父の訓練

水牛がいる水田みずたのところにロレンは来ていた。水牛は玉水牛ぎゃくすいぎゅうというモンスターでその乳は玉のように清らかな味わいだ。肉は硬いので焼く料理には向いておらず、煮込み料理向きだ。水田には米と蓮根れんこんが植えてある。米といっても日本人向けのジャポニカ種ではなくインディカ種のワイルドライスに近い緑色をした野菜のような米を植えている。蓮根は普通秋から冬が旬なのだが牧場で扱っている蓮根は夏が旬の夏辣子からし蓮根という魔植物でその名の通り辛い。辛さは辛子と辣油を掛け合わせた様なつーんとした辛さに後からくる辛さを合わせた辛さである。しかもこの蓮根3年も持つのである。更に酒精の強いお酒に会う為、チーズと並ぶ牧場の特産品となっている。また水田にはすぐに生えてくる様々な雑草が生えており水牛達はそんな水田に生えてる雑草や水苔などを食べている為すぐに肥える。


そんな中蓮根を収穫している父を見つけた。

「父さーん」

ロレンが呼びかけた。


「ん?おぉロレンか。訓練やりたいんだな。だけど訓練より先ず父さんとこ手伝ってくれ。」


手伝いのお願いにロレンは

「うん、解った。」


まあ、何とピュアな子。素直だねえ、あんな時代が私たちにもあったんだねぇ、多分。


とまあナレーションはさて置き、蓮根の収穫である。家畜として飼っている玉水牛は泥の上でも歩けるので収穫した蓮根を運んでもらっている。蓮根の収穫はとても大変だ。1つ1つを傷つけず折らないように慎重に手作業で行わなければならない。更に蓮根は大きい物だと優に3キロを超える。その為大変な重労働となる。父はもう全体の5分の4は終わっていたので、ロレンはなるべく重くなさそうなものを選んで収穫することにした。


蓮根を掴んでみると実に重い。泥を搔き出しながら傷つけないように蓮根を取り出していく。20分後見事ロレンは蓮根を収穫した。

父の方を見るともう蓮根の収穫を終えていた。


「父さん早いね。」


「そらあ、この時期の楽しみの1つだからな。これに麦焼酎が合うんだよ。それを想像すりゃあ作業が進むってもんよ。」

この父無類の酒好きである。


「じゃあ父さん運び終わったら訓練つけてよね。」


「おう、わかったわかった。そう急かすな。」

と言いながら水牛に荷車を引いてもらって蓮根を積む父。


蓮根を積み終わると倉庫に行き蓮根を保管場所に置いて訓練をするために森の入り口に行った。


森の入り口

「さて、訓練を始めるか。びゃくたお出てこい。」

そう父が叫ぶと森から黒豹と白猫が出てきた。

「コイツらは千と同じく父ちゃんがパスを繋いだモンスターでいつも連れてる千とは違って森の入り口を守ってもらっている。こっちの黒いのが百、白いのが十だ。百は時刻豹じこくひょうというモンスターで時を記憶してを操ることができる豹だ。こいつにはロレンの訓練中の体感時間をあげて貰う。十は氣整猫きせいねこってモンスターで様々な氣を操れる。コイツらが父ちゃんの他にロレンの訓練を施す先生でもあるから挨拶しろよ。」

父はロレンに説明する。


「僕はロレンって言うのよろしく、百、十。」

ロレンは百と十に挨拶した。


「ぐるぅ」

「ニャー!」


どちらも挨拶を返してくれた。


「それで訓練に関してだがまずロレンには木登りをしてもらう。」


「どうして木登りなの?」


「木登りは冒険するにあたって重要なことでもあるし、ついでに体幹も鍛えられる一石二鳥の訓練なのさ。」


「解った!じゃあ、どの木に登ればいい?」


「そうだな…じゃあ、あの山桜の木に登ってくれ。」

そう言って父が指を指す先には高さ15m程の大きな山桜の木があった。

「うん解った。」

ロレンが木に登ろうと足をかけると

「ちょっと待った。ロレン木に登る前に準備体操と柔軟運動をしてそれが終わってから百と十に術をかけてもらうから木登りを始めるぞ。」

というわけで準備体操と柔軟運動を始めた。


10分後


「じゃあ百、十、ロレンに術をかけてくれ。」


「ぐる、グルァァァ‼︎」


「ニャー、ニャーニャーニャァァァ」


そう百と十が言うとロレンに漢字の書かれた魔法陣が2つ現れ発光しロレンを包み込んだ。


「ねえ父さん、これで何が変わったの?」

ロレンの感覚では何の違和感もなかった。

「そいつは訓練が終わってからのお楽しみって奴だ。」

そう言って父は始めろと言わんばかりに促した。


そして、ロレンは木に足をかけていく。一歩一歩確実に登れる足場がないか探しながら、バランスを保ちつつ登るのはかなり辛かった。手から血は出るし足もだいぶ辛くなってきた。桜の木は比較的幅が広いので登りやすいが高さ15mともなれば辛くなるのは当然であった。がこんな事でへこたれてはいけないとロレンは思い。心に自分はファニと強くなるとと言い聞かせて木の頂上まで登った。


