決闘の後

ロレン達は王城に呼ばれていた。普通の人間ならば緊張しそうな場所だが。ロレンとファニはそんな感情は微塵も見せずに堂々と案内役の兵士の後をついていく。今向かっているのは国王陛下の謁見に使われる間で何度か横切る使用人などを見たが頭を下げたりはしていなかった。そして兵士が案内したことに対することから自分のことをあまりよく思っていない輩がいることを推測する。


基本的には兵士は案内役としての仕事には就かず、専用のフットマン、もしくは執事などの使用人が行うことがこの周辺国一体の慣習だ。そのことから確実に自分のような成り上がり者で最弱の《世界の祝福》の《スライムの祝福》の人間、さらに言うならまだ16しか生きていない若造以下の子どもだ。確実に気に食わないと思う輩は居るだろう。この国の王子のフェスタや学園の受付のアマンダが良い例だ。この国は例外を許容できるだけの頭を持った人間がいない。つまり、マニュアル通りにしか生きられていない。平和な国ということだがそれでは国としては不味いはずだ。


「ここが謁見の間だ。入ったら膝をつけよ。」


この兵士もあくまでも自分が行っている行為に疑問を抱いていない。敬語などもしていないことから格下相手としか認識していないのだろう。実際今はロレンは覇気や威圧を徹底的に閉じているので一部の実力者にしかわからないだろうが。だがそれでも国王に呼ばれた人間、客人としての自覚が無い、そしてこちらの信用を勝ち取るに値せずむしろ自分に信用されたければすべてを察知し基本的に言わなくても実行しろというような傲慢すぎる態度。ゴーレム相手では確実に通じない指示の出し方。それがましてやずっと一緒に居た幼馴染でも難しいこと平気で兵士は行うように言ったのだ。


流石にこの扱いの酷さにイラつきまくったロレンは答えない。


そして怒りの感情そのままに右足を振り上げドアを蹴り開ける。


ドカッ


その王への謁見が始まるという部屋に対して似つかわしくない音ははっきりとそしてドアノブの破片と共にカタチあるモノとして兵士と謁見の間に居る者たち全員に認識させられた。


「貴様なんたる無礼を。すぐさま極刑に」


すぐそばに居た白髪こそ生えていないが初老を迎えようかという大臣が口を開き激高した。だが大臣の顔色が思ったよりか普通で声を荒げたタイミングが良すぎることから、この者が意図的にロレンを怒らさせた犯人と特定させるには十分すぎる態度でここまでくると滑稽としか言いようがなくロレンは内心笑いを堪えつつ笑みが少しこぼれニヤついていた。


「静まれ、そして跪くのは私達の方だ。」


そう言うは国王。こちらはあくまでも国王としてではなく今はまだ自分が取るべき子の責任を取りに来た親の精悍な顔をしていた。


「しかし国王様これでは民衆に示しというものが。」


大臣はそんな顔を見ても国のことを優先したいのか自分の方が正論だと言わんばかりで口こそ丁寧だがどこかどこか舐めてかかっている態度であった。その態度からこの国パワーバランスの実態から大きく出ているのだろうとロレンは推察した。


「馬鹿者!!仕事の面子なんぞ親の面子ができなければ国民の模範たる国王の面子なんぞ崩壊じゃわい。ましてや放任主義ではないわが国の制度で子の間違いを認め正すことを怠ってしまったことを認めなければそれを見た子も同じように育ってしまうではないか。」


国王は凄ぶる覇気を身にまとい声の大きさこそ普通だが誰よりも通る声で宣言した。

あくまでも国民の象徴たる模範者としてありとあらゆる面で模範となるのが国王であり王族の務め、それこそがこの国王をここまでのことを言わせるだけの理由なのだろう。ある意味で誰よりも国に尽くし続け誰よりも民の見本になれるように導く理想の国王象、指導者が見えているようだった。


「国王様それでも「自分の保身ばかり考える馬鹿がよく言うな。」.......貴様、この平民風情が!!」


俺は口を出した。完全なる挑発をもって。この国王は信用に値する人物で人を引き付けるようなモノは一切ない、だがそれでも理想を掴もうとするその姿勢が自分が援護するだけの信念があると思わせるには十分すぎる眼だった。


