第13話開戦前日

美濃攻め前日。


今日は、家臣全員が集められていた。


全員集まったのが確認されると信長様が口を開いた。


「みんな良く集まったわね。


知っての通り明日から美濃への侵攻を開始する。


だから色々と決まった事を説明するわ。」


みんな一言も聞き漏らさないように黙り込んでいる。


当然だろう。


信長が家臣達の方を見る。


「これから前衛を発表するわ。といっても桶狭間と同じ順番で行軍するわ。」


そういうと1人だけ手を挙げる者が居た。


丹羽長秀さんだった。


「信長様、桶狭間後に家臣となった者はどこに配置しましょう?」


長秀さんの疑問は誰もが思った内容だった。


桶狭間以降に家臣となった人も多いのだ。


もちろん自分もそう。


自分の場合は勝家さんといっしょだからいいが家臣として取り立てられた人は配置が決まってないのだ。


そうは言っても勝家さんは桶狭間の合戦には参加していない。


だから自分達にも重要なことだった。


「長秀、あなたの質問の答えだけど桶狭間以降の家臣と参加していない家臣は私の後ろか前に行って貰うわ。それと信行は一番先頭を行軍してもらう。」


そういうと家臣はざわついた。


当たり前だろう。


なんせ自らの妹を一番危険な先頭を行かせるのだ。


ざわつかない方がおかしいぐらいだった。


そうしていると隣にいた勝家さんは我慢できなくなり立ち上がった。


「信長様!なぜ信行様を先頭に行かせるのです!信長様は信行様に死ねと言うのですか!?」


そういい勝家さんが信長様に怒鳴るとさっきまで黙りこくっていた信行様が口を開いた。


「勝家、黙りなさい。」


「何故です!信行様!どうしてそんなに冷静で居られるのですか!ある意味死ねと言われてるのですよ!?」


「勝家、黙れと言っているでしょう!黙りなさい!


もうこのことは先に知らされていたわ・・・。


承知のうえよ。」


「ですが・・・」


「逆にこの編成は良くできているわよ。なんせ自分は今まで何度も姉様を裏切ってきたのだもの。


死ぬ危険性があるところに配置されていても全然おかしな事じゃないわ。」


そうか・・・。


昨日呼び出されたと言うのはこの事だったのか。


信行様は昨日知らされたときに死期を悟ったんだ・・・。


だから自分達のところに来たと言うことか。


そうして形見として自分に刀を託した。


そう考えると全てが納得いく。


そうしていると急に信長様がしゃべりだした。


「さっきの編成に誤りがあったわ。森可成!


信行の次に進みなさい。もし何かあったら独断で動いて。何があっても信行を死なせない為に・・・」


そういい切ると信長様の目からは涙が垂れていた。


信長様を見るやいなやみんなが呆気に取られた。


そうしてみんな黙ってしまった。


その中である男が沈黙を解いた。


「信長様、その大役はこの森可成が請け負ったぜ!必ず信行様は生きて帰してやる。任せな。」


そう沈黙を説いたのは森可成さんだったのだ。


「ええ、頼むは可成。今日は解散。明日は夜明け前に出陣するわ。それまでに休んでおいて。」


そういうと信長様は部屋を出ていった。


涙目のままで。


そうしていると家臣達も次々と帰って行った。


「勝家、先に帰っていて。ちょっと新鬼と話があるから。」


自分と勝家さんが帰ろうとしたとき信行様にそう言われて止められた。


「分かりました・・・。新鬼、先に戻っているぞ。」


そういい勝家さんは部屋から出ていってしまった。


勝家さんが出て行くのを確認すると信行様が話し始めた。


「新鬼。私は怖いわ。死ぬのがとても怖い。


だけど私には信頼できる仲間がいる。もちろんあなたもよ。だけど死ぬより怖いことがあるの。


あなたには分かる・・・?」


突然問われた。


死よりも恐ろしい物などあるのだろうか・・?


自分にはどう考えても分からなかった。


「分からないです・・・」


「そっか、分からないか。それはね忘れられること。なんせ自分はこの家でほとんど影が薄いわ。居なくても変わらないぐらい。だからもちろん自分を知る人は少ないわ。だから生きていても知る人が少ないのなら死んだら完全に居なくなるんじゃないかって思っちゃうの。それが本当に怖い。


薄々気づいているだろうけどあなたに刀を渡したのは忘れて欲しくないからよ。私はあなたのことが他の家臣よりも気にいっていたわ。だから刀を送ったの。他の家臣よりあなたは日は一番短いけどそれだけ私はあなたを気に入っていたわ。だからもし私が死んでもあなただけは忘れないでね・・?」


そういうと信行様の目には涙が出かけていた。


よっぽど怖いのだろう。


「分かりました。必ずぼくはあなたを忘れません。約束します。もし生きて帰ってきたらすぐに信行様のもとに向かいます。」


「そう?ならよかったわ。あとは頼んだわよ・・・。生きてまた会いましょうね」


そういうと信行様は戻ってしまった。


自分も早く戻らなければ。


明日までに最善の状態にしなければならない。


だからもどったら寝る事にした。


明日から少しでも足を引っ張らないように・・・。

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