やること
王都 裏路地
「さてさて、ファニ。」
ロレンは何もない殺風景な裏路地に回ってファニに何か探すように指示を出していた。
「はーい主人。」
ファニはこそこそと裏路地の中を散策していく。触手でモノをどかしたりしながら何かを見つけようとしている姿は微笑ましい光景だがこの裏路地には一切と言っていいほど生き物の気配が存在していなかった。それも相まって危ない場所に子どもが無邪気に遊びに来たようでどこか危なっかしくも見える。
「主人ここだよ。」
ファニは触手で一つのレンガを指さし、ロレンにお目当てのものが見つかったと報告する。
「サンキュー。」
ロレンはそれを快く受け取りファニに対してお礼を送る。
その様子からファニは試しにロレンの肩に飛び乗りナデナデしてアピールをしてみた。仕方がないと思う反面、可愛くてしょうがないのでナデナデし始めるロレン。
ファニはそれで気分が良くなったのか。むぎゅうとロレンの顔に張り付いた。
フニャン
空間が切り替わった。何もない裏路地から突如として比較的綺麗な大通りが現れ市場のような空気に切り替わっていた。
「裏社会の番地。やっぱどこにでもあるわな。」
ここがロレンたちの目的地、マライア王国の裏番地と呼ばれる場所。マライア王国の王都の裏を仕切る者たちが住む根城だ。無論この裏番地と呼ばれる場所は世界各国に存在し情報伝達能力は冒険者ギルドを越すと呼ばれるほどの異質な地域となっている。
「あそこの屋台で食べよ!」
ファニは人間形態になり白髪の青い瞳を持つ美少女に変化し手をブンブン振りながらはしゃぎまわり内臓焼きの屋台を指差す。この町の住人たちは警戒こそするが表には出さず詮索もしない。だからファニの能力を明かそうと不気味がられることもなかった。
「しょうがねえな。おっちゃん右から2つ目と左から4つ目を1つくれ。」
いかにも修羅場くくってきた極道の人間といった顔に傷がいくつもあるおじさんが新鮮な
「あいよ。あんちゃん、学園の人間かい?」
屋台の人間はここに来る人間では新入りであることを確信してロレンの見た目の若さから学園に何らかの形で呼ばれたもしくは訪れた他国のスパイもしくは冒険者が来るのが相場であることからロレンの素性を割り出そうとしていた。
「これからな。」
こちらは試験を受けたばかりの人間だということを言外に伝えつつ。軽く殺意のない威圧をする。
「なるほどね。裏の社交性はあるみたいだ。島のボスに挨拶する必要は無いよ。どうせわからないのもあるがボスはおっかないからね。」
試験を受けたばかりの人間ということから他国のスパイ説を切り取った。学園は編入などを行う際徹底的に調べ上げる。住民票の偽造が無いか、血筋の中に他国の人間がいないかなど、この国のでの活動経歴をすべて調べられるのだ。プロ冒険者を除いて。だがプロ冒険者は裏の人間以上の自由人、基い変人。どちらにしろこの時期の来たということは国が認めざる得ない人物ということだろう。そしてそんな酔狂なことやるであろう人物に該当するプロファイルを屋台の店主は脳内検索し始めた。
「そりゃどうも。ああ後ボスに言っておいてくれ裏闘技場の制覇をしにきたとね。」
目の前に居るボスであろう人物に伝える。紛れもなくロレンの予想だとこの男は島のボスであった。その立ち振る舞いと重心の置き方、威圧を軽く流して思考に集中していることから危険度の有無を大きく理解している国王とはまた違った指導者に;ふさわしい人間だろう。
「ああ伝えておくさ。Aランクのプロ。」
ロレンのプロファイルを導き出した屋台の店主。そして裏闘技場の制覇の意味するところ資金が足りなくなるかもしれないぞという脅しからこちらもお前を知っているから相応の用意はしておいてやるというメッセージを伝えた。
「ありがとうよ、薬師のおっちゃん。」
暗に魚に含まれている香辛料の数々からこの国での禁止物質なども割り出しつつ俺もお前を知っているとの旨を伝える。
互いが互いの隠語を振りまき探り合いをしながら微かな情報から予想していく。
「さてファニ、ボスへの挨拶も済んだし荷物を取りに行くぞ。」
「うん主人。この魚、美味しいね。」
「ああ、そうだな。引き立てのガラムマサラに綺麗に洗ってある梁仙梵に団栗アンコウのてっぽうがよく合う。」
団栗アンコウというモンスターーはその硬い皮が特徴的なモンスターでそのあん肝鍋は絶品ということが東方の国々ではよく言われるがマライア王国ではまだ魚類モンスターの下処理を行う技術が未発達なためあまり好まれない。だが裏番地は様々な技術が金次第で真偽は定かではないがいくらでも入ってくる。そのため当たりを見つければ王都の最高級レストラン以上ものが食べられたりする。灰汁が若干強いがそれに負けない旨味とスパイスが食欲刺激する。薬効成分が薄い部分とは言え内臓だけに苦みがするが酒の肴にとてもいい味だ。また炭火で焼いているのか香ばしさが段違い。
「だが、ファニ。」
「うん主人。」
ガラムマサラの中にあるこの国では宮廷料理人にしか扱われることが許されていないスパイスが含まれていた。
ヘンプシード
麻の実だ。(七味の中に入ってる。)
「やっぱ栽培しているみたいだな。」
宮廷料理人にしか使われない理由としてかつて麻の葉をいぶして吸うという麻薬の技術が流行り禁止されたからである。そのため国が厳重に管理しつつその繊維から作られる服とその食用の実はこの国では王宮に来た人間しか食べられない筈であった。
「けど葉っぱの匂いはしないね。」
「あくまでも下すことが目的っぽいな。多分貴族か。」
「でも暴力による抑圧行為はしてないみたいだね。」
「ああ、比較的真っ当な裏の類らしい。借金とか人身売買は貴族同士がやっていると見た。」
裏表どちらかが正常のときどちらかは腐る。そんなことを思いつつ、必要なものが置いてある店に来た。
禁書店 Black history
「ここだね。」
「とっと済ませるぞ、ファニ。」
カランコロン
「やあいらっしゃい。おや《スライムの祝福》の子っていうことはレナちゃんの弟かな。」
なかなかに妖艶な感じの女の人ともっふもっふのしっぽをもったリス系のモンスターがこちらを出迎えてきた。
「レナ姉もここに来ているのか。ほい、購入に必要なサヒフ皇国クリフォト領の
禁書店 Elite Idiots Fool
の紹介状とプロ冒険者のカードだ。」
この禁書店にはいくつかルールが存在する。一つは一見さんお断りと確実な信頼がおける資格保有者しかものを売れないというものだ。冒険者のプロ資格もその一つでありとあらゆる組織がこの禁書店に関与している。裏番地が影響力を持つ理由の一つだ。いくら国が厳重に管理しようとしても禁書は意思を持ち目覚めさせる。その危険性から禁書店は冒険者ギルドができるよりも遥か昔から存在したと言われるほどに長い歴史と信頼性を持つ、魔術を追究した者たちの組織。
「はいはいっと、私はこのお店の管理者。少しレナちゃんのことでお話でもする?」
「それはいいな。頼んでおいたものをもらう前に一つお茶でもしながら。レナ姉のことを聞かせてくれ。クリフォト領産のいい茶葉があるんだ。」
「じゃあいただくわ。」
俺はティーセットを取り出した。
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