大臣も大臣で国王と話し手中に収めようとしている最中に邪魔が入りさらには図星も突かれたことにより顔を真っ赤にし目に見えるほどの怒り、というよりは癇癪を感じた。どこか自分中心の世界観を持ちそれ以外は邪魔者と排除するそういう輩に多いケースだった。


「じゃあ殺し合うか?」


一つ決闘の提案を入れる。これは誰もが行い、歴史が証明した行いの一つだ。だから乗ってきたら儲けもの程度に吹っ掛けてみたのだ。


「ふん、野蛮人めが。」


ある意味でその通りだがはっきり言って上からモノを言う立場ほど野蛮なことは無い。人の価値観の否定及び心の発達の強引な軌道修正、それを野蛮と言わずして何という。自分の味方を創りたいがあまり個性を潰し新たな考えを探求しようとしない。発信はできないまでも考え方を潰してしまっては牧草地にするためだけに焼畑を行うような所業。大臣はそれを話したのだ。


「その言葉、マライア王国出版の世界の史実を読んでいるのか?」


「なにを言うかと思えば私は貴様のような低俗な野蛮人とは違うのでな本など読まなくても世界の史実くらいわかるわ。」


ロレンの言う世界の史実とはこの国で初めて書かれたどこの国からの視点でもない純粋な史実である。


「大臣、この時をもって貴様の任を解く。」


「なぜですか国王陛下!」


突然と解雇を言い渡された大臣は慌てふためく。しかしそれは国王として当然だ。国としての利益を考えるならこれ以上の不確定要素は要らない。


「お主が彼ら冒険者を野蛮人と罵るのならば私たちは野蛮な侵略者によって作られた賊国だ。私がどれだけ正しい歴史の解明に注力してきたか解らぬようなお前なんぞ。平和な時代のこの国を導くものではないわ。」


「そういうことだ。マライア王国出版の世界の史実は全てにおいて平等なる視線と自国の反省の意味が込められた本だ。史実を嘘偽りなく完璧に伝える国は他にもあるが最後のページにこれを書く奴は中々いない。だが未来を正しく描くには過去を認識し認めることはリスクはあるがいい人材が育つだろう。」


大臣は項垂れ兵士に連行された。


「そう言っていただけたようでありがたく思う。ユウゾウ殿の義理の息子、ロレンよ。」


「まあどうでもいい。とっと話を済ませてくれ。こちらも三日後の予定のための準備が存在するからな。」


「ああ、私のバカ娘が飛んだ先走りをしてしまった。今後、娘にそういったことはさせないよう。しっかり言い聞かせるつもりだ。それとお詫びと言っては何だが食事でもどうかな。」


本当に子思いなのだろう。仕事ばかりで疎かになったのを言い訳にしないのも好印象だ。


「ああわかった。ただ、今日は無理だ。予定がある。」


「いつでも良い。娘に言ってくれ、すぐに招待しよう。あと姉君たちもぜひ連れてきてくれ。」


「まあ姉さん達の予定が合えたらな。」


「それで良い。それと来ておるのだろう、娘よ。こちらに来なさい。」


端の扉から件の彼がやってきた。


「ロレン殿、此度は私の多大なる勘違いにより巻き込んでしまったことを深くお詫び申し上げます。」


フェスタは先ほどの態度とは打って変わって丁寧な態度だが少し恐怖の表情が見えた。おそらく決闘でのことが相当堪えたのだろう。


「確かフェスタだっけ、男装しているのは時期国王候補の一人として舐められないようにってのことだろ。」


「ああ、その通りだ。見ての通り男の恰好をしている。それと父上、これは口外しないように言ったはずでは?」


「最初から気づかれていることに気づかないとはまだまだよのう。」


国王もロレンが気づいていたというか経歴から察知していた。俺はその隙に背を向け部屋を去る準備をする。


「え?」


その間抜けな声と共に部屋を出ていった。家族の語り合いに部外者は居ない方がいいだろうという配慮を思っての行動だが。


「この者ユウゾウ殿の義息子ぞよ。」


「あの方の息子?しかしなぜ今学園に?」


「ユウゾウ殿が認めたものにしかプロ冒険者試験をさせないことは有名だろうに。」


俺はドアノブを壊したせいで兵士たちに睨まれながらすぐさま王城を後にした。

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