ボスザル同士が風船で愛しあいました。

アほリ

ボスザル同士が風船で愛しあいました。

 うっきーーーー!!うっきーーーー!!きーーーっ!!うっきーきーーーっ!!



 ここは、鬱蒼とした山奥。


 ここではふたつのニホンザルの群れが縄張り争いをしており、毎度抗争を繰り広げられていた。


 抗争をしている、お互いのボスザル達。


 実は・・・


 「俺が風船をいっぱい獲る!!」


 「いいや、あたいが風船をあんたよりいっぱい獲るわ!!」


 お互いの縄張りのど真中に、高い木が聳えていた。


 吹いてくる風の悪戯か、遥かな街の人間の結婚式で飛ばされたいっぱいの風船が、この高い木に引っ掛かっていた。


 「いやーん!このハート型の風船あたい欲しかったのにーー!!」


 「へへーんだ!!いただきーーーーっ!!」


 『グループ・ナヲキ』の群れのリーダーサルのナヲキが真っ赤なハート型の風船の紐を誇らしげにくわえて木と木を潜り抜けて渡って行くのを、『グループ・レーコ』の群れのリーダーのレーコは、必死に追いかけていった。


 「よーし!!また俺のコレクションに・・・」


 

 ばあっ!!



 「隙ありっ!!」


 レーコはナヲキに向かって飛び掛かり、紐を口にくわえて持っていたハート型の風船を奪おうとした。



 「はむっ!!」


 レーコは、ナヲキからハート型の風船の結んである吹き口を牙を剥いてくわえて、



 ばあっ!!



 「わーーい!!悲願のハート型の風船取ったわーーーー!!」


 レーコはキャッキャッキャッキャッキャッキャッ!!とはしゃいだ。



 しゅ~~~~~~~~~~~・・・



 「キャッキャッキャッキャッキャッキャッ!!おい、レーコぉ!!」


 「なぁにー?ナヲキ笑ってるのーー!!」



 しゅ~~~~~・・・



 「レーコの声おかしーーーーぃ!!マジ受けるぅーーー!!キャッキャッキャッキャッキャッ!!」


 「なにおーーーーーーーー!!」


 

 ぷしゅぅ・・・



 「あれぇー?風船萎んじゃったぁーー!!きゃーー!!萎んじゃったぁ!?」

 

 レーコは、くわえていたハート型の風船が縮んで小さくなっていた事に仰天した。


 「レーコちゃんの声、戻ったよ。

 レーコちゃんが、この風船の空気吸っちゃたんでしょ。

 半音あがった変な声を、素敵だったよ・・・」


 ナヲキは、目を細めてあわてふためくレーコに話しかけた。


 「でも!!でも!!風船萎んじゃったし!!きゃーー!!きゃーー!!」


 「そう取り乱すのも、可愛いねレーコ。

 そうそう、この萎んじゃった風船ねえ。」


 ナヲキは、何か思い付いたようにレーコに耳元で話し掛けた。


 「レーコちゃん。この萎んじゃった風船に息を吹き込んでみて?」


 「息を?」


 「うん。レーコちゃんが牙で穴を開けたとこから、息を吹き込んでみて?」


 「んん?」


 レーコは、吹き口のネックの牙の刺さって裂き目を手の爪でこじ開け、口に宛がってみた。


 「こう?」


 「うん。『ぷーーーーっ!!』と息を吹き込んでみて。『ぷーーーーっ!!』と。」


 ナヲキは、ニヤニヤとしながら、羞じらうレーコに言った。


 レーコは、手で萎んだハート型の風船を空気が漏れないように抑え込んで息を深く吸い込むと、鼻の孔と頬っぺたをパンパンに孕ませて、



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!



 と、息を吹き込んでハート型の風船を膨らませ始めた。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!



 レーコが、頬をめいいっぱい孕ませて赤い顔をさらに真っ赤にして手でハート型の風船を抱え込んで、一生懸命に息をどんどん吹き込んだ。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!



 「レーコ・・・その風船を膨らます姿・・・とてと素敵だよ・・・」


 ナヲキは、目を細めて感慨深げに呟いた。


 「ぷぷぅ?!」


 ナヲキのその言葉に、レーコはギクッとして息を吸い込んで更に頬を孕ませてぷーーーーーっ!!と息を吹き込んだとたん・・・



 ぱぁーーーーーーーーーん!!



 「きゃっ?!」


 レーコが膨らませ過ぎたハート型の風船は、ドデカイ破裂音を立ててパンクしてしまった。



 ・・・・・・・



 その破裂音は、山々にこだましてお互いの派党の群れのサル達の耳を震撼させた。


 「うきっ!!向こうの方で銃声が?」


 「やば。腹へったから、人里の畑でサツマイモくすねたのがバレちゃったかな?」


 「おい、おめえはそんなことしたんか?取り返しの付かない事だぜ!!」


 「いやいや!!いやいや!!」


 「でも、これ銃声・・・じゃないよ。まるで、風船が割れたような・・・」


 「風船?解った!!あれだな。」


 其々の群れのサル達は、一斉に風船が必ず引っ掛かっていると言われる、其々の群れの縄張りのど真中にある大木目指して飛び出していった。



 うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!



