――そういえば、そうだった。
幻典 尋貴
――そういえば、そうだった。
――そういえばそうだった。
今日は彼女の誕生日だ。
俺の正面に座る彼女がプリプリと怒っている理由がやっと分かった。
申し訳ないなと思いつつ、そりゃあ忘れもするだろうなとも思った。
俺達は今朝、この
「なぁサナ、忘れててごめん。お誕生日おめでとう」
後で愚痴を言われるのは嫌な為、思いついた時に言っておく。すると彼女は、
「こんな状況で言われても嬉しくない」と唇を尖らせた。
全く面倒くさい。どうしてこんな奴とずっと一緒に居るのだろうか。幼稚園の頃からだから、
彼女は学校の中では人気者の様で、時々俺に咲苗さんと付き合っているのかと聞いてくる後輩が居た。彼女が勝手に僕に着いてきているだけなのに、一部の男子からは睨みが飛んでくる。全く迷惑な話だ。――でも、嫌ではない。
少し前に、彼女が先輩と付き合い始めたと言う噂が立ったのだが、それを最初に聞いた時はドギマギしてしまった。
全く情けない話だが、俺は彼女の事が気になっているらしい。
「どれぐらい経ったかな」
先程まで唇を尖らせてそっぽを向いていた彼女が口を開く。
「一時間、それか二時間くらいか」
「遅いわね」
「忘れてるんじゃないか、先生」
真白な空間、その正体はこの高校の校舎の端にある『特別教室』であった。
先生からこの教室で待っている様に言われ、前々から鍵が壊れていたのは知っていた為、ドアストッパーを付けて入ったのだが、何者かによってそのドアストッパーが外されてしまったのだ。
「そうよね…」
「どうかしたか?」
彼女が下を向いて苦しそうな顔をしている。
「ううん、なんでもない」
「トイレなら我慢しろ」
「ち、違うわよ!」彼女が顔を赤くして叫ぶ。
「じゃあなんだよ」
「…なんでもないって」彼女は手をいじりながら答えた。
その仕草が彼女の隠し事をする時の癖である事を知っている為、もう一度聞く。
「本当に?」
「う…実はね、ある噂を聞いたの」
「噂?」
この高校の七不思議かなんかか?この教室に入ったものは神隠しにあうとか、そんなのか。
サナの口から出たものは全く違うものだった。
「――サクが、先輩の女子と付き合ってるって」
そんな噂、俺も聞いた事が無かった。
「全くの
「本当?」彼女が心配そうに聞いてくる。
「本当だって」
「証拠は?」
噂を否定するのに証拠なんてあるか、とも思ったがたった一つだけ見つけた。その、証拠を。
「だって俺は、――お前の事が好きなんだから」
そう言った瞬間、ずっと開かなかったドアが開く。
陽気なメロディとともに聞こえてきたのは、
「「ハッピバ〜スデ〜咲人〜。ハッピバースデー咲人〜。」」
僕の名前の入ったバースデーソング。
歌っているのは俺の友人達だった。
サナが目の前に立ち、バースデーカードらしき物を差し出してくる。
それを受け取った途端、彼女が顔を耳元に近づけて、
「私も好きだよ」
そう、小さく呟いた。
なんだ、そう言うことかと小さく笑い、受け取ったバースデーカードを開ける。
バースデーカードは、ポップアップする仕掛けになっていて、カードを開いた途端文字が飛び出した。
『ドッキリ大成功!』
――そういえばそうだった。
今日は僕の誕生日でもあったんだ。
――そういえば、そうだった。 幻典 尋貴 @Fool_Crab_Club
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