少年の恋  ―魔闘技場の殺人 外伝③―

流々(るる)

実況中継

 いきなりの登場ですが、今日の恋愛バトル一回戦、実況は私フルタテがお送りします。


 さぁ、カリナと別れ、市場通りルドゥマを西へ歩いているブリディフへ、いきなり後ろから何者かが襲い掛かったぁ!


「ねぇねぇ、おじさん、おじさん! あのは誰? おじさんのこども? 妹? ねぇ誰?」

「何だ、君か」


 突然の襲撃者にも動揺を見せません。

 さすが、メイガーン、魔導士とは彼のこと。

 そしてこの、疾風の荒業師、よく見るとまだ子供です。どうやらブリディフが宿にしている家の子、ヤーフムのようであります!


「ねぇ、誰?」

「少し落ち着きなさい」


 貫禄がなせる業でしょうか。苦笑いを浮かべながらも軽くいなします。

 それに対し、疾風の荒業師は右に行ったり左に入ったりと、まるで遊んで欲しい子犬のように目を輝かせております。

 さぁ、それに対する攻撃は――


「彼女とはさっき知り合ったばかりなのだよ」


 おぉっと、いきなりのそっけない返事。

 子どもに対して大人気なーい!


「そうなの? 仲がよさそうだったから」


 お、意外と今の攻撃が効いたか?

 しかし、すかさず反撃に出ます。


「あのの名前は?」

「彼女はカリナ。トゥードムから闘技会を見に来たそうだ」


 王道の「名前は?」攻撃炸裂! 

 しかし、これも真正面から受け止めたぁ!


「カリナかぁ。黒い髪、きれいだったね。あんな色の髪、初めて見たよ」

「モスタディアではあまり見かけぬからな」


 おぉーっとっ! ヤーフム、早くも恋のヒートアップでしょうか。

 きれいだよね、可愛かったな、と小刻みなステップからジャブを放っています。

 あーっと、ここで1ラウンドのゴング、ヤーフムの家に着きました!




「お帰りなさいませ、ブリディフ様。あら、お前も一緒だったのかい」


 出迎えたのは我が家のイザナミ、母ミロウであります。


「今日は如何でしたか」

「おかげさまで勝ち残ることが出来ました」

「まぁ、それはおめでとうございます。それでは明日勝てば強者たちベスト8入りですね」

「はい。精一杯、力を出したいと思います」


 大人たちの会話に見向きもせず、ヤーフムは臨戦態勢を整えております。

 おぉっと、またブリディフへ質問の波状攻撃だぁっ!

 ミロウは訳も分からず、お手上げポーズで迎え撃つ気か。


「ねぇ、カリナにはまた会うの? 明日も会う?」

「どうだろうな。彼女のお父様も闘技会に出ていると言っていたから、勝ち残っていれば会えるかもしれぬな」

「僕も一緒に会いたいな。いいでしょ? ねっ?」

「さっきから何を言ってるんだい、お前は」



 さぁ、時間も経過して膠着状態に入ったところで、砂漠の真面目人、この家の主人トニーゾも参戦です。

 ヤーフムは三人を相手に「カリナは素敵」の連続攻撃を繰り出し、何やらバトルロイヤルの様相を見せて参りました。


「とにかく素敵なんだよ。髪が夜のように黒くて、まるでそこにいるみたいに――って、えぇーっ!」

「こんばんは」


 おぉーっと! 何と言うことだ!

 奇跡の二重奏、禁断の先制攻撃、黒髪のカリナ、登場だぁ!!

 背後からはマネージャーでしょうか、壮年の男性が付いております。


「私はヴァリダンと申します。こちらにブリディフ殿がご滞在とお聞きしたのですが」 

「私がブリディフです」

「今日は娘が昼をごちそうになったそうで。御礼かねがねご挨拶に伺いました」

「それはわざわざ。痛み入ります」

「さぁどうぞ、お掛けになってください」


 さぁ、どうなるヤーフム。どうするヤーフム。

 疾風の荒業師が興奮した面持ちであたふたと駆け回っております。


 おっと、ついに黒髪のカリナと向かい合った。

 相手は座っているのに、自分と同じ目線の高さに戸惑っているのかぁ?