 ・・・・・・



 「えーん!えーん!風船割れちゃったーーー!!」


 「そう泣くなレーコ。風船は割れるものだ。今度は、俺の風船の膨らましを見せたる!!」


 ナヲキは脇の懐から藍色の萎んだ風船を取り出した。


 「ああ、これ?この前違う木に引っ掛かっていた、とってときの風船。

 ちょっと大きいでしょ。」


 ナヲキは『祝オープン』と書かれている、その藍色の風船の吹き口をくわえて息を深く深く深く吸い込み、



 ぷーーーーーーーーーっ!!



 と、頬っぺたをパンパンするどころか、社会的顔を何倍も浮腫ませて、渾身の力を込めてパワフルに膨らませた。



 ぷーーーーーーーーっ!!


 ぷーーーーーーーーっ!!


 ぷーーーーーーーーっ!!


 ぷーーーーーーーーっ!!



 「どうだい!!こーーーんなにでっかく俺は風船を膨らます事が出来るんだ!!」


 ネックの部分まで膨らみ、大きくパンパンになった藍色の風船をレーコに見せびらかすと、レーコはそっと呟いた。


 「あたい、もっとその風船の息を吹き込みたい。」


 「え?もっとこの風船を更に膨らますと、いまさっきのハート型の風船より更にドデカイ音でパンクしちゃうよ?!」


 「それでもいいもん。」


 「いいの?じゃあ・・・」


 ナヲキは片手で耳を塞ぎながら、藍色の風船の吹き口を羞じらうレーコの口にくわえさせた。


 「もごもごもごもごもごもご・・・」


 すぅ・・・


 「スゥ?」


 ぷしゅ~~~~~~~~~・・・


 レーコは、ナヲキの膨らませた風船を更に膨らますどころか、ゴムの反動で風船が萎み、ナヲキの吐息がレーコの肺に逆流していった。


 「すぅっ。」

 

 レーコは鼻の孔から、ナヲキの吐息が吹き出しているのを抑えるために手のひらで塞いでみた。


 レーコは、そっと目を閉じた。


 ・・・何なの・・・


 ・・・突然、胸がきゅん!と締め付けられる思い・・・


 ・・・これ、が・・・


 ・・・『恋』・・・?


 今、群れの『ライバル』同士のふたりが一体になっている。


 そして『ライバル』の筈の相手に、『恋』が芽生えている。


 ・・・『恋』・・・


 ・・・私は『恋』をしてしまった・・・


 レーコはそう思うと、目から一筋の涙が溢れた。


 「あれ?俺の吐息が君の中に逆流して、咽び泣いてるの?無理しない方が・・・」


 ナヲキはレーコにそう言うと、レーコは、息をそっとくわえている藍色の風船にぷーーーーっ!!と吹き込むと今度は、ナヲキの口に口写しで、藍色の風船の吹き口をくわえさせた。



 しゅ~~~~・・・



 今度は、萎んで吹き出してきたレーコの吐息がナヲキの肺の中へ取り込まれた。


 「おめえ・・・まさか・・・」




 うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!うきーーー!!


 「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」「間接キッス!!」


 

 「んまぁ?!お前たち!!」「いやん!!」


 ナヲキとレーコが辺りを見回すと、あの大木に絡んでいたハート型の風船を手に手に、両群のサル達が挙って囃し立てていた。


 「み・・・」「みられた・・・」


 赤い顔をさらに赤面したナヲキは、くわえていた藍色の風船を思いっきり一気にぷーーーーーーーっ!!と大きく膨らませると、両群のサル達目掛けて吹き口を放ち、



 ぷしゅーーーーーーーーー!!ぶぉぉぉぉぉーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 と飛ばした。


 「お・・・お前らな・・・」


 「きゃははははは!!みんな!!もっともっと盛り上げて!!」


 「れ、レイコちゃん?!」



 「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」「けっこん!!」・・・



 ナヲキとレーコ。


 正に、雌雄の群れの『敵』同士だったボスザル同士は番になり、暫くして間がら子ザルも授かった。


 と同時に、激しく縄張り争いをしていた両群は1つの群れに併合して、この森のニホンザル同士の啀み合いは、事実上終結した。


 風船が結びつけた、お互いの『愛』。

 2匹の愛するニホンザルの『愛』は、正に今、風船のように・・・





 ~恋するサルと風船と~


 ~fin~






 










 



 



 


 


 



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ボスザル同士が風船で愛しあいました。 アほリ @ahori1970

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