待ち人来たる。

私の名前はレナ

《スライムの祝福》を持ったせいで親に捨てられた孤児だ。と言っても私は親のことを覚えていない。今の家族が引き取った時は雪山の吹雪が続く中、既に虫の息でそこから回復するか本当に危ない状態で見つかったらしい。

覚えていたのは名前だけ


引き取ってくれた家族はとてもよくしてくれた。実の子なんて関係ないくらい平等に構って甘えさせてくれた。


ビアンカというお姉ちゃんもできた。他にも兄弟姉妹がいたけど長期休暇の時しか会えなかった。


ビアンカはやんちゃで破天荒、契約した炎精霊のラルと相まって村に活気を生んでいたと思う。対して私は本を読むのが好きだった。文字を覚えていくのは楽しいし人のさまざまな考えから世界を広げていくのは楽しくて堪らなかった。特にチーズについて本は面白かった。


両親にそのことを話すと喜々として協力してくれた。父と母は一部のチーズの管理を私にさせてくれた。父にユウイチ叔父さんの本のことを話して《スライムの祝福》を初めて使ってみたいと言ったら。わざわざ仕事をさぼって深い山奥まで行って私の思い描くチーズつくりに必要であろうミルクスライムと契約させてくれた。父はマッコリを飲みながら安いもんだと笑って私の頭を撫でてくれた。母はそのあと父が仕事をさぼってしたことを怒っていたけれどぎゅっと私とスライムを抱きしめてくれた。


そんな充実した日々が続く中、私はお姉ちゃんになった。そうはじめての自分より下の子、弟ができた。一つ違いで私と同じように拾われ記憶をショックで無くした《スライムの祝福》を持った子だった。よくあることだ。


でもそれ以上にということが


可愛くて


嬉しくて


愛おしくて


恋してしまった。


もうそれからずっと同じ布団に入り本を読んであげたり抱きしめてあげたいという欲求で頭がいっぱいだった。もちろん全部やってあげた。お風呂とかも一緒。寝るのも一緒。食べる時も一緒。そう私たちは家族だった。そりゃあ弟に嫌われたくないからプライベートは尊重した。私はその時間にチーズに研究に打ち込んだり料理を覚えたりした。


弟ができて僅か三か月足らずで弟は旅立った。


プロの冒険者になるために。


私は泣いた、半年は枕を濡らした。


それほどまでに弟の存在は大きくそして掛け替えのないものだった。


それでも私は


行かないで


その一言は言わなかった。言えないのではない。言わないのだ。愛して止まない、だからこそ弟自身が本当に道を決めた、それを後押ししたい気持ちは有って当然。それでも行かせたくはない気持ちはある、可愛い子に旅をさせろというけれど私はさせたくなかった。けれども、弟が自分を離れ離れになってまで成し遂げたいこと、そして絶対に私と結婚することを言ってくれた。


だから私は言わない。


今この瞬間


「おかえりなさい。」


を誰よりも先に言いたいのだから。


私の愛して止まない弟、ロレンがこの国に私のもとに帰ってきた。

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