十年来の思い続けた人はやはり綺麗だった

学園には寮も存在するが希望により自宅から通うことができる。俺もその一人だがビアンカは寮住まいをしている。今いる扉は自分が買い上げそしてある人物と一緒に住むためにいる部屋だ。


「久しぶり、レナ姉。」


「おかえりなさい。ロレン。」


たった一言それだけで俺は報われた。


「「愛してる。」」


小さくフレンチキスを行い部屋に入る。


「あらためてロレン。ちゃんとやることはできた?」


「ああ、ロッツォとの約束は果たせたよ。」


言葉は少ないでもそれがレナのもとに帰ってきた実感を運ばせる。


「晩御飯は食べた?」


「レナ姉と一緒に食べたかったからまだだよ。」


「そっかじゃあマッコリと一緒に作ったフォンデュシチューを一緒に食べましょう。パンはバケットと黒パンどっちがいい?」


「どっちも。レナ姉との食事を長く楽しみたいから。」


新婚夫婦のようだった。否熟年夫婦である。互いが互いを心の底から信用し裏切られたとしてもいいと思えるほどに深く深く、互いが依存しあう。まるで憑りつかれた様で病んでいる。歪んで不安定、それでいて純粋で清く相反する表現が成り立つほどまでに10年の時は長く険しくそして思い続けた者だけが得られる飢えの快楽。


「うん、ありがとう。それじゃあ食べましょう。」


三日間、何も食べていないものにただの重湯を飲ませただけでそのものが感動を覚えるように二人は会えた、ただそれだけで生物としての快楽以上の幸福感が得られてしまった。これ以上求め合ったら毒に成りかねないほどにまで飢えたものに互いが死ぬ気で求め合おうとしていた。


「うん。」


互いが久々に番と食事をする。生涯パートナーを変えることなく共に生き続け愛し続ける鶴のように遺伝子レベルで隅々まで互いを知り尽くし愛し合うからこそ見れる景色、光景がロレンとレナの間を満たす。これもまた《スライムの祝福》を持ち細胞学を修め実体験を重ねた二人だからこそできる奇跡。


「このパン、もしかして。」


「うん、バターも牧場のヤギの乳からマッコリで作ったよ。ロレンもファニたちと色々作ったって話は聞いたよ。チェシルたちもそこにいるんでしょう。」


「ああそうだ。俺が作った商会にいるさ。レナ姉にばれないようにしたんだけど、やっぱいわかっちゃったか。」


「そんなのわかるよ。だってロレンのことが大好きなんだもん。」


なんてことはない、レナもレナでロレンのことをただ待つのではなくいつでも帰ってきてもいいようロレンの情報を集め準備をし続けた。この十年の互いの重さと険しさ、本来思春期を過ぎてから味わうであろう社会の理不尽さを味わったのだ。


親しい者に愚痴ることすら許されぬ孤独な環境、

親子会社と年功序列における複雑な国の経済、政治の上下関係、

知識の無い者による口答えすら許されない叱責、

上司による趣味、人生の在り方の完全否定、

法を破ることすら遊び心と抜かす馬鹿げた思想、

暴力によるいじめが児戯に等しい、複雑な貴族社会の点数制度における陰湿な冷戦下のいじめ。


これらは全て読者にも降りかかるかもしれない社会の現実だ。ロレンたちはそれを味わったのだ。思春期すらまだのその歳で理解したのだ。


彼らは狂った、否、正しき疑問を持つことになった。


その正しき疑問がロレンたちを野生の理性と表現できるものにまで昇華させた。


食事を食べ終わったロレンとレナは毒に等しい薬を貪り合った。人はそれを愛と呼びヒトはそれを生と呼んだ。


そして俺は思った。


十年来の思い続けた人はやはり綺麗だった。

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