わたし

篠崎 りら

"好きな人ができた"なんて生まれて何回言ったのか私にはもうわからないくらい、このたった18年間で好きな人がたくさんできた。

どうせ寂しいだけだろとか心無い言葉をかけられたこともあるけれど、寂しくて何が悪い。

ただの開き直りだと分かってる。

それでも、必要とされたいというこの感情が間違いだとは全く思わなかった。

誰でもいいわけではなかった。

私が好きになったその人の隣にいたかった。

わがままだって笑われたっていい、それでも自分の好きな人に必要とされたかった。

「美咲、待った? 」

「んーん、全然。思ったより早かったね」

「いや、今日は真緒が早く帰るって言うからさ」

……たとえそれが都合のいい女だとしても。

市街地から離れたさびれた街の路地裏で待ち合わせ。

たとえそれでも私の隣に、私が好きな人……健がいるのであれば。

2番手だろうと満足だった。

2番手でも健は私に笑顔を向けて、少しの時間でも作ろうとしてくれる。

利用されていることも、暇潰しだということも頭の中では理解しているつもりだった。

それでも、隣にいる時だけは私だけしかいないんじゃないかと勘違いしてみたくなる。

「今日は、どこ行くの? 」

「どこでもいいけど、美咲行きたいところあったりする?」

いつもそう。

自発的になんも決めてくれやしない。

私の"会いたい"に対して、時間を開けてくれるだけ。

それで満足しなきゃいけないも分かってる。

所詮2番手。

相手にしてもらえてるだけいいと思え、そう心に無理やり刻み込むように心の疼きを抑える。

笑え、彼の目の前で。

「金欠って言ってたっけ、いいよ私はそこら辺の公園とかで」

「……わりぃ、いつもごめんな」

少し申し訳なさそうに私の頭をクシャッと撫でたあと先に歩き出す。

言葉ばかりの謝罪。

意味なんて、どこにもない。

自分は彼の1番じゃないとそう言い聞かせて、彼の負担にならないように言動を選択する。

「あのさぁ」

ぽつりと健が急に話し出す。

「ん? どうかしたの」

「今日な、真緒と会ってきたんだけど」

そんなことくらい知っている。

紺のジャケットもセットされた髪も私のためじゃなくて全部全部真緒のため。

一緒にいる間だけは1番だって錯覚したいんだよ、真緒の名前なんて……だめだ、困らせるな。

無理にでも笑顔取り繕って。

「知ってるよ。それがどうかしたの? 」

「俺はさ真緒にとって1番だと思ってたんだけど」

???

そうじゃなきゃ何。

急になんの話をしだしたのか私には目的も理由もよくわからなかった。

2番手の私に、俺も2番手だったんだ……慰めて?

「1番なんかじゃなかった。2番でもなかった。あいつの周りには大勢の男がいて、俺はただそのうちの1人に過ぎなかった。本気で真緒のことを考えて、真緒のためにって思ってやってきたことは全部無駄だった」

「……うん」

「なぁ、美咲。お前は俺を見放さないで。お願いだから俺の隣にいてくれよ」

なんて都合のいい。

ざまぁみろ、そう思わなかったって言ったら嘘になる。

でも、私の頭の中には1番になれるんじゃないかという思いだけがグルグルと巡っているだけだった。

「いいよ、隣にいるよ」

そう言って私は、彼が今まで頑なに繋いでくれなかった手に触れた。

健がその手を弱々しく、でも確かに握りしめる。

人は誰しも誰かに必要とされたい。

その一心で心の拠り所を辿る。

バカバカしいと笑えばいい。

でもそう笑うお前は、1人で生きていけるのか?

どんなに歪でも隣に人がいることに意味はあるだろうと私は思ってしまう。

2番手に慣れた。

慣れちゃいけないことはわかっている。

それでも慣れた。

ふいに健がぐいっと私の腕を引っ張り抱きしめる。

「美咲、ありがとう」

涙声の彼の声に小さく頷きながら、決して付き合ってとは言ってくれないことを慣れているはずの立場から気にしていた。

真緒がいなくなっても、私はその穴を埋められるほどの存在ではなくて、ただ少しだけ半分くらいだけ隣にいることで穴を埋めて欲しいのか。

都合がいい。

……でもそれが私だった。

1番になりたいという思いを胸に秘めながら、今日もまた隣にいる。

いつか誰かの1番になることを願って、私は自分の持て余す愛を人にぶつけその何分の1かを受け取る。

今日も笑う。泣く。喜ぶ。怒る。

誰かのために、誰かのせいで。

かっこ悪いのかもしれない、だけど私は嫌いじゃない。

2番手の私。




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