腐令嬢、偲ぶ


 私に双子の妹がいたことは、イリオス――いや、江宮えみやもよく知っている。江宮に限らず、大神おおかみ那央なおの知り合いなら全員が嫌というほど知っているはずだ。


 前世ではスマホで撮影した写真を何度も披露したし、こちらでもリゲルには散々語って聞かせた。



 私が、どれだけ妹達を大切に想っていたかを。



 七つ年下の妹達は姉の自分なんかより百億倍も可愛くて、私にとって最大の自慢だった。可愛いだけじゃなく性格も良くて勉強もできて、スポーツ万能で姉の趣味にも理解があって――彼女達は、私の誇りだった。



 わかってる、わかってた。


 でも考えたくなくて、考えないようにしてた。



 大好きな妹達には、二度と会えないんだって。両親にも友達にも、再び会える日は決してやって来ないんだって。この世界に彼らがいないように、彼らの世界には私の存在などもうないんだから。



 だから会いたくても会えない妹達を、この二人に重ねた。この二人を、見殺しにするくらいなら、死んだ方がマシだと本気で思った。


 先に逝って悲しませた妹達の分も、お姉ちゃんとしてこの子達にできる限りのことをしてあげたかった。



 ちゃんと回収して、ついでに泉の水で綺麗に洗ってきたボールをディディの胸に抱かせると、私は止まらない涙で濡れた顔を寄せて二人にそっと囁いた。



「二人共、約束を守ってくれてありがとう。私も約束、守ったよ。これからは危ないことしちゃダメだからね? でも何かあったら、いつでも駆け付けるよ。お姉ちゃんが、必ず助けに行く。それだけは、忘れないで。お姉ちゃんのこと、ほんの少しでもいいから覚えていてね?」


「ん……お姉ちゃぁん」

「お姉ちゃん……お姉ちゃん」



 私の声に呼応するかのように、ジェミィとディディが寝言を漏らす。


 それを聞くや、愛する妹達の声が耳奥に蘇り――ついに、私の涙腺は崩壊した。



 ところが、ついうっかりオンオンぶちかましたのがいけなかった。私の大号泣で、二人が目を覚ましてしまったのだ。


 すると至近距離にいるサイクロプスの姿を見て、こちらも大号泣。可愛い女の子を泣かせてしまったと、ジョンさんも大号泣。


 オンオン、エンエン、ワンワン、ギャオンギャオンと奏でるカオスの慟哭ハーモニーは、参加してる自分が言うのも何だけど、それはそれはひどいものだった。




 警備部隊の女性に付き添われ、ジェミィとディディは何度も振り向いては手を振りながら家へと帰っていった。今度お礼に、私の似顔絵を描いてくれるんだって。楽しみ〜。


 それを見送ると、私はイリオスと一緒に隊員の皆様と先生方一人一人を回り、この度の無茶を深く詫びた。



 ああん? イアキンス?


 あいつぁダメだ。あいつだけは許せねえ。あいつに頭下げるくらいなら、頭もいでジョンさんに生首オブジェとしてくれてやるわ。どうやらこの意地悪面がお好みのようだし。



 そのイアキンス先生ですがー、私が無事に戻ってきたのを確認した途端、急に頭が痛くなったとかでお帰りになられましたー。


 あーあ、面と向かってお詫びの言葉を伝えたかったのに残念だなー。



 侵入禁止の森を徘徊したのは私の意志だし、一人で行くことを選んだのも私だ。


 だがな?


 自己保身を最優先した発言と私を突き飛ばして境界線外に弾いた行為は仕方なく我慢してやらなくもないけど、『必死で制止する自分を振り払って境界線を超えていった、自分も慌てて中に入って探した』って……さらっと嘘ついてんじゃねーよ!


 何より許せないのは、迷い込んだ女の子達のことまで黙ってた点な!



 そりゃイリオスだってカチキレるわ。双子の姿を見るまで、私が遊び半分で侵入したんだと思ってたみたいし。



 イリオスが知らせを受けたのは、私が森に入ってからかなり時間が経過してからだったという。動揺する隊員達に『森に詳しい者を知っている』と秘密裏に打ち明け、そのリゲルだけを伴って救助に行くことを納得させるまでにもそれなりに時間がかかったらしい。


 だからまさか無事に帰ってくるとは思ってなかったんだろうけど……それにしたって、ひどくない?


 森ではプンスコだったイリオスも、その話を聞くと同情したのか、王家専属シェフ特製の超スペシャルウルトラスーパーデラックスゴージャスなお弁当を分けてくれた。


 でも、ネフェロが作ってくれたお弁当の方が美味しかったもんね。それにパウンドケーキ横取りしたことだって、忘れてないんだからね!



 皆より二時間ほど遅れて弁当を食べ終わると、先に戻ったリゲルとやきもきしながら待っていたステファニの二人と合流し、やっと私は『普通の見学』に参加することが叶った。


 モンスターはほとんど現れず、観察は捗らなかったけれど、青黒のアレクくん――リゲル曰くオーガの亜種だそうな――とサイクロプスのジョンさんをあんなに間近で見られたんだから、大満足だよ。



 今夜のネタはそうだな……アレクくん✕ジョンさんのヤンチャショタ攻めと強面だけど心優しい年上受けのイラストでも描いてみよう。


 おっと、クソ当て馬役としてイアキンス先生も登場させてやらなきゃ。


 登場人物がそれなりに揃ってるし、せっかくだから四ページ漫画に挑戦してみるかな!

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