学園生活とは言ったが学生生活とは言ってない

互いに10年分の憑き物を取り去り迎えた朝。俺とレナ姉はファニ達と一緒に朝食を取ったあと学園に向かっていた。


「じゃあまた後で。」


「うん。」


レナ姉と別れた俺は学園長室に向かった。


「それで学園長ボス、依頼内容は生徒たちにいい刺激を与えろとの依頼だったか?」


「ああ、その通りだ。最近の学生達は夢を見過ぎておる。叡智の主人達のような若者を目指す者も多いがお主のような覚悟のある者は少ない。腕っぷしで叩き潰しても構わん。プライドをへし折れ。それが貴様の任務だ心してかかれ。」


そう俺は今回、入学ではなく依頼という形で臨時講師を行うことを目的として学園に来ていたのだ。


依頼内容は実に簡単。


力による支配を実行しろ。


生徒を、いじめろと言っているようなものだ。実際問題悪役になり学園の団結力の向上という銘をうってはいるが、本質は違う。物語に感化された夢見がちなガキ共を完膚なきまでに叩き潰してやることで現実を見させること。そして下手な誇りよりも命が大切と自覚させること。


即ち


生徒の安全


それがこの依頼の真に図られた意味。


未だ己が信念を曲げぬが故の死は名誉の死とされるこの国では実力を見誤る若者が急増している。冒険者プロ試験の死人の1割がこの国の人間だというほどだ。


それを辞めさせるべくこの国出身で生徒にも馴染みやすい年齢であろうこの俺に白羽の矢がたったというわけである。スライムが強いのではなくプロ冒険者が強い。そう教えさせることで差別化を図る。それに準じてプロ冒険者試験を受ける人数を減らすのが目的である。


「じゃあ進学クラスでいいんだな。」


「ああ構わん。潰せ。」


もはや悪役。傲慢不遜にして強大なる実力を持つものだけに許された任務だった。


「というかいつまでその口調なんだ。」


「その方がカッコいいじゃろうに。」


なんともお若い精神をお持ちの老人である。まあ確かに裏の組織っぽい感じがしてカッコいいのだろうが、マジな顔で学園長がやってると国を裏から牛耳ってるヤクザに見える。


「あ、そうそう。お主が今日行くクラスには姉君達もあるのでな。あれらは別にしなくても良い。ユウゾウ殿の訓練は聞いてあるしな。まあ、お主の修行ほどではなく程々にやってくれるとありがたいぞい。最近PTAがうるさいのでな。」


間違った。威厳もクソもない保護者の方々から重圧を受けた管理職のハゲたおっさんである。


「しゃあねえ、そんな感じでやってくさ。行くぞファニ。」


「分かったよ主人!ねえ、教育するとき触手いくつまで使っていい?」


「今回は特別サービスだ全部でいいぞ。学園長の言質はとったしな。」


「おーい、修行ではなく。訓練の100分の1くらいで頼むぞい。」


チッ


心の中で舌打ちして出て行った。

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