君とのホワイトデー

卯野ましろ

君とのホワイトデー

「オレは小林が好きだから!」

「えっ……」


 今年のホワイトデー、ようやくオレは小林に告白したのだった。




「おーい、瀬戸~!」

「小林……何だよ、張り切っちゃってさ」


 一ヶ月前。

 かわいらしい声で名前を呼ばれ、振り替えって即クールな態度のオレ。だがしかし、それは仮の姿。本当のオレは、


「小林からのバレンタインチョコ、キター!」


 だった。

 けれど、なかなか素直になれない残念な男。それがオレだ。ああ、悲しき性!


「はいっ! バレンタインチョコ! 食べてね~」

「……わざわざ義理チョコなんて、お前も暇人だな~小林」

「むっ。瀬戸へのチョコは義理チョコじゃないよ!」


 えっ!

 ……マジで?


「ほぉ~。じゃ、これは何チョコなのかな~、一体……」

「友チョコ!」


 ……へ?


「と……友チョコ?」

「正確には親友チョコだよ! いつも仲良くしてくれている瀬戸は、あたしの親友だもん! 本当に、いつもいつもありがとう!」

「……ああ」

「それじゃっ! あたし、もう行くねっ! 他の子にも友チョコ配るからっ!」

「お、おう……」


 戸惑うオレを残して小林は、つったかたー♪ と走って他の友だちの元へと行ってしまった。


 予想外の微妙な展開。オレは固まってしまった。


 友チョコ……いや親友チョコか……。


 正直、義理チョコよりは聞こえが良い。でも決して本命チョコではない。小林はオレを男として見てはいないのだ!


 微妙じゃねーよ。嫌な展開だよ、これは!


 今まで小林の兄ちゃん的存在で、いつもいつもオレはアホの子キャラの小林を支えたりツッコんだりしていた。常に小林をはじめとするみんなのではクールを装いカッコつけていたオレ。

 とうとう「そのキャラだと小林には自分の本当の気持ちを知ってもらえない」ということが判明してしまった。よりによってバレンタインデーに……。


 ……よし!

 一ヶ月後、素直に告白しよう!


 本当は甘くて美味な生チョコをしょっぱく感じながらオレは決意した。




 そしてホワイトデーがやってきた。


「小林、帰るぞ」

「あ、瀬戸! 今日、一緒に遊ぼう」

「良いけど、もう誰も誘うなよ」

「え、二人きり?」

「……ああ、そうだよ」

「うん分かった!」

「急げ。ほら早く」

「はぁーいっ♪」


 二人きりの空間を作ることには成功した。後はオレ次第。


「この道から帰るの、あたしたちぐらいだよねー。みんな何もないからって、ここを嫌ってコンビニとか揃っている道から帰るけど」

「そうだな」

「でも、あたしは好きー。お花は咲いているし、空気は気持ち良いし、鳥の鳴き声はかわいいし!」

「……あのさ小林」

「それに悩みごとができたら、誰にも聞かれずに瀬戸に相談できるし……」

「小林っ!」

「あ、ごめんごめん! 何……」

「ほら、これ!」


 オレは小林の前に、青い紙に包まれた箱を出した。


「瀬戸、これは何?」

「今日はホワイトデーだろ? だから……」

「あっ、そっかぁ~」

「えっ、お前……忘れていたのか?」

「忘れていた……というか意識していなかった! だって友チョコ渡し合っていたら、お返しなんて別にいらなくなるもん」

「そういうことか……」

「瀬戸も別に、お返しなんてしなくて良かったのに」

「良くないよ。だってさ」

「……瀬戸?」


 そしてオレは言った。


「……オレは小林が好きだから!」

「えっ……」

「オレは小林がずっと好きだ! 親友なんて嫌だ!」

「……瀬戸! それ本当?」

「当たり前だろ!」


 そのとき、小林が抱きついてきた。


「……あたしも本当は瀬戸のこと好きだったの! でも子どもっぽいから、あたしなんて妹のようにしか見られていないかもって。それであのとき、つい友チョコって言っちゃったの。ごめんなさい!」

「小林……」


 小林は泣いている。


「オレも……ずっと素直になれなくて、ごめん」


 すぐにオレはハンカチを取り出して彼女の涙を拭いた。


「……ありがと」

「小林、約束しよう」

「え……?」

「お互い素直になることと、来年こそオレに本命チョコを渡すこと」

「……うん」


 その後、オレたちは公園のベンチに座って苺マシュマロを一緒に食べた。渡したオレも食べることになったのは、小林が「瀬戸にあーんしたい!」と言ったからだ。




「初めてのホワイトデーは、そうだったね」


 同じ屋根の下で、そのときのことを二人で笑い合う未来が待っている。それをオレたち二人は、まだ知らない。

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