腐令嬢、ざわつく
熱は下がったものの大事を取ってもう一日休み、医者の許可を得て二日後、私は元気に学校へ登校した。
「クラティラスさん、おはようございます! もう体は大丈夫ですか? 無理しちゃダメですよっ!?」
教室に入った私を真っ先に出迎えたのは、ふんわりボブヘアに包まれた可愛い顔を嬉しそうに綻ばせ、心配そうに曇らせ、プンスコと頬を膨らませと多彩な百面相で魅せてくれる愛しの親友リゲル。
ゲーム通りの美少女に育ったけれど、生のリゲルはゲーム以上に可愛い。この子になら断罪されてもいいやって思えるくらい可愛いったら可愛い。
「うん、熱も下がったし大大大丈夫だよ。それよりレオ、怒ってなかった? ちゃんとお礼を言ってお金を返したかったのに、結局リゲルに任せちゃったから……」
アゲアゲチキンの代金とお礼の手紙は庭師のイチニ達にお願いし、伝書鳥を使ってリゲル経由でお届けした。風邪が治ってから行こうと思ったんだけど、こちらは明日から期末テストなもので時間が取れそうになかったのだ。
「ぜーんぜん! 怒るどころか、クラティラスさんに会いたがってましたよ。今度こそあの女をギャフンと言わせるんだって息巻いてました。やばいですよ〜、レオって常にバーサク状態ですから、次にエンカウントしたら問答無用でギャフンと言わされますよ〜」
「やっだ〜、こっわぁ〜い。今度会ったら問答無用で第一声にギャフンって言ってさしあげよーっと」
「クラティラスさん、ひど〜い。レオの拗らせおバカがますます進行しちゃうじゃないですか〜」
長年の幼馴染ではあるものの、リゲルも私と同じでレオに対しては『いじり甲斐のある面白キャラ』という認識のようだ。
まぁこんなだから、レオからの矢印はあんなに丸見えなのに、ゲーム開始の高等部になるまで恋愛関係に発展しなかったんだろうな。レオ、強く生きろよ……。
「ねえ、クラティラスさん」
「なぁに?」
休んでいた分のノートを借りて書き写していると、隣からリゲルが声をかけてきた。
「……あたしは何があっても、クラティラスさんのことが大好きですからね。クラティラスさんがあたしを嫌いになろうと、それだけは変わりません。だから、クラティラスさん」
いきなり何を言い出すのかと見つめ返した私の瞳に、リゲルの黄金の瞳が揺らめく様が映る。しかしそのゆらめきは、すぐに彼女が浮かべた柔らかな微笑みに溶け消えた。
「卒業試験、頑張りましょうね! クラティラスさんと一緒に、高等部に行けたらいいなぁって思ってる、から」
「そ、そうね、頑張らなきゃね。とにかく今は期末テストよ。今度という今度こそは、トップに躍り出て焦らせてやるわ!」
この誤魔化し方は、あまりに雑だったように思う。だけど私には、これ以上にうまく取り繕えなかった。もしかしたら、どこかで彼女に悟らせてしまったのかもしれないと感じたから。
突然リゲルがあんなことを言ったのは、私の進路に勘付いたせいではないか。本当は、遠くに行っても友達だと言おうとしていたんじゃないか。行けたらいいな、なんて曖昧に濁したのは、それが叶わないと知っているせいじゃないのか。
私の勝手な想像だ。その後に見せたリゲルの笑顔が、無理しているように苦しげで寂しげに感じたのも、気のせいで済ませようと思えば不可能じゃない。
けれども、リゲルはもう知っている気がする――――それはほとんど確信に近い感覚で、私の心を刺した。
期末テストが終わる頃には、アステリア王国は一面の銀世界となっていた。
テストの結果は、学年総合七位。けれど私は過去最高ランクを更新したことへの喜びより、悔しさで地団駄を踏み散らかした。
毎回満点に近い成績を取るリゲルやイリオスにはやっぱり及ばなかったかぁ。アステリア学園中等部最後の期末テストだったのに、ついにトップデビューできなかったよ……あな口惜しや、あな口惜しや。
来期は中間テストや期末テストがない代わりに、卒業試験が行われる。トップを獲るのは無理だとしても、この調子なら落第することはないだろう。
しかし、私の目的は卒業試験の突破だけじゃない。卒業資格が必要なのは、プラニティ公国の学校に行くためなのだ。それには受験にも合格しなきゃ。
実は夏休みになってから、私が目指してる学校の過去問題集を図書館で見付けて、こっそり借りてきたんだ。それがさ、ものすごく難易度が高いんだよ。何というのか、問題がどれも捻くれてるんだよね。それだと思った? 実はこれでしたーみたいな感じの引っ掛けトリックが満載の応用問題ばかりなの。
やっぱり人気の学校だけあって、ふるいがけは厳しいみたい。
でも負けるもんか。何としても合格して、在学中に受賞経験を積んで画家デビューして、うまいことイリオスとの婚約を解消して、死亡エンドを回避して生き延びて、BLの素晴らしさを世界中に広めてやるんだから!
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