ゼネコン蟻の巣3、図書館
ロレン達が図書館に入るとそこには数万冊はあろうかという本が置かれていた。
「ここは母さんが授業で使うこともあるから、度々くることになるとは思うけど見ての通り色んな本が置いてあるの。」
説明するのは先に入っていたビアンカだ。
「ま、私達モンスターはあまり入ろうとしないけどな。」
そう言うのはラルである。
「絵本とかも置いてあるからロレン君読んでみる?」
ミーナがそうロレンに提案する。しかしロレンは首を振った。
「絵本じゃなくてスライムの本が読みたい。」
大人ぶりたい年頃のロレン君。
「じゃあお姉ちゃんが読んであげる。マッコリ、私がチーズの研究に使っていた本とユウイチ叔父さんの本を持ってきて。」
そう言うとマッコリは本棚を跳び上がりながら本を2冊持ってきた。
【発酵及び腐食に関する実験レポート
著者ミソ・ナットウ】
【スライムの可能性
著者ユウイチ・シンキョウ】
「このうち叔父さんが書いたものがロレンの読みたがっていた本で私がチーズに使っていた本は一応為になるかなと思って持ってきてもらったけど。どっちを読んでほしい?」
ロレンに選択を迫るレナ。
「じゃあ、叔父さんのは今度来てもらうから今はチーズの本で。」
そう言いミソ・ナットウの本を取ろうと手を伸ばす。しかしレナはロレンの手を避ける。
「レナ姉さん、本を貸してよ。」
ロレンの抗議に対しレナは首を振り、代わりに座って膝をポンポンと手で叩いた。
「ロレン、この本は難しいからお姉ちゃんが読んであげるから膝に乗って。(ロレン、お姉ちゃんと一緒に触れ合おう。そしてクンクンさせて。)」
レナは良い姉の仮面を被りロレンへの純粋な好意という演技を作る。実際の心の中は結構、黒かった。
「レナ姉さんありがとう。」
しかしロレン、すぐに応じる。なぜならばロレンの知らない単語が表紙にあったため読めないと思い。姉はそのことを察して読んであげようとしたと思ったからである。
レナは変態であることを除けば弟に構ってほしいお世話好きの姉である。そのためロレンは信頼してしまった。
レナの作戦は成功した。ブラコン変態姉ここに極まる。
ロレンはレナの膝の上に乗る。高々1歳の違いだが5歳と6歳の差。だがレナの身長は121cmとやや平均よりも高く、ロレンの身長は94cmと平均よりも小さい。そのため膝の上にはややはみ出るくらいで済むし、頭が邪魔で本が見えなくなることもない。
「じゃあ読んで行くよ。」
だがしかしロレンの純粋な知識欲に対する心遣いも忘れない。
「うんお願いレナ姉さん。」
「じゃあ、まず序章から」
私がこの本に記載したことは発掘されたある学者が書いた本を元に翻訳及び実証実験を行ったものである。この本には腐敗と発酵はどちらも蛋白質を分解して行われていることが書かれている。
この腐敗と発酵の要因の正体は古代語で「菌」と名付けられた種族のことである。菌とは我々の肉眼では見づらい微生物の総称であるとされている。尚この事は極東にある島国で今も使われている。
「へえ、ユウイチ叔父さんが言ってた菌ってこれのことなんだ。」
「うんそうだよ。父さんと父さんの兄弟は極東の島国の出身らしいよ。じゃあ続きを読むよ。」
では腐敗と発酵の違いは何か。
私の考察では菌の種類と結論づけた。根拠としては様々な発酵食品と腐敗した物の菌を見比べてみる同じ色と形をした菌でも毒素を出す性質を持ったものと出さない性質を持ったものがあるようだ。
即ちこれは同じ進化を遂げながらも派生した証拠に他ならず、同じ色と形をした菌でも完全なる別個体として考えた方が良さそうだ。
そして、菌は基本的には繁殖力が高く別種の菌と当たった場合は縄張り争いが発生し多い方が勝つといったことが多かった。
無論例外もあり、ある種に対しては特効的な性質を持つものもいた。
「ファニ達にも似たようなことがあるのかな?」
そう言いロレンはファニとマッコリに目を向ける。
ファニは自分を指しクエスチョンマークを浮かべた。マッコリもファニに賛同するようにファニをつつきポンポンと2回跳ねた。
「ファニ達はわからないみたいだけど、お姉ちゃんの実験ではチーズを作るときにマッコリは黴のチーズを作れなかったから縄張り争いまでとはいかないけどあると思う。」
次は菌の発生条件について語ろう。
そもそも菌というのは何処にでも存在する。つまり発生条件は無く基本的には増殖して目に見えるくらいもしくは生物内で増殖し症状が現れるまでとなる。
増殖条件としては前者の菌は主に湿度が高い時ほど増殖しやすい種が多いようだ。温度も調べたのだが寒帯の地域と熱帯の地域でも発生するためあまり参考にはならないだろう。
次に後者だが生物内で増殖する場合はモンスターの中でも身体の構成を占める割合の内水分が50パーセントを超えるモンスターに多いようだ。そう言ったモンスターには変温モンスターと恒温モンスターという分類があり、変温モンスターと恒温モンスターで生態が異なり変温モンスターについては私の研究が及ばなかった。
そのため変温モンスターに関してはあまり期待せずに聞いてほしい。
「変温モンスターと恒温モンスターって何?」
「モンスターの体温が変動するのが変温モンスター、ずっと同じ温度に保っているのが恒温モンスターなの。」
