おやつの時間

訓練が終わり父におんぶされながら家に帰るロレン。もはや声すら発することさえできれば状態になっていた。


「ロレン、帰ったら改めて聞くが訓練を続けるか?」


(謎の声S:......返事がないただの屍のようだ。)


「疲れて何も言えないか。」


そう呟く父、ロレンはただ黙って聞くことしかできなかった。それほどまでに辛く限界まで訓練されたのである。やめたいとも思った。けれども、姉達に言われたことから絶対にやめないと言ったのは自分である。それが自分が止めるのは御門違いというものだ。故にロレンはやめられなかった。自分の意地という檻に縛られて。


「ロレン、父ちゃんはな別にロレンが諦めてもいいと思ってるんだ。母さんや姉ちゃん達に言われたことなんてどうだっていいさ。意地でやってやりたくないならやめたほうがいい。ただな、その決断で後悔しない選択をしろ。ロレンはまだ幼いからわからないかもしれないがな。父ちゃんのする訓練だって母ちゃんの授業だってみんなロレンが後悔して欲しくないから行っているんだ。ロレンがどんな道に進むかっていう選択肢を増やして後悔させない様にな。だから、ロレン帰ったら答えを聞かせてくれよ。ってもう寝ちまったか。」


(謎の声S:なんとまあクサイセリフ言ってますな父ちゃん。ま、実際その内容は文章の向こう側でもそうだけどね。)


謎の声Sの呟きはさて置き、父とロレンは家に帰っていく。


玄関には母がいて出迎えてくれた

「ただいまアンネ。」

アンネとは母の名前である。


「おかえりなさいアナタ、ロレン。」


ロレンは未だに返事ができるほど体力を回復しておらず、挨拶ができなかった。


「アナタまた無茶な訓練をつけたんでしょ。ロレンが喋れないくらいにクタクタじゃない。」

ちょっと不機嫌そうな声音でいう母。


「しょうがないだろ、こればっかりは中途半端にするわけにはいかないんだから。」

仕方がないと言わんばかりにいう父


「かといっても限度ってものがあるでしょ。いくらロレンが心配だからってそこまですることはないんじゃないかしら。」

ちょっと夫婦喧嘩に発展しそうな状況


「生半可な覚悟で冒険者やる奴はすぐに死んじまうんだ。だからやめるんだったら今のうちの方がいい。お前だってロレンに死んで欲しくないだろ。」

少しばかり厳し目だが息子のことを思っていう父。


「それはそうだけど。」

納得はしたが不満を隠しきれてない母


「じゃあ、ロレンにはおやつを食べさせてから意思を聞いてくれ。」

とばかりに息子を母に預け後のことを息子に任せる父


「はあ、ロレン疲れたね。母さんが治すからね。顕現しなさい王と共に生き、王の死せしとき癒しとなり恵となり王の魂の守護者となりし羊スフィンクス。」


すると玄関の中を光が駆け巡りそれが収まると頭に角を生やした黒髪黒目で長い髪をした褐色の美女が現れた。


「私を呼ぶとは珍しいですね。アンネ」


「ええ、できれば私も呼びたくなかったのだけれど、またあの人が子供に馬鹿やってね。悪いけどこの子の治療をお願いするわ。[オシリスの安眠]」


「ええわかったわ。」


スフィンクスはロレンを治療していくと言ってもロレンの筋肉等の組織ではなく脳の治療である。時刻豹の百のかけた術は脳や精神に限りない負荷をかける。無論、肉体にも掛かるがそこは氣整猫の十の術によってある程度は緩和される。脳もこれにより緩和はされるが元の時間感覚に戻った時の反動が大きい。言うならば時差ボケの感覚に近い。


「この子良く耐えたわね。アンネの旦那のする訓練が厳しいのはわかってるけどここまで脳の損傷がひどいのは初めてよ。これじゃあ精神にまで影響が出るわ。」

物凄く信じられないといった表情で言うスフィンクス


「そんなに危なかったの!ロレンは大丈夫なの!!」

あとで旦那をとっちめてやろうと思う息子を心配する母。


「ああ、と言ってもこれはアンネの旦那のせいだけではないわね。どうやら、パスを繋いでいるモンスターの方に問題がありそうね。」

あらため分析したことを上げるスフィンクス。


「どう言うこと確かにファニは前の主人を無くしたと思われるスライムだけどそれが何か関係あるの?」

ファニが過去に何らかの事情があった事を思い出し口に出す母。


「一概にもそれが原因とは言えないが何と言えばいいのでしょうか、この子のパスは確かにスライムのものだがそのパスを繋ぐスライムの線がスライムではない違うものを示していると言うのが1番近いかしら。」


「ファニがスライムじゃないってこと?」


「いいえ、そうではないわ。多分、前の主人の残留思念もたいなものがこの子のスライムにあってその主人であるこの子に悪影響を与えているのね。言わば他人のトラウマを無理矢理植え付けけられたようなものよ。時期にこの子が慣れて収まるから安心していいわ。」

そう聞いて安心する母


「じゃあ旦那のつける訓練はやめさせた方がいいわよね。」

父の訓練が容体を悪化させるのではないかと心配する母。


「ええ、確かにそうだと思うけど今は様子を見て時刻豹の術をやらずに訓練するなら構わないし、明日も大丈夫そうだったら時刻豹の術を使って訓練をつけてもいいわ。ただ今日は絶対安静にしておく事ね。」

