学園恋愛奇譚

亜未田久志

恋愛珍道中


 高校生の男女。

 彼、井口三洋いぐちみひろには彼女がいる。

 彼女、三加和圭子みかわけいこには彼氏がいる。

 そう、彼と彼女はいわゆるカップルである。

 だが、傍から見てそれは、とてもじゃないが「恋愛」には見えないものだった。


 教室にて。

「ねえ井口君」

「どうした三加和」

「明日、映画でも見に行こうか」

「ほう、何の映画だ」

「スプラッタホラー」

「……俺がそういうの苦手だって知ってるよな?」

「そうね」

「何故そのチョイスなんだ」

「だって怖がってる井口君の顔が面白……可愛いから♪」

「おい本音が見えたぞ本音が!」


 学校の屋上にて。

 そこはベンチなどが設置してあり生徒たちの憩いの場になっていた。

「ほら三加和」

「わあ、お弁当じゃない。作って来てくれたの? ありがとう!」

「ま、ついでだしな」

「……ねぇ、なんで私の嫌いな、にんじんが入っているの?」

「だってその眉間に皺よせた顔が面白……かわいくて」

「後でお話しましょ、ゆっくりじっくり」

「ちょっと待て、少ししか入ってないから、落ち着け落ち着け!」


 買い物の帰り道。

 二人は何故かお米を買っていた。

「あのね井口君」

「いや違うんだ三加和」

「いや、あなたが体力無いの知ってるけど……」

「違うんだ、意外と重いんだこれ」

「五キロぐらいでしょ」

「十分だよ!」

「ほらー、がんばれー、がんばれー」

「お前のが力持ちなんだから持ってくれ頼むからー!」


 夏休み、海。

「どうした三加和」

「私! 泳げないんだけど!?」

 三加和は海の上、ゴムボートの上に一人ぽつんと取り残されていた。

「安心しろ‐、紐は握ってるー」

「そういう問題じゃない! ああ! 大波が! 揺れる揺れる!」

「あっはっはっは。がんばれー、弱点を克服するチャンスだー」


 このように二人は傍から見れば嫌がらせをしあう犬猿の仲にしか見えないのだった。


 どうしてこの二人が付き合う事になったのか。

 それは春の出来事。

 入学式に一番乗りしようという謎の目標を持った者が二人。

 そう、井口と三加和である。

 彼と彼女は通学路で鉢合わせ、学校に一番乗りすべく競争を始める。

 体力のない井口に不利な勝負に思えたが、彼はそこでいわゆる火事場の馬鹿力というモノを発揮した。

 少なくともこんなところで発揮すべきものではない。

 そうして同着ゴールとなった二人。

 これが最初の因縁だった。

 

 次に部活案内。

 二人して美術部に入った二人は、なぜかひたすらデッサンの上手さを競い合う謎の争いを始める。

 紙を使いすぎ怒られ二人して美術室を追い出された。

 

 次にクラスが一緒になる。

 これがトドメだった。

 彼と彼女は睨み合いながら。

 互いに宣戦布告する。

「俺に付き合ってもらおうか!」

「私に付き合ってもらおうかしら!」

 教室内での堂々の告白だった。

 しかし勿論これは、謎の、謎過ぎる因縁に決着を付けようという意味であって、交際の申し込みではない。

 だが、それを聞いたクラスメイト達は。

「公開告白だ!」

「おいおい学校初日だぞ!?」

「すげぇ、度胸あるぜあの二人」

「ねぇ、意外とお似合いじゃない?」

「思ったー! ひゅーひゅー!」


 こうして二人はクラス公認のカップルとなる。

 彼らは面倒くさがり、それを否定する事もなく。

 なんなら恋人に擬態して互いに、謎の意地から始まった競争を続けている。

 他のクラスの者からは嫌がらせし合っているように見えているのだが。

 公開告白(本当は違う)を見たクラスメイトからはイチャイチャしてるようにしか見えないというのがこの話のオチだ。


 だが、しかし。

 二人はきっと高校を卒業しても、そんな事を続けていくのではないだろうか。

 それはもう恋人と言える。

 ……のかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園恋愛奇譚 亜未田久志 @abky-6102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