腐令嬢、大志を抱く
ステファニや家人達は、冷戦状態だった私とお兄様がついに爆発して、大喧嘩したと思っている。
リゲルを始めとする学校の皆は、突然決まったお兄様の海外留学に私がショックを受け、寂しがっていると思っている。
BLに目覚めてからずっとネフェロ✕ヴァリティタ推し、特にお兄様に対して並々ならぬ思い入れがあるアンドリアにまで慰められた時には、申し訳なさでいっぱいになった。
お兄様の婚約者であるパスハリア一爵家令嬢のサヴラは、春休みの間に知らせを受けていたらしいけれど、特に変わった様子は見られなかった。表面上は私とそれなりに仲良くしている風を装っている点も同じ。
一つだけサヴラの変化を挙げるとすれば、私と同じで勉強に力を入れ始めたようで、えらく成績が伸びたことかな。元々そこまでアホではなかったものの、新学期開始と同時に行われた学力テストでは総合十位圏内にまで食い込んでいて驚いたよ。
私の方は、掲示板に貼り出される総合トップ20には入れなかったけど、得意科目の数学で善戦したおかげもあって、初めて生徒の半数より上の順位を収めた。フフン、私だってやりゃあできるのよ! やらないだけで!
さてさて、私が熱心に勉強し始めたのには、ちゃんと理由がある。
実はね…………高校からは、プラニティ公国の学校に行こうと思ってるの!
もちろん、現在お兄様が留学している学校ではない。調べてみたところ、プラニティ公国にはアステリア王国以上にいろんな学校があって、しかも奨学金制度も充実してるとわかったんだよね。プラニティには、貴族っていう特権階級にいる人間の数が少ないというのもあるかも。そのせいもあって、国の気風も自由なんだそうな。
アステリア王国よりもプラニティ公国の方が、私に合ってると思わない? 思うよね?
さらに良さげな学校も見付けちゃったんだ〜。奨学金バッチリ、寮アリ、成績優秀な者は就職まで斡旋してもらえるっていう良物件の美術学校をね!
アステリア王国では、絵で食っている人間なんてほんの一握りだ。しかし芸術面に力を入れているプラニティ公国では、絵画を生業としている者は珍しくないという。ますます私向きじゃない? こうなったら行くしかない、プラニティ公国に!
ところがこの学校、国内外問わず人気で倍率が高いんだわ。そのせいで、最初に数を絞る学科試験のレベルも鬼高なんだよねー。そっちでもアホはお呼びでないってわけ。
じゃあ、どうするの? アホだから諦める? そうはいかねーっつーの!
私は戦うと決めたのだ、一人で生きていくために。
大嫌いな勉強だって、死ぬ気でやってやるとも。このまま放置してたって、どうせ死ぬんだから。
それにもしかしたらこの行動が、私の末路を変えるかもしれないじゃん? 全てを日の下に晒して、レヴァンタ家と縁を切って、第三王子から早期に婚約破棄していただく。そうなれば、ゲームのクラティラス・レヴァンタとは全然違う道を切り拓くことに繋がるはずだ。
プラニティに移住して雲隠れしてしまえば、私の命を奪おうと目論んでいるという暗殺者だって追ってこないだろう。
そう、私はクラティラス・レヴァンタであってクラティラス・レヴァンタではない。
見事なまでにBL沼の底に沈み、腐り果てた腐女子だった私、
メンズとあらばあらゆる掛け算を試みて萌えを見出し、中学の頃からオンでもオフでも同人活動するほどのBL脳だったのに、何故転生先が山ほどプレイしたBLゲーじゃなく、嫌々クリアした初めての乙女ゲームだったのか。こんな目に遭わせた神という奴が男なら、えげつない妄想で消え入りたくなるほど辱めてやりたい。
おまけに役柄は、ヒロインをこれでもかといじめ倒す悪役令嬢。ついでに全ルートで死亡エンド確定という不憫キャラときたもんだ。
この悪役令嬢、クラティラス・レヴァンタ一爵令嬢の死については、お子様に配慮してか、簡易なテキストで『あいつ、自殺したってよ』的な文句が流れるのみ。コンセプトが『乙女にこどももおとなも関係ない! 誰でもキュンキュンできる乙女ゲーム♡』だったからね……基本的に世界観もクソほど緩いんだ。
ところがだ……クラティラスは自殺したわけじゃないんだと!
続編となるライトノベルが出てたらしくて、それによると何と暗殺されちゃうんだって!!
その事実を教えてくれたのは、ゲームにおけるメイン攻略対象、イリオス・オルフィディ・アステリア第三王子殿下。彼はアステリア学園中等部のクラスメイトであり、私の現在の婚約者であり――そして中身は大神那央と同時に事故に巻き込まれて死んだ高校の同級生、オタイガーこと
奴とは前世から馬が合わず反りが合わず、何なら趣味も合わず、ずっと宿敵認定し合ってきた。しかし何やかんやで、今は一応の一応の一応の一応、友人関係となっている。
ちなみに我らを友達に昇格させるためにあれこれ仕組んだ人物こそが、ゲームのヒロインであるリゲル・トゥリアン。
ゲームでは彼女は私によって命の危機に迫るレベルでいじめ倒されていたが、現実ではそんなことにならないと断言できる。だって、私達は最高に気の合う腐レンド同士なんだもん。
BL沼に堕ちたその瞬間から、彼女は類稀なる才能を開花した。今では私も圧倒されるほどの妄想力で殿方✕殿方のカプを語り、この世界初のBL小説を書き、同志達に至高の萌えを提供してくれるまでに成長した。沼に引きずり込んだ張本人としては、誠に誉れ高い。
このせいで彼女がまともに恋愛できなくなったような気がしなくはないけど……高等部になれば環境が大きく変わるはずから、きっと大丈夫。ゲームでは愛され爆撃機の異名をほしいままにして、モテモテの逆ハー状態だったもんね。
そんなわけで、アステリア王国でのBL布教は彼女に任せようと思う。私はプラニティ公国で、一から同志を募るのだ。
いつか再会する時――――それが両国同時開催の巨大BLイベントだったらいいな。叶えるためにはきっと何年もかかるし、私が生きている保証もないけれど。
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