《書籍発売三ヶ月記念SS》腐レンズ、企画す
「ではこれより『サプライズDEどっきゅんこ☆おったまぶったまげ〜なビックラティラス様を拝もう大作戦』の話し合いを開催いたします」
作戦隊長のステファニさんが無表情で宣言すると、あたしはその隣で円を描いて座る全員を見渡した。ステファニさんが命名したクソダサゴミセンスの作戦名には誰も突っ込みたくないようで、疎らな拍手だけが続く。
ここは商都の片隅にある、ブチプラが売りのカフェ。クラティラスさんとも一度来たことがあるお店で、期間限定商品がとても個性的なことでも有名らしいの。
その店の奥にある丸型の席に集っているのは、あたしとステファニさんを含めて七人。全員が『萌えBL愛好会(仮)』のメンバーだ。
けれど今日は、会長であるクラティラスさんの姿がない。何故ならこの会合は、彼女へのサプライズ企画を練るためのものだから。
クラティラスさんは最近、受験を間近に控えてナーバスになっているせいか、ひどく元気がなかった。
そこで心配したステファニさんとあたしが、日頃の感謝を伝えよう、どうせなら皆で驚かせちゃおう、とサプライズ計画を発案したのです!
「ではまず、何をするか考えましょうか。ご意見があればお願いします」
ホットミルクのカップを握り、掌で温もりを味わいながら、作戦副隊長に任命されたあたしは笑顔で促した。
が、皆さん揃って静かに俯くばかり。
まるで深窓の令嬢みたい……というか、この方々もクラティラスさんと同じで貴族のお嬢様なんだっけ。今日も彼女達の護衛の方が隣の席にいるというのに、すっかり忘れていたわ。
だって――。
「皆さん、どうしました? いつもなら、うるさくやかましくウザいくらいにお喋りしてくださるのに」
「リゲルさんが悪いんでしょう!」
声を荒らげて答えたのは、アンドリアさんだ。
「そうよ、こんな状況じゃ迂闊に喋れないわ!」
「『萌え語りは禁止』って……そんな縛り、あんまりよ!」
続いて、ドラスさんとミアさんも恨みがましい視線をあたしに向ける。
実はクラティラスさんへのサプライズをこっそり企画するのは、これで二度目。
前のバースデーサプライズの時は、皆して好き放題に自分の性癖を詰めた企画を語るものだから全く話がまとまらなかったの。
そこで今回は『己の萌え性癖を話すことは禁止、少しでも口にしたら罰ゲーム』というルールを設けたのだけれど……。
「だからって無言になることないでしょう!? あなた達は好みのBLカプと好きシチュ以外は何も話せないんですかあ!?」
「隊長、このルールを撤廃してください! もう我慢できません!」
あたしの叫びをスルーし、デルフィンさんがステファニさんに懇願する。すぐ側で、コーヒーを飲みながら仕事の打ち合わせをしているらしいオジサマ二人に萌えて我慢できなくなったみたい。
何て堪え性がないんでしょう……あたしだって、店内にいる殿方のみならず脳内で勝手に捏造したメンズキャラ達をカプらせ
ステファニさんは静かにドリンクを吸い込み続けていたけれども、ズギュズゴッという飲み終わりを告げる音と共にストローから口を離した。
「……皆様のご意見は、よくわかりました」
例によって機械音を思わせる淡々とした口調でそう言うと、彼女は一つ溜息を落とした。
「私も考えたのですが……そんなに深く悩む必要はないのでは? あの方、クソチョロいので。前回同様、適当に集まるだけでアホほど泣いてくださると思います」
わあ、投げやりだー……。
まあ、クラティラスさんがクソチョロいという意見には、あたしも全同意ですけれどね。
「ということで、私はリボンをかけたイリオス殿下を箱詰めにして贈る案を推します。ところでこのクリームシチュー
――――隊長自らによるルール撤廃宣言を受けるや、あたし達が解禁された萌えトークで激しく盛り上がったのは言うまでもない。
あ、イェラノさん?
彼女ならずっと絵を描いてましたよ。揉めている間も萌えトークが白熱しすぎてバトルになってからも、ずっとね。
了
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