「父さん、てっぺんまで登れたよ。」

そう父の向かって叫ぶと父は

「ロレンそのままゆっくり降りてこい。」

との返事が来た。

なのでゆっくり恐る恐る降りて行く、登りとは違い下を見ながら行かないといけない恐怖感と登る時につけたであろう枝1つ1つの傷が大丈夫なのか心配になってくる。

その予感は正しかった。


パキッ


足場が折れてバランスを崩したロレンが地面に向かって落ちて行く。このまま地面と激突すると思い目を瞑る。が地面と激突はせず、父が抱きかかえてくれた。


「ロレン、父ちゃんが木に登れと言ったから登ることしか考えてなかったろ。木登りってのはな降りるまでが木登りだ。父ちゃん、今回はあえて傷の多い木を選んだ。何で選んだかって言うとな。冒険者は危険な依頼、怪しい依頼も多い。だからこそ、状況の判断を怠って欲しくなかったんだ。もしロレンが登る途中で木に傷があることを言えば、父ちゃんは助けた。助けを求める、そう言った意味でも冒険者の訓練に成ると思って訓練を施している。もう怖くて辞めたいと思ったのなら今のうちだぞ。」


父、初回からかなりのスパルタだが、生半可な気持ちで冒険者を目指して欲しくないという親心が現れている。しかし、10歳未満の子供に毎回高さ15m以上の折れると解っている木に登らせるとは鬼である。そんな、鬼の父の問いにロレンは


「まだまだー!やる絶対やりきってみせる。」


と逆に火がついたのかやる気満々である。


「じゃあ訓練を再開するぞ。じゃあ今度は自分で木を選んで登ってみろ、高さはさっきと同じくらいだ。」


そう言われロレンはカエデの木を選んだ傷は付いていなさそうである。先程と打って変わり父の言う通りに木を慎重に登りながら枝や足場になりそうなところに傷が無いか確かめながら登って行く。が、木の中間くらいに差し掛かった時、毛虫が飛びだしてきた。


「うわあ!!」


ロレンはびっくりして体勢を崩した。

そして父の腕の中にいた。


「ロレン、そういうのも勉強だ。ほら次行くぞ。」


とまあ落ちてはまた登るを繰り返し、およそ50は登っただろうか。その時ロレンはヘトヘトになっていた。すると父は


「よし、木登りはそこまでにして次は実戦を行うぞ。」


既に疲れた子供にまだ身体を動かさせる。正に鬼の所業である。


「ロレン、お前の相手はお前自身だ。」


ロレンに疑問が浮かんだ。どうしたらいいか考えていると


「お前の疑問は最もだ。だがな百、[時刻再生]」


父がそう叫ぶと百は何も無いところから魔法陣を出現させた。その起動が終わると何とそこにはロレンが立っていた。

「え、これ僕!?」


「チッチッチ違うんだなこれが、これはロレンが訓練する前のロレンを模したドッペルロレンだ。だから対戦相手の影は体力も有り余っている。こいつに勝てるかな。」


すげえ殴りたくなる様なドヤ顔で言う父。だが父の言う通りだ。こちらは満身創痍、相手は体力が有り余っている状態しかも実力はほとんど変わらないとすれば体力のないこちらには勝ち目がなくなる。


「では始め!」


父の合図と共に影ロレンは走り出した。そして、ロレンの鳩尾の少し上辺り目掛けて体重が完璧にのった正拳突きを突く。当然、満身創痍のロレンは吹き飛ばされる。

さらにそこから影ロレンは距離を詰めロレンに馬乗りになり殴り出した。

ロレンは避けようと頭を振り、足を動かして逃げ出そうとするが抵抗むなしく顔が腫れるまでやられた。


「じゃあそこまで。」


父が辞めの合図をする。


「ロレン、実戦はどうだった。」


「父さん酷いよ。こっちはフラフラなのに。」


「フラフラじゃないと意味が無いだろ。それにそれだけ口が言えるならまだやれるな。」

と言って父はロレンが立てなくなるまで実戦訓練を続けた。


そして訓練が終わるとロレンは違和感を覚えた。

時間が殆ど経っていないのだ。ロレンの感覚では既に3時間は経っているが日はまだ3時にもなっていない。それにもう疲れがなくなってきている。


「そろそろ術の感覚が解った頃だろ。」


「これが百と十の掛けた術?」


「そうだ百には体感時間を長くさせて、尚且つ十に少ない空気で動けて尚且つ反射神経を早くした身体に改造したのさ。」

得意げな顔で説明する父


「ごめん、父さんわからない。何がどうなっているの?」

なに5歳児に高度なこと教えてんの父


「ロレンにはまだわからなかったか。要約するとまあ自分の時間が早くなった物だと思えばいい。」

説明雑!


〜百と十の掛けた術の解説〜

体感時間が長くなる、つまり自分の時間を長く感じさせているだけで身体は脳の動きには追いつけない。それを脳に追いつかせるのが十のした術であり、その分運動量も増すため酸素がより必要となるところを高地に住む人の酸素運動効率に書き換えることで体感時間の長くなった自分でも動ける身体に作り変えたと言うことである。更に自己治癒力を氣によって高めさせている為筋肉もすぐに修復される。ただし、成長における細胞分裂のメカニズムは変わってない。即ち逆浦島効果の様な自分だけ成長する様なことは起きない。

〜解説終わり〜


ロレンの身体も休まってきた頃、

「じゃあ身体も休まった事だし、木登りからまた始めるぞ。」

もう一度言おうこの父親かなりの訓練の鬼である。


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