ラブコメのようなもの
けんざぶろう
煮え切らない2人
「みゆき、そこはそうじゃない。 包丁は、真っすぐに下すんじゃなくて円を描くように切る感じだ」
「こうですか?」
「そうそう、やればできるじゃないか」
「俊也君の教え方が上手だからですよ」
目の前で盛大にいちゃつく二人を見てイライラしない男はいないのではなかろうか。 少なくとも俺はイライラするので口に出す。
「あの二人、なんか見ててイライラするんだよな」
「やきもち焼くなよ、みっともないわね」
ゲームのコントローラーを握りしめながら隣のヤツがたしなめる。
「これが他人ならば、俺だって無関心を装うさ。 でも、アレ俺の姉だからな。 なんか視界に入るんだよ」
普段は、あんな猫なで声出さないし、学校でもクールキャラで通っているのに、あの男の前だと途端にしおらしくなる姿は、見ていて違和感しかない。
「それを言うならば、その隣にいるのは私の兄よ? 私だって視界に入るけど無関心を装ってるの。 ここは微笑ましく見守ってあげましょう」
「いや、あれだけ二人で楽しそうにしてるのに、そもそも付き合っていないとかありえないだろ。 一体アンタのところの兄は何をしてるんだよ」
「私の兄を舐めないでいただきたい。 中学生時代に、ノミの心臓の名をほしいままにした男なのよ。 そんな兄が、告白なんて大それたことができるわけ無いでしょ」
「ノミの心臓すぎるだろ!! もっと男を見せろよ!! 100パーセント告白成功するのに何ためらってるんだよ!! ってちょっと待て、今のコンボは反則だろ」
テレビ画面にKOの文字がデカデカと浮かび、隣のやつは、したり顔でチラリと俺を見る。
「隙を見せるほうが悪いのよ。 どうする、もう一戦やるの」
「当たり前だろ、俺の本気を見せてやるよ」
隣のやつは、やれやれとため息を吐き再びコントローラーを握った。
「それに、兄はあれでも頑張っているほうなのよ。 君の姉こそどうなの。 見たところ兄を好きみたいだし、告白する気はないの?」
「あー、俺もアイツ煮え切らないから姉さんから告白しろって忠告はしたんだよ」
「ほうほう、それで?」
「そしたら。 そういう所も好きって惚気が返ってきやがった」
「……お互い苦労するわね」
「まったくだ。 ところで、話は変わるが、お前は好きな奴とかいるの?」
「はぃッ!? なにいきなり?」
ビクッと肩を震わせ、隣のヤツは、目に見えて分かりやすいリアクションをとる。
「いや、兄があれだからお前も奥手なのかと思って」
「……気になっている人はいる」
隣のヤツは、ぽつりと消えてしまいそうな声で呟いたが、俺はそれを聞き逃さなかった。
「マジで? 同じクラスか?」
「いや、あのっ。 ちがうくて。 ……やっぱりいない」
目に見えてキョドる。 これはもう確定だろう。
「嘘つけ、アピールはしてるのか?」
「探るな!! ボロが出るでしょ!!」
「いいじゃねぇかよ教えろよ。 っておい!!そのコンボは反則って言っただろうが!!」
「うるさい。 しつこいからそうなる」
隣のヤツは、顔を真っ赤にして、無言でキャラを選び始めた。 話しかけても無反応になったため、少しからかい過ぎたようだと反省する。
「つぎ……次…勝ったら……教えてあげる」
「はぁ? 何を教えるって?」
聞き取れなかったため、聞き返す。
「次、私に勝ったら。 好きな人教えてあげる」
「マジでか? 俄然やる気が出てきたぜ」
本気も本気で挑んだゲームは、何故か途中まで俺の圧勝だったのだが、ゲージが赤くなると、狂ったように猛攻してきたため結局負けてしまった。
「馬鹿な…あそこから逆転されるとかありえないだろ」
「覚悟を決めたつもりだったのに……やっぱり、私も兄のこと強く言えないわね」
しばらく放心状態の俺をよそに、隣のヤツは何かつぶやいていたが俺の耳には入ってこなかった。
ラブコメのようなもの けんざぶろう @kenzaburou
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