる演技をしとけばいい。その方が令嬢っぽいし、実際にもう腰が抜けかかってるからリアルに演じられる自信ある!



「クラティラス、頑張って!」

「クラティラス、私も応援しているぞ!」



 次はどのような軌道を描いて襲ってくるかとボールを睨み続けていた私の耳に、あたたかな声援が届いた。クロノとお兄様だ。


 バスケのゲームが終わったようで、二人は軽く息を弾ませながら、仲良く肩を組んでこちらに笑顔を向けている。


 これは……美味しい。

 絵面は大変爽やかだが、こっそり致していたところをバレそうになって、『二人でバスケしてたんだぁ、楽しかったよね?』『ああ……時間があればもっと続けたかったな、お前とのワン・オン・ワン』といった感じで誤魔化してるようにも受け取れる!


 スポーツでかいた汗に輝くイケメン達を目にし、エロい裏設定を付与して勝手に脳内で盛り上がっていると、二人はさらに追加でもう一人を召喚した。



「ほら、イリオスもエールを送ってあげなよ!」


「そうですよ、イリオス殿下。クラティラスを愛しクラティラスに愛される者同士、共に応援しようではありませんか!」



 クロノとお兄様に促され、二人の後ろからイリオスがちまっと顔を出し、躊躇いがちに口を開いた。



「クラティラスさん……ええと、無理せず……でもその、頑張って、ください」



 途端に何故か、全身がぼわっと熱くなった。


 いやいやいや、待って待って待って? お兄様とクロノのエロ妄想の方が萌えるでしょ? 何でイリオスなんか相手に、こんな発熱したみたいになってんの?

 そりゃカミノス様の登場以来、イリオスは休み時間もギリギリまで拘束されてたし、挨拶すらまともにできる状況じゃなかったけどさ……久々に声かけられたくらいで、何を舞い上がってんだ、私!?


 相手はイリオスだぞ? 江宮えみやだぞ? 前世も今も、愛するBLをバカにし倒す宿敵の百合豚野郎なんだぞ!?


 自分の心身に起こった諸症状に混乱して、危機的状況にある現状を忘れたのがいけなかった。



「パーフェクト・キラー・フルボッコスパーキング!!」



 ステファニの鋭い掛け声にはっとして顔を上げるも、時既に遅し。



「クラティラスさんっ!」



 一気に暗転した世界で最後に聞こえたのは、イリオスが放った必死の叫び声だった。きっと本気でビビったんだろうなぁ……だってあいつ、すんげー演技するのヘッタクソなんだもん。


 とんでもない衝撃を受けると、本当に脳が揺れる感覚を味わえるんだね。初めて知ったし、二度と体験したくないわ!

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