第2話『始まる』
小学生の癖に、しかも余り賢くない癖に、
考えることばかり大人ぶっている。
俺には2歳年下の妹がいる。彼女から見たら俺はそう見えているらしい。
否定できない。
何故なら俺はこの日の下校中も、さっきの道徳の授業の内容を引きずって、心の中でずっと、世間に文句を言っていたからだ。
そもそも、最近のあの風潮はなんだ。
(小学生が最近とか言ってごめんなさい)
ダメであることを開き直って、
悟ったような口調で、
「どうしてこうなったんだろう?」とか、「こんな腐った世の中」とか、
「それでも生きてくしかないんだ、ああ死にたい」とか言えばそれがカッコいいと言われる風潮は。
そしてそれを言うのは大抵少年か少女で、そんな若い身空で、そして価値観でお前は何言ってんだといつも思う。
そんなんばっかりだ。
ブサイクよりイケメンの方がいいし、
貧乏人より金持ちの方がいいに決まってるだろう。なのにそうじゃないことを何も恥じずに公表して、共感してくれる人と傷を舐め合う。そしてそれが楽しい。
人間としての尊厳をどこに忘れてきた?
「世の中馬鹿ばっかりだなぁ…」
俺は俺が真の馬鹿であることに気づかず、こんな風に小学生時代を過ごしていた。
実に小学生らしく、周りを見下していた。
と、ここまでが俺の日常風景の半分である。
何故半分なのかと言うと、大事な『呪い』についてまだ話せていないからだ。
呪い。クリムゾン。
それが俺にもたらす効果はただ一つ。
俺は『面倒ごとに巻き込まれる』のだ。
例えば隣を歩いていた人が急に狙撃されたり、歩いていた道が崩落したり、自動車が俺に突っ込んできたり。
不幸にもほどがあるという感じだろう?
しかし、普通、人生でたった1回でも経験したくない事を、俺はなんと1日に2回もすることになるのだ。
呪いの発症は物心がついた時から。
つまり5歳あたりからだった。
もう忘れたことも多いが、でもやはり、この呪いのせいで俺のエピソード記憶はこの歳にして大人分ぐらいあるんじゃないだろうか。
だからお父さんからは、
「大人びてるガキ」と言われる。
そう、ガキと呼ばれる。
家族構成は、父母妹がいるが、お父さんとはあまり仲が良くない。
なんとなく、合わない。
病気がちのお母さんや、小学生の子供2人を余裕で養ってくれて、我が家のために真摯に働いてくれていてる点は『父親』としてとても評価できる。
でもそれは『義務』の延長であって。
お父さんは父親の『権利』を全く使おうとしない…裕福な暮らしをさせてくれる代わりに、その裕福さを使おうとしない。
野球のグローブを買ってくれる。
でもキャッチボールはしてくれない。
俺に恵まれた環境をくれる。
だけどお父さんはそこにいない。
お父さんは画家をしている。
他に比べれば不安定な職業に就いているにも関わらず、実績を出して、稼いでいる。
『強い』人だ。だから尊敬する。
だけど、敬礼する気にはなれない。
「ただいまー」
俺は本当に馬鹿だったのだ。
そこにある幸せに気づかずに、さらにねだっていた。ただそこにいてくれるだけでいい、いや、いてくれなくてもよかった。
…ただ存在してくれていれば、それで良かったのだ。
「…え?」
おかえりの返事がなかった。そして、心なしか家が暗くなったように感じた。
そして。
リビングに、凄惨な光景が広がっていた。
飛び散っている血しぶき、
飛び散っている家族。
どうやら俺の家で、殺人事件が起きたようだった。それもかなり酷い部類の。
「う…ぅぅううううわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
直感でわかった────────
─────────これは俺のせいだ。
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