親友側近復帰

腐令嬢、ベッタリす


「クラティラス様、おかえりっす!」


「いやー、今日もべっぴんさんっすね!」


「髪飾りが美しさを引き立ててますよ! やっぱその髪飾りはクラティラス様が装備してこそですね!」



 学校から帰宅して門をくぐり抜けたところで、庭から元気良く声をかけられる。


 わざわざ確認しなくても、もう私にはどれが誰の声か聞き分けられるようになっていた。最初から順にゴロク、イチニ、サンシ――現在、彼らマンオク兄弟は、レヴァンタ家の庭師見習いとして雇われている。



 何で奴らが家で働くことになったのかっていうと、お母様がいたくこの三人を気に入っちゃったせいなんだよね。ほら、こいつら鳥を自在に操るじゃん? その特技がプルトナの運動不足解消に役立ちそうだってことで。


 私がお父様にお願いした彼らへのお礼も、既に果たされたらしい。あの倉庫を三人の手に戻してほしい――その訴えは叶い、彼らは今あそこで兄弟三人で仲良く暮らしているそうな。


 にしても、毎回わざとらしすぎるんだっつーの! もう私を男と思い込んでいたことは忘れてくれよ……逆に傷付くし、勘違いしてたことを申し訳なく思ったレイが弟達の分も代表して謝ろうとまた化けて出てくるかもしれないじゃん!



 あれから一週間が経つ。既に通過儀礼みたいになっている三人の挨拶をすり抜け、私は玄関へと向かった。

 その僅かな時間で、ひっそりと憂いを溜息にして吐き出す。これも、この一週間の常となっていた。



 今日も、ステファニとイリオスは学校に来ていなかった。


 私はあの翌日から普通に登校したけれども、二人はずっと欠席している。ステファニからもイリオスからも、連絡一つない。もうすぐ夏休みが始まる。恐らく今季は二人には会えないのだろう。



 そう考えて諦めていた――――のだけれども。



「おかえりなさいませ、クラティラス様」



 開かれた扉の向こうで、アズィムとネフェロと共に私を出迎えてくれたのは――――まさかのステファニ!



「ズデブァギィィィ…………!!」



 デフォルトの無表情の彼女を見るや、私の両目から体内の全水分が放出されたかというほどの涙が溢れた。



「クラティラス様、どうして泣くのです? 相変わらず本当にきったない泣き顔……いえ、独創的で表現豊かな泣き方をされますね。毎度ながらドン引き……いえ、感激します」



 ディスりつつフォローしつつ、いつものようにステファニがハンカチで涙を拭いてくれる。


 それが嬉しくて、私はさらに泣いた。アズィムがついにネフェロに申し付けてバスタオルを用意させるほどに泣きに泣いた。ステファニに会えた。ステファニが戻ってきた、ステファニが側にいる。これまで当たり前に彼女と過ごしてきたひとときはこんなにも幸せなことだったのかと、失いかけてやっと知れた喜びを噛み締めながら。



 けれど感涙に湧くことができたのは、その時だけだった。



 やっと泣き止んだ私は、珍しく揃って在宅していた両親の口から知らされたのだ――――今朝、国王陛下より直々に知らせがあったことを。ステファニが再び『第三王子殿下の側近』に任命されたことを。そして一学期が終わると同時に、ステファニはレヴァンタ家から王宮に戻されるということを。


 これには、とても驚いた。けれど不満はなかった。


 王家がこのような決定を下したのは、第三王子の禁忌を知ったステファニを目の届くところに置いて、監視するためだろう。秘密裏に処刑されてもおかしくないところを生かしてくれた上、イリオスの側近に再び迎えようというのだ。感謝こそすれ、文句など言えるはずがない。


 それでも、私は素直に喜べなかった。


 まず、ステファニ自身がこの決定をどう考えているのか?


 私には、ステファニは特に変わったところなどなく、落ち着いてこの決定を受け入れているように見える。だけどゲームのステファニなら、きっと――――。



 悶々している内にも時は過ぎ、あっという間に学期末となった。ステファニが王宮に帰るのは、いよいよ明日。


 引っ越しのお手伝いをするという名目で、私は家でもステファニの側にずっと付いていたのだが、ついに彼女の本心は覗えなかった。


 そりゃそうだよ。普通に考えたら、超絶怒涛の高待遇だもの。

 少しでも不満そうな顔なんか見せたら、何故だと全方向から突っ込まれかねない。誰よりもステファニ自身、過去に『あんなことがあった』なんて絶対に知りたくないし知られたくないだろうから。

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