腐令嬢、熱弁す


 遠目になら、何度か拝見したことがある。

 だがしかし、このような近距離でお会いするのは初めてだ。


 アカン……第一王子やら王太子やら、高貴なるパワーワードに恐れ慄くどころじゃない。



 美しい、美しすぎるぞ!



 前々から思ってたけど、こうして改めて間近で見ると、やっぱりディアス様って私の初恋の二次元キャラ、壇上だんじょう神之臣かむのしん様みがあるよね。ありすぎて困るよね。


 ロングの銀髪に紫の瞳ってポイントも同じだし、クールエレガンスなムードも近いし。


 私のドツボを、がっつり掴んできよって……こんなの萌え不可避だろうが!



 ダメ、無理。尊い。死ぬ。死んで生き返ってまた萌え殺されるレベルですがなー!!



「お忙しいところに失礼いたします。こちらの者が、高等部生徒会長に相談があるとのことで連れて参りました」



 満ち溢れる気品と存在感に圧倒され、息を飲むことも忘れて見惚れていた私に代わり、イリオスが口を開く。


 ディアス様パワーに屈し、膝を折りかけていた私はその声で我に返った。おおう、うっかり目的を忘れて盛大に拝礼かまして、ディアス様の尊さを全力で賛美するところだったわ。



「し、失礼しました。中等部一年のクラティラス・レヴァンタと申します。新部活動の開設について相談したく、ご意見を伺いに参りました」



 たどたどしく挨拶すると、ディアス様は軽く小首を傾げてみせた。釣られて、長い髪が揺れて艶やかな輝きを放つ。


 それだけの仕草なのに、カッコ良すぎて腰砕けそうですことよ! あー、スケブ持ってくれば良かったーー!!



「中等部生の部活動設立については、中等部生徒会が全内容を把握し、公正な判断を下しているはずだが?」



 ひぃぃ……めっちゃ睨まれた! 怖い! でもイケメン! コワイケメン!!



 ダメよ、クラティラス……しっかりなさい。


 ここで萌え溶けても、屍は誰も拾ってくれないの。ならば人の形を保っていられる間に、萌え仲間達のために出来ることをしなきゃ!



「中等部生徒会に申請したのですが、先に類似した部活動を受理したと告げられて、その人物と話し合いをしたのです。すると、活動内容に大きな相違があって……」


「その類似した部活動を申請した者がイリオス、というわけか」



 さっすがはディアス様! 読みも理解も早い! 頭脳までイッケメーン!!



 隣でイリオスが頷くのを確認してから、私はディアス様に近付き、持参したファイルケースから二枚の用紙を取り出してデスクに置いた。


 一枚は突っ撥ねられた私の『薔薇の園』の申請書、もう一枚は中等部生徒会からいただいた『百合の苑』の申請書のコピーだ。



「確かに、記した活動の内容には似た点があります。けれど、私達の目的は根本的に異なるんです。またイリオスの方は語らいを主軸にしていますが、私の方はそれに加えて『創作活動』にも力を入れております」



 話している内にヒートアップしてきて、私は身を乗り出し、デスクを挟んだ向こうにいるディアス様に顔を寄せた。



「何でイリオスのアホゆるい内容の部活が通って、多岐方面に渡って真摯に取り組もうとしている私の方が不受理にされるんですか? 納得がいきません! しかも見てくださいよ、こいつの部活のメンバー。こんなおバカな部活に、短期間で二十人も集まるっておかしくありませんか? 明らかに王子の権限使ってますよ。名前を連ねてる奴らだって、バカ王子の恩恵狙ったバカばっかですよ。要するにバカ部なんですよ、バカ部!」


「ちょ、ちょっと、失礼すぎません? 僕は皆にちゃんと内容を説明して……」



 と、ここへ、イリオスが異議を申し立ててきた。空気読めや、クソが!



「うるせえ! バカ王子は黙ってろ! 話しかけんな、バカが伝染るだろうが!」



 横槍を入れてきたバカを怒鳴り付けてから、私はもう一度ディアス様へと向き直った。



「どちらも『個性豊かな想像から創造力を高め合う』というコンセプトですが、その想像の源が違うんです。イリオスの部は乙女の友愛を、私共の部では殿方の凛々しき佇まいを研究し学ぶことがメインとなっています。ベースが異なるんだから、相容れるはずがないんです! 合併なんて無理です! お願いですから! そこんとこ! きちっと踏まえて! 検討してください!!」


「わ、わかった……目を通しておく」



 二枚の申請書をバシバシ叩きながら説明すると、ディアス様は若干頬を強張らせつつも頷いてくれた。



「やったー! ありがとうございます!!」



 ぴょーんと大きく跳ね、私は笑顔でお礼を告げた。


 これで希望を繋ぐことができたぞ。もしダメなら、許可をもらえるまで何度でも来て説得してやるまでだ!



「…………イリオス」



 失礼しましたと頭を下げて出て行こうとした私達だったが、ディアス様が弟の名を呼んで引き留めた。



「お前の婚約者は、私の婚約者以上に曲者のようだな」



 そして――――この世の光を全て集めても足りないほど眩い、美麗なるお微笑みをお浮かべにおなりにあそばされたではあーりませんか!!


 形容詞ヤバイ、比較級ヤバイヤー、最上級ヤバイスト!

 ヤバイ最上級のヤバイストへ、一気に到達したーー!!


 究極のヤバイスト、ここに爆誕だーー!!



 神之臣様が初めてスマイルを見せた時も、激しく悶え転がったものだよ……ああ、あの頃の衝撃を思い出すなあ。


 おい、受けは東鷺城ひがしさぎしろ雪之丞ゆきのじょうに似た黒髪短髪の熱血漢で頼むぞ。あと、できればそんな簡単にデレんな。デレ顔を見せるのは、雪之丞の前だけにしとけ。安易なデレは許さん。でも尊き御顔を拝見させていただき、ありがとうございます!



「受け役の雪之丞似……ヴァリティタお兄様? いや、でも髪色しか共通点ないし、それならマッチョファイブの方が性格的には似合うな? マッチョ受けは好みだが、神之臣様にはやっぱり雪之丞風のイケメンをだね……」


「クラティラスさん、行きますよ! ほら早く!」



 いつのまにやら、妄想の世界に陥り始めていたらしい。


 イリオスが私のファイルケースで頭を叩き、現実に引き戻してくれてなかったら、今頃はきっと我が原点である神之臣✕雪之丞カプの素晴らしさについて、とくとくと語っていたことだろう。危なし危なし。




 その夜はステファニとアズィムを部屋に呼び、至近距離で拝謁したディアス様とイリオスのカプ絵を披露した。


 二人共とても喜んでくれたけれど、アズィムは頻りに『いいなぁいいなぁ、私もあと四十七年若ければなぁ』とぼやいていた。


 お城で生活を共にしていたステファニですら、二人が言葉を交わすところはほとんど見たことがないらしい。そのため『クラティラス様だけズルいです! 次は私も連れて行ってください、約束ですからね!?』と彼女にしては珍しく、悔しさをあらわに声を荒らげていた。



 できたら次なんてない方がいいんだけれど……と思っていた私だったが、残念ながら再び機会は訪れた。

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