(2)

「──さて二人とも、今の話は理解できたかな?」


 さながら雲の滝を思わせる真っ白な顎鬚を触りながら、水神の神殿を管理する神官のヴァルマは、巫女見習いの幼い二人──イーサとアイリスに微笑みかけた。


「はいおじさま!」


 神殿の執務室のソファ、ヴァルマの向かい側に座る二人が元気よく口を揃える。ヴァルマは老年に足を踏み入れてはいたがそれを感じさせない輝きがその瞳にあった。とは言え、彼の横でひっそりと佇むまだ若々しい黒髪の巫女と金髪の神官の二人に比べれば、やはり老いを隠すことは難しいと言わざるを得ない。彼らはヴァルマの横で何も言わず、少女たちをただ微笑ましく眺めていた。

 巫女見習いではあるものの、少女たちは儀式のために巫女装束に身を包んでいる。白の小袖に緋色の袴──いわゆる一般的な巫女のイメージとされているものだ。


「二人とも、似合っているね」


 ヴァルマが優しく言うと、巫女見習いたちは嬉しそうに顔を見あわせた。二人ともまだ幼いが、わけあって家族はいない。孤児となった二人を彼が引き取り、この神殿で今も一緒に暮らしているのだ。

 ヴァルマは鹿爪らしい顔をして見せ、ひとつ咳払いをする。


「それはそうと、ここではおじさまではなく──」

「あっ、そうでしたごめんなさい、おじ──大神官さま!」


 イーサはアイリスと目を合わせ、はにかむように舌を出した。職務に就いている時には、二人には職名で呼ぶようにヴァルマは教えている。


「うむ、よろしい。──では二人とも、私が先ほど言ったことを繰り返してごらん」

「はい、ええと──」


 イーサはこめかみに指をあてがい視線を斜めに滑らせた。真剣な表情でうーんと唸りながら眉間にシワを寄せて見せるが、何かとんちんかんな答えが出てきそうだなと感じ、ヴァルマはそっとアイリスに視線を流す。


「さてアイリス、君はどうかな」

「はい」彼女はいつも通り姿勢を正したまま、「巫女採用試験として、神殿の地下に降りていき、そこで巫女の証となるゴ──」

「あっ、わかった、わかりましたぁ!」


 正解の九割が出たところで、イーサが勢いよく手を挙げた。


「地下迷宮を突破して、コンペイトウを食べ──とってくることです!」

「はい残念。アイリス正解の続きを」

「御神刀を持ち帰ることです」


 うむ、とヴァルマは頷いて、


「それが済めば、君たちは今日から晴れて巫女の仲間入りということになるね。ところでイーサ、お腹減ってるのかい」

「うっ…」


 アイリスはくすっと笑ってイーサを見た。横に立つ若き巫女と神官の二人も顔を互いに見合わせ笑いを堪えていた。


「そう言えば、朝食の時に私のパンをじっと見てたよね」

「そ、それは他人の空似……」


 予想通りとんちんかんな答えとともに視線を泳がせるイーサを見て、巫女試験が二人で良かったと心底思うヴァルマであった。

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