先生は幼なじみ
夏木
第1話
俺は片思いしている。もう何年もずっと。
相手は一つ年上の幼なじみ。
小学校入学前までは家族がらみで付き合いがあり、ずっと一緒に過ごしてきた相手だ。
二人で鬼ごっこしたり、隠れんぼしたり、イタズラもした。どんな時でもその子は顔をくしゃっとして笑っていて、その顔が好きだった。
だが、その子は女子校へと進学したので会うことはなくなってしまったのだ。
その事を知ったとき、俺は大泣きした。
その子が小学校に入学してからは会ってすらいないが、高校生になった俺は未だに片思いしている。
家も遠くないし、会おうとすれば会うことはできる。しかし、何と言って会えばいいのかわからない。もしかしたら俺のことを忘れてるかもしれない。急にそんな人に話しかけられたら困るだろう。だからお互いに覚えていて、運命的な再会に期待するしかなかった。
神様のイタズラなのか、その期待に添った再会はすぐやってきた。
「このクラスを担当する
「結衣ちゃん!?」
大学受験のために、と無理矢理塾に入れられた俺の前に、片思いの相手が現れたのだ。
小さな個人塾。クラスと言っても生徒は全部で三人だけだ。そのクラスの担当が片思いの相手なんて運命としか思えなかった。
「静かにしましょうね。では、こちらから自己紹介お願いします」
片思いの相手こと結衣先生は自己紹介をさせる。その順番だと、俺は最後だ。自分の名前とどこの高校なのか、それだけを言っていく。前の二人が終わり、俺の番がきた。
「第一高校三年、
「あ、うん。知ってるからいいよ」
「へ?」
前の二人の時には頷いていた結衣先生だが、俺の時は反応が冷めていた。知ってると言うのだから間違いない。片思いしている相手であることを確信した。
「自己紹介ありがとうございます。それでは授業始めますねー」
結衣先生と目が合うことなく授業が始まった。有無を言わせない結衣先生に戸惑いながら授業を受けた。
「……はい、今日はここまでです。また来週! お疲れ様でした」
授業が終わると俺以外の生徒二人はパパッと片付けて帰って行った。残った俺は黒板を消す結衣先生に声をかける。
「結衣ちゃん!」
「んー?」
「俺……結衣ちゃんが好きです!」
「うん、知ってるー。ママから色んな話を聞いてるしね」
「なっ……」
「知らなかった? 例えば……私が女子校行ったこと知ったときに大泣きしたとか、小さい頃のツーショットの写真を飾ってるとか。あとは……」
「あんのババア……」
「ちなみに、ここで塾講始めたのはりっくんのママに頼まれたからなんだよねー。結衣ちゃんがいればやる気になるからって」
自分の母の口の軽さに苛ついたのもつかの間、巡り合わせてくれたことに感謝した。
「まさか久しぶりに会ってすぐに告白されるとは思ってなかったけど」
再会してすぐ告白したことを思い出し、顔が熱くなった。その顔を見た彼女は楽しそうに笑っている。
「そ、そ、そうだっ。結衣ちゃん、付き合って下さい!」
「りっくんのことは好きだけど、勉強してほしいからなー……」
「今好きって……」
「うん、好き。でも付き合うとは言ってない」
彼女の口から「好き」と言われて舞い上がる。その好きが「like」なのか「love」なのかはわからないが。
彼女は口元に手を当てて何かを考え始めた。
「りっくんがここら辺の大学に進学したとき、また告白してくれたら嬉しいなー」
彼女が指を指した先の本棚には大学別の過去問集があった。そこの一番上の段を指している。
この問題集は偏差値順で並んでおり、一番上にあるということは受験難易度はかなり高い。
「え……俺、馬鹿なんだけど……」
「馬鹿は嫌いだなー」
「はい、やります。めっちゃ勉強します」
「即答! さすが」
正直、高校の中でも成績は下の方だ。赤点こそないが、結構ギリギリでやっている。その成績から偏差値が高い大学を目指すのは相当難しいことがわかる。しかし、嫌われたくない。勉強は嫌いだが、やる気を出すしかなかった。
「ちなみに私ここの大学」
彼女が一冊の過去問集を手に取った。そこに書かれている大学は有名私立大学。よく聞く名前だし、学部も豊富で偏差値も高い。
「俺そこ目指す」
「よろしい! 頑張ろ!」
彼女は笑う。
この笑顔がずっと好きだった。
ずっと片思いだと思っていたが、両思いなんだと思う、多分。
付き合うまで先が長いが、必死に学ぶ準備ができた。
絶対合格してやる。
先生は幼なじみ 夏木 @0_AR
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