「ありがとうレナ姉さん。」
まず共通事項として変温モンスター、恒温モンスター共に腸などの消化器官に菌がいて排泄物などの分解を行い、消化吸収を助ける役目をする事で共存関係を行なっていることがわかった。
変温モンスターで増殖する菌に関しては基本的には獲物を狩る際に接触する事で菌が獲物の体内に入り細胞を破壊し毒素を出すことで共存関係を成していると私は考えている。
恒温モンスターに関してだが基本的には共通事項と同じなのだが菌の中でも病の原因になる菌がある、ここでは病原菌と呼ぶ。病原菌が毒素を出し腐食すると反応しモンスターは菌を殺すために熱を出すようだ。この点から察するに我々人間も恒温モンスターに近い身体なのかもしれない。
話が逸れたが以下のことを纏めると変温モンスターは菌の腐敗、毒素に関してある程度の耐性を持ち、菌を狩りに使うことで共存関係を強めているようだ。恒温モンスターについては病原菌などの己の体に害をなす菌が存在するので共存するのはあくまでも自分らに対し害を全く与えない菌のようだ。
「へえじゃあファニににも菌はいるのかな?」
「それはお姉ちゃんにもわからない。」
腐食と発酵の違いについてこのレポートを読んでわかっていただけたと思うが、私の研究ではこれが限界であった。故に未来あるものにこの研究を引き継いでほしいと思う。
マライア王国歴362年死去ミソ・ナットウ
彼の死後、この研究は病気に関する発見とされた。しかし、彼の研究して欲しかった菌の増殖条件について解明できたものはいない。
発行日マライア王国歴6422年代117版複写本
「はい、これでお終い。どうロレンの為になった?」
「うーんよくわからないかな。」
「そっか、じゃあ叔父さんの書いた本も読んでみる?」
「それは今日はいいや。」
「じゃあロレン君この絵本を読んでみる?」
そう横から話しかけたのはミーナである。
「絵本?」
その本を見るととても絵本とは思えないほど厚かった。
「そう、『叡智の主人達』って言う本なんだけど面白いよ。」
「【叡智の主人達】?」
「そうこの絵本は人気の少ない祝福人達をを題材にした絵本なの。」
「じゃあ読んでみる。」
「うん、はいロレン君。」
レナのように読んであげるということもしてみたかったミーナだがここはグッと我慢しロレンに本を貸した。
「ミーナお姉さんありがとう。」
その返事は心なしかレナの時よりも嬉しそうだ。
「ミーナ狡い。」
「え、レナちゃん?」
「ロレンがミーナにデレデレしてる。」
「そんなことは無いよ。ロレン君はただ御礼を言ってくれただけだもんね。」
「うんそうだよレナ姉さん。」
しかし納得しきれないレナ。なぜならばロレンもミーナもいつも以上に笑顔でいるのだ。そんな時レナの頭の中にこんな声が聞こえてきた。
(謎の声S:フハハハハ、所詮貴様は紛い物(養殖)。
訳:貴女は所詮知識だけの人で相手が求めているものは解らずまた加減も知らない。だからそれを感じ取ることのできる天然物には勝てない。
レナに衝撃が疾る。そう自分はいかに
「ロレンはお姉ちゃんのこと嫌いなんだね。」
そう言いレナは倒れた。いつものように天に召されて倒れたわけではなく、自分がロレンに嫌がられている理由が自分自身にあると理解しロレンに好かれたいが嫌われた状況を作ったの自分だと言う葛藤によるものだったためレナは意識がある。
流石に本どころでは無いと思ったロレンはレナを慰めにかかる。
「レナ姉さん、本を読んでくれて嬉しかったよ。お礼に今日も抱き枕にしていいから元気出して。」
ここでロレンからの応援を発動。
「いいよロレン、無理しないで暑苦しいでしょう。」
しかしレナのテンションは上がらない。
「レナ姉さんどうしちゃったの!?」
「そうよレナ。貴女はロレン大好きの変態ブラコンだったじゃない。」
マッコリもどうしたと言わんばかりに身体を捻りペチペチとレナを叩く。
ファニもついでに触手でレナのほっぺを抓る。
しかしレナの反応は無くブツブツとつぶやいていた。
「私はロレンに嫌われている。私はロレンに嫌われている。私はロレンに嫌われている。私はロレンに…………」
ハッキリ言うとレナは怖かった。
「レナ姉さん僕は姉さんのこと嫌ってないよ。」
「ロレン大丈夫無理しないで私なんかよりミーナと一緒にいた方が楽しいでしょう。」
レナは完全に卑屈になっていた。
「ロレン、レナの事は今はひとまず置いてといてそろそろ帰らないと母さんに叱られるからレナを連れてとっと帰るわよ。」
「あーそうだね。ビアンカちゃんの言う通りそろそろ帰らないと。」
「うん。本はどうすれば良い?」
レナの事が心配ながらも言うロレン。
「その本は家に持っていっていいから。早くレナを担いで行くわよ。」
そう言いビアンカは未だにブツブツと私はロレンに嫌われているとつぶやいているレナを担ぎながらさっさと図書館を出て行った。
ロレン達も後を追うように出て行く。
ラルは最後に出る時にあるものを見つけた。
【男を上手く落とす方法ベスト10(R18)】
「レナはコイツを読んだからロレンの接し方が変わったのか。こりゃあビアンカの母ちゃんに報告だな。」
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