「カリナっていうんでしょ。こんばんは、僕ヤーフム」

「ブリディフ様に聞いたのね」


 カリナ、まったく表情を変えません!


「とってもきれいな髪の毛だね」

「そう?」

「うん。こんなにすてきな髪の人、初めて見た。とっても可愛いし」

「ありがと」

「カリナみたいに可愛い、モスタディアにはいないよ。僕、好きになっちゃった!」


 いきなりのストレート攻撃を余裕で受け止め、彼女はあきれ顔を浮かべております。


「君、いくつ?」

「八歳」

「私の方が五つ年上。あなたみたいな子供に言われても、うれしくないわ」

「どうして?」


 しかし、まったくめげてないヤーフム。こちらも嬉々とした笑顔を見せております。

 流石のカリナも戸惑っているのかぁ!?


「え? どうしてって……」

「お母さんは、お父さんより六つ年上だよ」


 突然、場外へ飛んできた攻撃にミロウも怒りの表情だ!


「それは大人だからよ」

「それじゃ、僕も大人になるまでずっとカリナのことが好きならいいんだよね」


 余裕の笑みを浮かべ、冷静に攻撃を受け止めているカリナですが、ヤーフムの満面笑顔作戦には困惑しています。


「そんなこと分からないでしょ」

「分かるよ。僕が決めたんだもん」


 おぉっと、ついに根負けしたか。カリナは黙ってしまったぞ。

 ここぞとばかりにヤーフムが畳みかけるーっ!


「カリナはどんな人が好きなの?」

「私よりも色々なことが出来て、私を引っ張ってくれるような人がいいわ」

「カリナを引っ張るの? 体重は?」


 出たーっ! 必殺、無垢な子供のマジ返し!

 これには、流石のカリナも表情を変えております。


「そうじゃなくって!」


 大きなため息を一つ、そしてヤーフムへの反撃開始だ!


「君、魔道は出来る?」

 おぉっと、ヤーフム、ダメージを受けているか!?

「運動は得意?」

 これは効いているぞ。

「勉強は?」

 あっと、膝をついた!

「料理」

 ダウン、ダウンですっ!!


 カウントが入ります! ワンツースリーフォー、おっと急に立ち上がった


「そうだ!」

 おぉ、目に光を宿している! 反撃の糸口を見つけたのかぁ?


「魚釣り! カリナは釣りをしたことある?」

「ない……けど」


 おっと、この攻撃はカリナにも効いたようだ。


「それじゃ、一緒に姫鱒クイナを釣りに行こうよ。僕が教えてあげるから。明日行こう? ね、いいでしょ?」


 満面の笑みでカリナの左腕を両手で掴んでおります。


「明日も闘技会だから」

 やはりカリナには効いていないのか?

「午前中なら行ってもいいわよ」

 いや、まさかのOK出ました!

 ヤーフムの粘り勝ちです!!



 カリナ親子が帰ると、すぐにブリディフの元へヤーフムが駆け寄っております。


「ねぇおじさん。カリナが僕のことを好きになる魔道を教えて欲しいんだけど」

「残念だが、そのような魔道はないのだよ」


 あっと、何やら考え込んでいるブリディフさまっ。何か策があるのか?


「この言葉を使えば、彼女に――」

「ありがとう、おじさん!」


 どうやら秘策を授けられたようです。

 はたして、どんな必殺技が繰り出すのか!

 そしてカリナのハートに届くのでしょうかっ!

 

 それでは、この続きは連載Verの第三話でお楽しみください。

 さようなら。


      *


 連載Ver「(仮題)王都モスタディアの六日間  ―魔闘技場の殺人 外伝―」

  https://kakuyomu.jp/works/1177354054888828271

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