腐令嬢、類友に恵まれる
「り、りげう、ぺてうげ様を責めらいで」
リゲル特製の激辛アゲチキをやっとの`思いで完食すると、私は痺れる舌とくちびるを駆使してペテルゲ様を庇った。
「ぺてうげ様は、わらしを心配してここに来てくらはったのれひょう? それだけで、ありがたいれすわ」
と、そこまで言ったところで、ステファニががっしと私の頭を掴んだ。問答無用で上向かされた私の口に、彼女がランチの時にいつも用意してくれる水の入ったデキャンタが押し付けられる。そこから容赦なくざばざばと水を流し込まれ、私は危うく溺れかけた。
私の口と喉が焼け野原になっているのを察して対応してくれたんだろうけど、もうちょっと優しくして! これじゃ水責めに等しいよ!
「ス、ステファニは、クラティラスにとても懐いているのだな。驚いたよ……ずっとイリオスにしか心を許さない子だったのに」
盛大にむせて、吐き零した水でびっちゃびちゃになった私の顔を拭くステファニに、ペテルゲ様が興味深そうな目を向ける。
そうよね、ペテルゲ様は必死に懇願したのに、ステファニってば一口しか水をあげなかったもんね。
「懐いてなどおりません。こんなアホで生意気で小憎らしい女に、私が心を許すはずがないでしょう。ただ単に、面白くて優しくて可愛らしいところもあって、瞬間愛しみ風速ではイリオス殿下を超える時もありますので、好き好き大好きが止まらないというだけです」
てきぱきと私の濡れた髪に櫛を通したり、乱れた制服のネクタイを直したりしながら、ステファニは面白くもなさそうに淡々と答えた。おお……あっさりデレたやないかい……。
「それにリゲル、君も」
ペテルゲ様はステファニからリゲルに視線を移し、優しく微笑みかけた。
「ヴォリダ第四皇子だろうと、たとえ第一皇女だろうと、君はクラティラスを守るためなら一歩も引かず戦うんだな。可愛い顔して、とんだ跳ねっ返りだ。類は友を呼ぶ、ってやつかな?」
くすくす笑うペテルゲ様に、私達三人は顔を見合わせて首を傾げ合った。そして『あたしが跳ねっ返り扱いされるのは解せぬっす』『跳ねっ返りといったら、やっぱりステファニよね』『いや、クラティラス様こそ跳ねっ返りでしょう』といった会話を目だけで交わし合う。
そんな私達をしばし眺めてから、ペテルゲ様は春の陽射しみたいにあたたかな声で言った。
「クラティラス、本当に良い友だな。こんなにも深く強く思い合える友に恵まれて、君は幸せ者だ」
その言葉に私も微笑み、二人の肩を両腕に抱いて応えた。
「ありがとうございます。リゲルもステファニも、私の自慢の友ですわ」
するとリゲルはえへへと笑って抱き着き返し、ステファニはほんのり赤みを帯びた頬を隠すようにむんぎゅと私の肩に顔を埋めてきた。
はぁ、二人共可愛い可愛い。いいこいいこしたくなっちゃう。
「……カミノスにも、君達のように打ち解けて話せる友がいれば、また違ったのかもしれないな」
ペテルゲ様の声は憂いを帯びていて、私は
「俺がクラティラスに会いに来たのは、カミノスのせいで心痛めてるだろうと心配だったからというのもあるが、もう一つ……君に報告したいことがあったからなんだ」
ステファニに何事かを囁き、場所を交代して私の隣に座り直すと、ペテルゲ様は急に真顔となって静かに告げた。
「カミノスの件を、第一皇子殿下に訴えた。イリオスに関してはもちろん、俺が観察していただけでも他の生徒や教師への暴言の数々に横柄な態度、果ては護衛を使っての脅迫や暴力まで見受けられたのでな。ある程度のワガママには慣れているが、あまりに度が過ぎる。このまま放置しておくわけにはいかないと思い、第一皇子殿下から皇帝陛下へお伝えいただくことにしたんだ。俺が直に手紙をお送りしても、読まれもしないだろうからな」
ペテルゲ様から打ち明けられた内容に、私は唖然とした。
カミノス様……この短期間でヘイト値をどんだけ上げてんの? 一気に悪役令嬢の土台を固めちゃったじゃないの!
「特にこの学校は、アステリア王国屈指の名門校ですからね。将来、国の重要な役割を担う職に就く者も多いです。カミノス様の悪行は、そのような者達にヴォリダ帝国への悪印象と不信感を植え付ける行為に等しい。早めに戒めるべきだと考え、迅速に行動なされたペテルゲ様の判断は賢明です」
ステファニは別のところで感心したようだ。
確かにそっちが本題なんだけど、私にとっては悪役令嬢脱落の危機も大切なわけで!
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