腐令嬢、アゲる


 我々のアゲアゲ作戦は大成功、プルトナのゴロゴロは止まらない。これならそろそろ質問コーナーを再開しても大丈夫そうだな。



「ところでプルトナ。『聖女』とか『女神』とか名付けたのは私達人間だっていうのはわかったけど、力を分ける相手は女子限定なの?」



 念を入れて腰掛けているベッドから身を乗り出して手を伸ばし、猫の弱点だという尻尾の付け根をモミモミしながら尋ねてみる。


 モミモミの効果はてきめん。プルトナは喉を鳴らしたままうっとりと目を閉じ、ヨダレを垂らしそうなほど緩んだ口を開いた。



「あふぅん……そこぉ、いいぃぃん……そうよぉ……アタシが力を分けるのはぁ、女の子だけなのぉぉぉ。だってぇん……異能を持つならぁ、やっぱり女の子がいいじゃなぁい? 女の子がぁ世界を守る、女の子がぁ世界を救うってぇ……アツいでしょぉぉぉ……んにゃあ!?」


「異議あり!!」



 私はモミモミの手を止め、立ち上がった。



「異能を持つなら女の子がいいだあ? ふざけんな、異能バトルといったら主役は少年だろうが!」



 至極のケツモミを打ち切られたことが余程辛かったようで、プルトナが泣きそうな目でこちらを見る。


 はっ、打ち切りで泣いた回数なら負けてねーぞ。萌え散らかして読んでいた少年漫画が、一体どれだけ俺達の戦いはこれからエンドで打ち切られたと思っている?


 蘇りしこの胸の痛み、思い知るがいい!



「いたいけな少年達が友情、努力、勝利、この三大原則に基づいて、傷付き傷付け合いながらも強く逞しく、そして優しく大きく成長していく姿こそが異能バトルの醍醐味! そこには女との恋愛なんざお呼びじゃねーんだよ! たまにいるけど、勝手な行動取って敵に捕まったり、恋愛脳が過ぎて戦闘中にも男を眺め回してたら不意打ち食らって瀕死になったりするヒロインポジションの女、あれ何なの? 足引っ張る役割しか果たしてないじゃねーか! せめて対等に戦えるようになってからしゃしゃって来いや! くそぉぉぉ……あの女のせいで、私の推しが死んだんだ……あの女だけは絶対に許さねぇぇぇ……!!」



 某作品での納得いかなさすぎる結末を思い出し、私はその怒りを平手に込めてプルトナのケツをペンペン叩いた。



「痛い、痛いってば、クラティラス! ちょちょっと、あなた一体どうしたの? な、ななな何で殺意の波動に目覚めてるの!?」


「クラティラスさん、やめてください。プルトナさんは何も悪くありません」



 そう言ってイリオスがプルトナを抱き上げ、私の平手攻撃から避ける。おかげで私はバランスを崩して、のめるように頭から床へと突っ込む羽目となった。


 ちくしょう、こんな目に遭うのも、私の推しが身代わりになって死んだというのにのうのうと生き延びやがったあの女キャラのせいだ!!



「プルトナさん、ご安心ください。僕にはあなたが女の子を選んだ理由がよくわかりますぞ! やはり聖なる力を宿すといったら女の子……魔法少女は全世界共通のテッパンですからな! 女の子達が助け合い、時にぶつかり合いながらも絆を深めていく姿って良き良きですよね。いやー、プルトナさんとは話が合いそうです!」



 生まれ変わっても忘れられない我が深き悲しみなど綺麗にスルーし、イリオスがオタイガーの本性を剥き出しにしてプルトナに嬉々として百合の素晴らしさを語る。


 すぐに私の怒りの矛先は、この世界にはいない某作品のヒロインからそちらへ向いた。



「はあー!? 魔法少女が全世界共通のテッパンー!? 戦隊ものとか変身ヒーローものとかロボものとかで活躍する青少年達も忘れてもらっちゃ困るんですがー!?」


「何と言われましても、精霊様の思し召しですしー? この世界には戦隊も変身ヒーローもロボもいませんしー? それにどうせあんた、活躍する青少年達を腐った目で見るんでしょーが。いちいち気持ち悪いんで、プルトナさんのやり方に口出ししないでもらえますー?」


「自分だって魔法少女をキモキモしい目で見てるくせに、偉そうに抜かすな! プルトナだって一回少年を選べば、私の気持ちがわかるはずだよ! ねえプルトナ、次は男の子にしよ!? 大丈夫、私が男の子同士の良さを手取り足取り教えるから!」


「精霊をヘドロ地獄みたいなBL沼に引き込もうとしないでくださいよ、クソウル!」


「そっちこそ勝手に同類百合認定して、精霊のお墨付きもらったような気になってんじゃねーよ、クソオタイガー!」


「もうやめて! ごめんなさい、アタシが悪かったわ! 女の子ばかり選んだ本当の理由は……憧れと、嫉妬だったのよ!」



 噛み付きそうな勢いで顔を突き合わせ、怒鳴り合っていた我々の間から、泣きそうな声が飛ぶ。二人で首を下に向けると、イリオスの腕にいたプルトナが蒼い瞳に涙をいっぱいに溜めて震えていた。



「そうよ、どうせアタシは根性が悪いわよ! 自分がなりたくてもなれなかった女の子に脂肪を押し付けて、おめーもデブってしまえって思ったのが最初のきっかけだったわよ! でもどいつもこいつもデブるどころか、アタシの力で活躍してちやほやされやがる子までいて……ふざけんじゃねーわよ! めちゃくちゃ腹立って仕方ないわよ! なのに何故か彼女達の行く末が気になって、ついつい見守っちゃうってどういうこと!? 国を守ろうと頑張る姿に胸打たれたりだとか、平穏に生涯を終えられた子の安らかな死顔を見て、ほっとするやら悲しいやらで号泣したりだとか、本当に意味わかんない! 何でこのアタシが、人間なんかに母性に目覚めてんのよ! アタシもダクティリみたいに、可愛い女の子がほしくなってきちゃったじゃないの! 相手はいないし、何よりアタシは生むこともできないっていうのにさあ!」



 アオンアオン声を上げて泣くプルトナを見ていたらケンカする気力も失せて、私とイリオスは協力し合って必死に彼女……いや、彼? を慰めた。



 プルトナってやっぱり女じゃなくてオネエなのかぁ……そうかぁ……そうだったかぁ……。

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