引き継ぐ者
キンッ!
カンッ!
硬質な金属音が鳴り響く。
時折金切り音と刺激臭が辺り一帯に広がる。
実力はロレンが押し負けていた。
「おい童、儂の逆鱗をぶっ叩いた癖になんだそのヘナチョコな攻撃は。」
竜は落ち着きを取り戻していた。
「そうだなおっさん。俺はまだまだヘナチョコさ。だからファニとチェシルがいるのさ。」
「ゴフォ!」
竜は血反吐を吐く。
「これは痘の類か。」
直ぐに適応し復活する。
「その万能抗体便利だな[ロードオブゲノム]がまるで通じねえ。」
「抜かせ、童こそ数千の疫病を操ってあるでは無いか。」
かれこれ同じことを数千回は行っている。
「でもアンタには届いてないだろ。その硬い鱗といい、生命力といいドラゴンが最恐の代名詞と呼ばれる理由がわかってきた気がするぜ。」
「当然じゃよ。」
竜は翼を広げる。
「神々にこれくらいに対抗するには神々の弱点くらい克服せねば反逆なんぞせぬわ。」
「反逆。」
ロレンの目に浮かぶはかの最恐。
ならば自分の最恐を再現しろ!
そう思考したとき
「人の道を踏み外すな童よ!」
この言葉がロレンの行動を止めた。
そしてその一瞬が運命を分けた。
ロレンは竜の爪に肺から上と下を引き裂かれた。
「ファニ、チェシル。強制縫合。」
別れた部位から触手が伸び強制的に引き戻す。
「おい、童。考え事とは死にたいのかえ。」
「ファニ、チェシル。解除。」
ロレンはファニとチェシルとの融合を解除する。
「ふむ、策尽きたかのう?」
「ああ策は尽きた、だから賭けをする。[ロードオブゲノム]」
ファニとチェシルの身体が発光しロレン自身に疫病をかけた。
そしてロレンが纏い続けた瘴気もまたロレンを飲み込んだ。
「俺の細胞よ、数億に一つの細胞でいいこの最恐に一矢を放つ過去の遺物を引き出せ!」
その言葉にたった一つの細胞が答えた。
「[最小魔王・魔王軍顕現]」
瘴気が晴れる。
「お主、童では無いな。」
「如何にも野武士悪党三郎。子孫の願い聴き祀った。我が相棒ねり丸と共に。」
ファニとチェシルもまた身体を変異させ三郎の相棒になっていた。
「[業魔・民刀]」
ねり丸は刀と鞘に形を変える。
「さあ異国の竜よ、存分に相手をしてやろうぞ。」
「笑わせるよの貴様ら一族は。精々かかってくるがいい。」
二体の雄は互いに己が武器をぶつけ合う。
だが、三郎は闘うつもりなかった。これはあくまでも先祖の試練だとして。
ロレンは今、三郎と対峙している。
正確にはロレンの細胞が意思を持って呼び覚ました三郎の細胞と対峙していた。
ロレンの心像でファニとチェシルと共に
「ほれほれ、わっぱ!」
正に流水の如き乱撃にして蜂の針のように小さくそれでいて鋭い刀の扱い。
「チェシル[業魔・桜翁、犀花]」
手裏剣を使い刃を逸らし棒手裏剣を口に挟みそれを三郎の首に刺そうとする。
「どうしたそんなことでは大切なものは守れんぞ。」
だが三郎は紙一重で避けロレンの左肩を切断する。
「解ってるさ。[業魔・幸世創造]」
ロレンは距離を取った、この場において腕を接合するのは不利と悟ったからだ。
そして使うのはツイストドローによる早撃。
三郎もそれを悟ったのか刀を鞘に戻し抜刀の構えをする。
そして二人は同時に抜いた。
ロレンの銃弾は三郎の眉間に差し掛かりこそしたが三郎の刀の峰により逸らされた。
そして今度は右肩を切断された。
「ククク、アハハハハ!!」
「どうした機でも狂ったか。」
「嫌、解ったんだよ。アンタがそして父が手心を加えているってことに。もう加える必要は無いぜ。何故なら俺はただ一つの貴方達の弟子としなるのだから。ファニ、チェシル[最小魔王・産声]」
今度はファニとチェシルが同時に二人でロレンの体内に入る。そしてロレンの装束が変化し何も無い面が新たに生まれた。
「死に装束、嫁ぐ花嫁衣装と同義。面は情を断つか。正に模倣の初心、よかろうわらべ俺の色に染め上げてくれる。」
教えを説いてやろうと意気込み三郎だが
「そうはならねえ、この真っ白な服から俺の色をこの世界で作って見せる。」
「ほう俺に教えを請わず画材とするか、ならば呑まれるなよ。俺の色はちと強すぎるからな。」
「違うな、アンタじゃない。アンタらだろ。」
そうこの精神世界の闇に彼らは居た。
「ククク、皆の衆出てきな。お前の16世代前の系譜から上の奴らが今からみっちり付けてやるからな。貴様の覚悟とその自我、いつまで持つかな。」
ロレンの血筋、その若かりし頃の姿の先祖と相棒達からロレンの現実での生死を賭けた修行が今始まった。
そう本当の地獄が
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