腐令嬢、精魂果てる


「もう話し合いはお開きでいいかしら……いろいろと疲れたわ」


「僕ももう帰って寝たいです……身も心もボロボロなんで」


「あ、待って。もう一つだけ!」



 もうライフはゼロよ状態の二人が、死ぬほど嫌そうに私を見る。何だよ何だよ、ノリ悪いなー。



「質問っていうか、プルトナにお願いなんだけど」


「はぁ? なぁにぃ? うっかりバラしちゃったイリオス殿下の秘密に関する記憶を消してほしいのぉ? アタシもそうしてあげたいのは山々だけど、さっきも言ったようにこっちの世界では下手に霊力を使えないのよねぇ。アタシの力って、人間には強すぎるし影響も大きいから」



 プルトナの霊力は抵抗力の弱い人間相手だと細やかなコントロールができないらしく、うまくいっても全記憶を抹消して赤子の知能に戻せるかどうかというレベルだそうな。うまくいかなかったらどうなるのかと尋ねると、本人だけでなく全人類の記憶からも『クラティラス・レヴァンタ』という存在が消えるだろうとのことで……つまり大は小を兼ねないってわけみたい。


 てか何でイリオスの秘密をまた蒸し返すかなぁ……もう魔法出す気力もないみたいだけど、視線だけで殺せそうな恐ろしい目で睨んできたじゃん。プルトナってドМなのかなぁ。


 それはさておきよ!



「最初の方で『精霊は人間に似てる』って言ったじゃない? だったらプルトナも本当の姿は人間っぽいんだよね?」


「え、ええ……そう、だけど」



 むぎゅっと肉球ごとプルトナの両手を握り、私は興奮気味に訴えた。



「見たい! プルトナの本当の姿、ちょっとだけ見せて! ねえ、江宮えみやも見てみたいよね!?」


「た、確かに興味ありますな。ラノベでも精霊の姿は描写されてませんでしたし」



 殺意フルスロットルのガン付けを止めて、江宮もいそいそと私の隣にやってくる。


 プルトナを挟んでベッドに座った江宮と私は、左右から懇願した。



「ねえお願い、一回だけでいいから! 誰にも言わないから! 精霊様の神々しい御姿を拝見させてくださいっ!」


「僕の秘密を覗いたんですから、プルトナさんも少しくらい秘密を見せてくれてもいいんじゃありません? 本当の姿を拝ませていただければチャラにしますから、どうかどうか!」



 プルトナは、えーでもぉー恥ずかしいなぁーと全身をくねくねさせて焦らしていたけれど、満更でもなさそうだった。



「し、仕方ないわねぇ。でも覚悟してよ? 隠してたけど、アタシ結構美形なのよ。あなた達、婚約してるじゃない? なのに二人がアタシに惚れちゃったら、大変なことになるじゃない? 余計な火種は撒きたくないから見せないでおきたかったんだけれど……そこまで言うならいいわ。見せてあげる」



 むしろ見せたかったんじゃないかと思うような口ぶりで告げると、プルトナはすとんと床に降りた。



 やった! 未知なる精霊男子を拝める!!


 しかも美形だってよ! 誰とカプらせよう!? いやまずはどの種類のイケメンかを見極めてからだな!!



 期待に漲る視界の中、プルトナの全身がスモークのような煙に包まれる。


 これが晴れたら出てくるのは、ディアス殿下のような私の好みドストライクのクール系長髪イケメンか、言動を裏切って最推しのペテルゲ様のような褐色黒髪ワイルド系のイケメンか、はたまたネフェロのような正統派イケメンか、やはりレオやハニジュエみたいに性別を超えて萌えられる中性的なイケメンか――。



「何で……そんな顔、するのよ?」



 プルトナが不満げに問う。


 希望に満ちた笑顔のまま、私は真っ白に燃え尽きていた。隣の江宮も同じだろう。



 ――――煙の中から現れたのが、国王陛下から髪を取っ払って髭の量を倍にし、おまけにでっぷりと肥え太らせて手のひらサイズに縮め、さらには頭のデカさと首から下が同じサイズという狂った二頭身という、とんでもなく気持ち悪い小さなおっさんだったからだ。



 もう精根尽き果てたので、第一回精霊と話そう会はそこで閉幕となった。


 次回開催は未定だが、聞きたいことがあったらまた集まろうということで、プルトナが部屋を元の空間に戻してイリオスが帰ると、私もすぐに寝た。



 その夜は、例の夢を見なかった。


 代わりに、頭でっかちのちっこいおっさんがどこからか無限に湧いて、群がられて必死に逃げる夢を見た。とても怖かった。

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