アステリア学園中等部三年

声無き声


 ――――誰か、助けてください。



 そう叫びたくとも、声を上げることは許されない。声にならない叫びを笑顔で隠し、生きるしかなかった。


 何もかもが順風満帆。少なくとも周りからは、自分が幸せを謳歌しているように見えているのだろう。


 けれど実際は違う。本当は、本当に自分が望むものは――。


 知りたくなかった。知らずに、生きていきたかった。けれど知ってしまった。知ったからにはもう、知らない自分に戻ることはできない。


 なのに今の自分にできるのは、知らぬフリを押し通し続けることだけ。


 それが叶わなければ、きっと殺されるだろう。自分は、ここにいてはならない者だから。


 死など厭わない。けれども、あの人の美しい手を汚させたくない。


 お願い、邪魔をしないで。たった一つの救済の道を、閉ざさないで。



 ――誰か、助けてください。



 あの人を愛していた。この想いを打ち明けることなど決してできないとわかっている。それでも、あの人を心から愛していた。


 だから何故あの人なのかと嘆き、絶望し、打ち拉がれた。


 自分がどうなろうと構わない。あの人だけは、この恐ろしい呪いの連鎖から解放したかった。


 しかしどれほど祈れど願えど、この思いは届かない。自分の力では、結末を変えられない。


 自分は所詮、囚われの身。

 ならばもう、他の者に託すしかない。無力な自分と違い、未来を覆すことができそうな者に。



 ――――誰か、助けてください。救ってください。止めて、そして変えてください。


 ――――あの人と共にこの世界が向かおうとしている、悲しい末路を。

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