治療する者として診察の結果を言うスフィンクス。


「ええ、わかったわ。」


「それじゃあこの子の治療も終わったし、帰るけどこの子の訓練に対する意思は本物だから母親として尊重してあげてね。」

スフィンクスは母を見透かしたような目でそう告げた。


「はい。あとこの子の名前はロレンって言うのまたお世話になるかもしれないからその時は改めて紹介するわ。」

少し驚いた母だが微笑みながら新しい家族のことを告げる母、その姿はまさしく慈愛の姿であった。


「ええ、楽しみに待っているわ。それじゃあね。」

いたずらが成功したとばかりに帰っていくスフィンクスであった。


「ふわぁ。」

どうやら、ロレンが目を覚ましたらしい。


「ロレン、目が覚めたみたいね。」


「あれ、ここは玄関?」


「そうよ。ロレンはお父さんの訓練で疲れて寝ちゃったのよ。」


「そうなんだ。」


「そうなの、まだおやつはあるから。手を洗いとうがいをして来なさい。」


「うん、わかった。」


そう言って洗面所に向かっていくロレン。


ロレンが手を洗い終わっておやつのある居間(リビング)に向かうとそこにはテーブルに籠に布が被さったおやつがあり、ビアンカとレナがロレンをおやつを食べずに待っていてくれた。


「ロレン、訓練お疲れさま。おやつ食べよう。」

まるで保健室の先生のような優しさを醸し出すレナ。(謎の声S:うーん、魔道書エロ本の効果か?)


「うん。今日のおやつは何かな。」

しかし、ロレンは何事もなかったの様にスルー。(謎の声S:やはり、5歳児には早かった様だ。例外は金曜日にあるアニメにいるが。)


「今日はファニとマッコリが作ったチーズと野苺(ブラックベリー)のジャムタルトよ。」

そう言うのは既にチーズの方は実食済みのビアンカ。


「え、チーズはもう出来たの?」

驚きの声を上げるロレン


「うん、30分くらいでできたよ。」

同じくチーズを実食済みのレナ。


「そうなんだ、早いね。」


「ほらほら、そんなこと話してないで食べましょう。」

ビアンカがそう皆に促す。


「うん。いただきます。」


「「いただきます。」」


そう言ってロレンたちはおやつを食べていく。ジャムタルトはのジャムは酸味が少し強めであったがロレンの疲れていた身体には求めていた味で疲れが安らぐようであった。また生地の方はしっとりとしながらも外はカリッと香ばしく仕上げられていてジャムの酸味に合うよう生地の味が甘味を強くするよう調整されていた。そんな工夫がされたジャムタルトが美味しくない訳がなくロレンたちは夢中で食べていた。


「ロレン、チーズも食べてみて。」

そう言ってファニの作ったロレン用に調整されたスライム製エメンタールチーズとマッコリの作ったマスカルポーネチーズである。


「じゃあ、マッコリの方から。」

チーズをパクリ


「美味しい!美味しいよレナ姉さん!!」

チーズの味に絶賛しレナを褒めまくるロレン。


「ありがとうロレン。お姉ちゃん作った甲斐があったよ。」

素直に愛おしき義弟が喜んでくれたことを嬉しく思うレナ。(謎の声S:あれ、暴走していない?)


「お姉ちゃんまた頑張って作るから、ロレンも楽しみにしてね。」

(謎の声S:あれ、真面目に暴走してない。つか優しいお姉ちゃんになっとる。)


「うん、レナ姉さん楽しみに待ってるよ。」


「ロレン、マッコリの方ばかり食べてないでファニの作ったチーズの方も食べなさいよ。ファニが食べてって触手で指差してるわよ。」

ビアンカがそう言うとファニを指差した。ファニは自分の作ったチーズを触手で矢印を形どって食べてアピールをしている。その健気な姿はとても可愛らしかった。


「ファニのチーズも食べるよ。」


「ファニのチーズは焼かないと美味しくないから私とラルが焼いてあげるわ。ラル[竃の灯火ほのお]をお願い。」


ラルは口いっぱいにジャムタルトを詰め込んでいた。

「ん、んんんんん(訳:ん、うん分かった)」


そしてファニのチーズをこんがりと焼いた。


「じゃあ、ファニの作ったチーズを食べるよ。」

そう言いロレンはファニの作ったチーズを口にする。その味は正しくロレンのために作られた味であった。ロレンの味覚にベストマッチしていてとても食べやすく美味しかった。


「ファニすごく美味しいよ。」


ロレンのその言葉を聞きファニのテンションは最高潮登り何やらブレイクダンス?っぽいものを踊っていた。そして、ロレンの下に行き撫でてオーラを出しまくっていた。


「うん、ファニありがとう。」


ナデナデとファニを撫でていくロレンその様子はヌイグルミを可愛がる5歳児相応の様子であった。ファニ自身も撫でられて満足していた。しかし、ここで水を差す人物がいた。


「ねえねえロレン、お姉ちゃんも頑張ったから撫でてもらってもいい?」

ここでなんと甘えんぼうキャラにジョブチェンジしたレナがいた。しかしながら、その撫でて欲しいというの理由はファニの様に褒めて貰いたいという純粋なものではなくロレンの匂いを堪能しながらロレンから接触して欲しいという願望ありありの理由であった。それを見抜いたロレンは


「レナ姉さんはダメ。」


無慈悲な宣告である。本日3回目となるレナの昇天、ここまでくるとマッコリも手馴れたものだ。秒でレナを連れ戻した。


こうして楽しいおやつの時間は過ぎていく。



〜謎の声Sについて

謎の声Sとは今のところラルのみに聞こえる謎の声である。頭文字イニシャルSについてどう取っていただいても結構ですのでご想像にお任せします。

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