腐令嬢、名付ける


 ニワトリぐるみにごねるデスリベはなかなか可愛いけれど、このまま騒がれ続けたらまたイチニ達が飛び込んできそうだ。


 彼らを怒らせてしまうのも怖いけれど、それ以上に第三王子がここにいることがバレたらどうなるか。アホ揃いなだけに、逆上したら何をされるかわからない。下手すると証拠隠滅のために、三人まとめて始末してしまうなんてことも……。



「デスリベ、あの……落ち着いて? 私は嘘なんてついてないわ? きっと夢を見たのよ?」


「嘘にゃ嘘にゃ! ボクの夢に出てくるのはイリオスしゃまじゃなくて、女体化したイリメスしゃまにゃ! ちょっぴりSっ気のあるイリメスしゃま✕意地っ張りツンデレなクラティラスしゃんのイチャイチャケンカップルぶりはとっても可愛いにゃ! こないだついにおててを繋いだんにゃ!」



 懸命に宥めようとしたけれど、デスリベはむずかる子どもみたいにイヤイヤポカポカを止めようとしない。


 てかイリメス✕私て……お前、そんな恐ろしい夢見てんのか!? 勝手に登場させて勝手にイチャつかせてんじゃねーよ、迷惑な!



「デスリベ、お願いだから話を聞いて! えっと……話し声がしたのよね? それ、どっちも私なのよ! 恥ずかしいから秘密にしておきたかったけど、声色を変えて一人で会話してたの!」



 もう埒が明かない。そう思って、私は適当に捻り出した言い訳で落ち着かせようとした。



「へえ……何でそんなことしたにゃ? 一人会話などという不毛な行為に何の意味があるにゃ?」



 イヤイヤポカポカを止めて、やっと私の方を向いてくれたデスリベだったが、問い返す声も視線も冷ややかだった。


 わあ……寝ぼけてるくせに、ツッコミは冷静なんですね。



「そ、その……さ、寂しくて? ほら、イマジナリーフレンドって聞いたことない? 空想で作る友人よ。実は私、昔は友達が全然いなかったんだ」



 友達と呼べる存在が一人としておらず、孤独な幼少期を過ごしたこと――これはクラティラスと前世の私、大神おおかみ那央なおの数少ない共通点だ。


 その際、私はBL趣味に理解のある友人を妄想で創造して大変お世話になった。


 クラティラスはワガママが過ぎて、大神那央は早々とBLに目覚めたせいで奇行と奇怪な言動に周りをドン引きさせたためと、それぞれ理由は違うけれど、私達には案外似てるところもあるのかもしれない。


 もしクラティラスにも、イマジナリーフレンドがいたら……などと考えていたその時だった。



「そ、そうだYOー? クラティラスさんは嘘なんてついてないYOー?」



 気持ちの悪い裏声に、私は振り向きたくないのに振り向かざるをえなくなった。



「えっと……どちら様、です?」



 これには寝とぼけていたデスリベも目が覚めたようで、素のロイオンに戻って問いかける。



「えっ、えっとー、僕はー、クラティラスさんのー、イマソカリーフレンドだYOー」



 ブランケットを被ったまま、イリオスは苦しいにも程がある自己紹介をした。しかもクソひどすぎる棒読みで、さらにオーバーリアクションで、おまけにお父上でいらっしゃる国王陛下のプライベート口調で。


 何こいつ……一人でインフェルノならぬキモフェルノを体現してんの? ずっとキモいキモいと思っていたけど、今ほどキモいと感じたことはないわ!


 てかイマソカリーフレンドって何だよ!? あなた、イマジナリーフレンドをご存知ない? 知らねえならしゃしゃって来んな!!



「わあ、ボクにも見えるよ! これがクラティラスさんのイマイチナーフレンドさんなんだね!」



 なのにロイオンデスリベは、この奇怪な存在をすんなりと受け止めてしまった。こっちはイマイチナーフレンドときたか。うん、間違ってねーわ。



「あらあらまあまあ、イマジナリーフレンドって普通は見えないはずなのよねー。思いが強すぎて具現化しちゃったのかしらー。いいえ、デスリベの感受性が強いせいねー。デスリベは本当にいろいろとすごいわねー」



 せっかく存在をうまく隠してやろうとしたのに余計なことしくさりよって妄想にしたってお前なんか生み出さねーわ頼むから今すぐ消滅してしまえという思いを込めて、イマイチナーフレンドの顔面に裏拳を連打しながら、私も棒読みで説明した。



「いていていてて……え、イマソカリーフレンドって見えないのが普通なんですか? あらら、そいつぁやっちゃいましたなー」



 ついでに素に戻りかけやがった上にネタバレしくさろうとしたから、反対側の手で鳩尾にパンチもくれてやったよ。自分で始めたことなんだから、責任持ってやり遂げろっつーの。



「一人より二人、二人より三人と言いますろ! イマイチナーフレンドさんもいるなら心強いっちゅね! あ、ボクはデスリベでごわす。よろしく!」



 適応力の高いデスリベはイマイチナーフレンドの存在をすぐに受け入れ、笑顔でご挨拶した。デスリベのこういうところ、ある意味尊敬するわ。



「ところで、イマイチナーフレンドさんにはお名前はないのでげすか? せっかくお知り合いになれたんじゃき、お名前で呼び合いたいれす」



 ほっこりとしていた私の隣で、質問を向けられたイマイチフレ(イリオス)はたじろいだ。



「えっ!? な、名前……YO! HEY! クラティラスさん、ホウ、チェキラ! エビバデ、セイッ!」



 顔は見えないし何を言ってるのかさっぱりだけれど、イマイチフレ(イリオス)がものすごく焦り狂いながら私に助けを求めているのはよく伝わった。


 そろそろ哀れになってきたわ……らしくもないキャラ作りすると、こんなに痛々しいものなんだね。



「ええと、彼の名前は………そ、そう、レイよ!」



 咄嗟にその単語を口にしたのは、最初に幽霊と勘違いさせられたことを思い出したからだ。急な名付けではあったけれど、短くて呼びやすいし我ながら悪くない。



「レイさんとおっしゃるのけ。仲良くしてくんなはれ」


「は、はいですYOー。こちらこそよろしくですYOー」



 というわけで余分な奴が一人増えたので、我々はこれからどうするか、どうしたら良いかを改めて話し合うことにした。

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