第3話『悪は誰だ!』

恐らく、俺の呪い、

負荷能力クリムゾンが強化されたのだ。

それでしか納得できない。だって…

だって今日は俺の誕生日なんだから。


「…………紅」

「お、お父さん!」

真下から聞こえた声に、すばやく反応した。よく見ると、お父さんは体をバラバラにされていなかった。

血まみれではあるが、息はあった。

「大変なことになったなぁ…本当に、えらい自体になったもんだ。こうして手を打てたのは良かったが、まさか涼子や緑にまで迷惑かけちまうなんてなぁ…」

「…え?」


お父さんは錯乱しているようだ…?

涼子はお母さん、緑は妹の名前だ。

「とにかく紅、お前は希望だ…こうやって護衛を外して、殺されるリスクを負ってまでこの状況を作り出しんだ。さあ、見ろ」

「お父さん…何を…言ってんだ…?」

何が何だかわからなくなってきた。

お父さんは死にかけてるのに、一体俺に何を言っている?

そして、さも計算通りみたいな物言いは、一体何なんだ!

「よく見ろ…この光景を。しっかり目に焼き付けておけ…」


お父さんは、とんでもないことを言った。

「紅。お前が悪いんだ。

全部お前のせいだ…覚えておけ。

今、お前の母親の首と首から下が繋がってないのはお前のせいだし、お前の妹の上半身と下半身が繋がってないのもお前のせいだ」

「や、やめてくれよお父さん、なんてこと言うんだよ、それより早く治療しなきゃ…」

「なにより俺がこんな情けない姿をしているのもお前のせいだ。お前のせいだよ。

お前のようなガキに責任があるのもお前のせいだ。お前が可哀想なのも全部お前のせいだ。お前が悪くなくてもお前のせいだ」

「お父さん…」


「だが生きろ。絶対に死ぬな。

盗んでも生きろ。殺しても生きろ。

他人に迷惑をかけて生きろ。人の嫌がることをして生きろ。面倒臭がられて生きろ。

厄介者として生きろ。卑怯者として生きろ。

生きたくなくても生きろ。死にたくなっても生きろ。殺されそうでも生きろ。

癪なことにお前は希望だ…クソガキ」

するとお父さんは俺を強く殴った。

「な、何するんだ……!」


そして、倒れた。

「…え?」

父親は物体になった…それがわかった。

今更になって、俺は理解した。

「う、うそ、嘘、嘘嘘、嘘だこんなの、」

俺は1人になった。

俺は孤独になった。

俺には何もなくなった。

「嘘だぁあああああああああ!!」


俺は泣きながら逃げ出した。

家に背を向けて行くあてもなく逃げ出した。

とりあえず遠くに、遠くに行かないと、自分も殺されるような気がしたから。


だけどここで俺は大変な事態に気づく。

それは、お父さんとお母さんと妹を殺した奴が、この街じゃなくてもまだどこかにいるということだ。


何とかしなければならない。

でも、俺には何もできない。

さあ、どうする。

と、考えていたその時だった。


「みーつけた」

「…………………」

頭上から知らない男の声がした。

疲れて一旦立ち止まったのが悪かったのか。

何者かに追いつかれたことを、俺は理解した。いや、明らかに大人の声だから、

俺は追いつかれたんじゃなくて、泳がされていたのだ。


俺は振り返った。

「ざまあねえなぁ、あの薙紫彩がよぉ…」

そいつはやはり成人男性だった。

だが、そんな言い方が滑稽に思えるほど柄の悪い大人だった。

手にはナイフを持っている。

まさか、誰も通ってないとはいえ、住宅街の真ん中で俺を殺すつもりか!


「こーんなガキの為に死ぬなんてなぁ…何を企んでんのか知らねえけどよぉ、ここで生かして返すわけにゃあいかねえよなぁ?」

「う、うぅ…!」

同じようにガキと言われるが、お父さんより俺はこの大人が嫌いだ。

それは肌でわかった。でも、俺には一切、この大人に勝つ手段がない!

どうする!

「お前にゃ感謝してるぜぇ?あのクソ画家を殺させてくれてよぉ、感謝しかねえ。

だからよぉ…」

だから?

「死ね」

…どうやら俺の命はここまでのようだ。

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