しりとり

紫斬武

しりとり

「全然、開かない」


「マジかよ、勘弁しろよ」


「それ、こっちのセリフ」


「はいはい、取り敢えずいつか誰か気付くだろうな」


ジャージ姿の男女、彼女と彼はバレーボール部の部員二人。次期、部長候補である。


体育館は男女共通で使われ、どちらが先に使うのかとここ最近、少し小競り合いが続いていた。バレーボール部は代々、男女共に仲が良かったがこの二人だけは違っていた様だった。


「片付けだって、何であんたと…」


「俺の所為せいじゃねーし、モモが突っ掛かって来たから部長達に怒られたんだろー?」


「も、モモ言うんじゃない、私は百瀬ももせだから!後一文字言うだけでしょ」


「はいはい」


モモと言われたのは女の子の方、百瀬と言う。


「アユって呼ばれるの、あんたも嫌でしょ!」


「まァ、そりゃあ、っつうか、喉痛めそうだから叫ぶの止めね?」


「い、言われなくても解ってるわよ!」


アユと言われたのは男の子の方、鮎川あゆかわと言う。


鮎川に指摘された百瀬は、唇を噛み締め黙ると体育館の倉庫に置かれたマットの上に座る。それを確認した鮎川は、少し離れてマットの上に座った。


閉じ込められて10分しか経っていないが、百瀬の方は長い時間だと感じている。


この通り、突っ掛かっているのは百瀬、それを軽い様子で流すのは鮎川。周りから見れば、構って欲しい百瀬ちゃん、構って上げる鮎川くんである。


「暇だし、誰か来るまでしりとりしね?」


「は?何であんたと、しりとり何かするのよ」


「え?暇だから」


「暇でしりとりってお子様」


「お子様でも何でも良いし、しりとりな、しりとり。モモが負けたら次体育館使うの俺らね」


「モモ言うんじゃないって言ってるじゃない、って、体育館賭けるならやる。私が勝ったら私達が使うからね!」


「はいはい」


百瀬ちゃんの扱いに慣れてる鮎川くんは、閉じ込められ体育館倉庫内で「しりとり」を提案し、それに案の定乗っかった百瀬ちゃんは鮎川くんと体育館を賭けた勝負を始めた。


「どっちから?」


「どっちでも良いわよ」


「じゃあ、俺から…」


「私からよ!」


ちょっと天の邪鬼っぽい百瀬ちゃんから、しりとりが開始される。


「バレーボール」


留守るす


すずめ


「メス」


「スルメ」


「動物の方のめす


「す…、スリランカ」


「カシス」


「す…、ステーキ」


「魚のきす


「す…、…ちょっと、「す」攻め止めなさいよ!す、ばかりじゃない!」


「や、しりとりだし」


最後に「す」で返す鮎川くんに、百瀬ちゃんが怒ってしりとりが中断される。す、で攻める鮎川くんの言っている事は正しく、勝つための手段な為に百瀬ちゃんの言い分は通らない。


唇をギリギリと噛み締めるも、一旦落ち着き、そして得意気に物を申す。


「いいわよ、なら私も「す」攻めするし!」


「はいはい、どーぞ」


軽く交わす鮎川くんに、百瀬ちゃんはしりとりを再開させた。


「す、スイス!」


すす


「す……、お酢の、!」


「動物とか鳥の方の、


「す、す、す…、スパイス!」


「スキーハウス」


「ちょっと、スキーハウスって狡くない?」


「狡くない、狡くない」


「……す、スチュワーデス!」


「ステンレス」


「…す、す、ステンドグラス!」


「好き」


「……ふふっ、ついに「す」攻め終わりね、私の勝ちよ。え、っと、き、き…」


「好きだ」


「ちょっと、解ってるわよ、「き」でしょ?き、き、」


考える百瀬ちゃんに、鮎川くんは近付き肩を掴むと自分の方へ視線を向けさせる。驚く百瀬ちゃんが鮎川くんへと視線を合わせる。


「好き、だ。答えは、キスでいいよ、モモ」


鮎川くんの言葉と顔、百瀬ちゃんが答えるまであと、数秒。

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しりとり 紫斬武 @kanazashi

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