6.暗殺者が居る日常

俺の名は、シャドウ・・・組織ではそう呼ばれている。

本名は、あったはずだが過酷な訓練を生き抜くのに必死でとうの昔に忘れてしまった。

そんなことはどうでもいい。


俺は、上からの命令でとあるターゲットを始末するためにアールストの街へ潜入していた。


ターゲットの名は、スティファニー・オルティス。

何とエルフの王女様だ。

美人ではあるが、どこか間抜けな面構えをしている。


この街が気に入ったらしく10年ほど前から住み着いているらしい。

金回りが良いのに冒険者ギルド直営のしけた宿に居座り続けているとか・・・

好都合だ、セキュリティがガバガバのこの宿ならさっさと始末して依頼を終わらせることができる。


午前3時、ターゲットの生活リズムから考えれば完全に熟睡しているはずだ。

さっさと部屋に入り込んで仕事を終わらせよう。



外から侵入しようと思ったのだが窓が開かない。

音を立てるのを覚悟で全力で壊しにかかったのだが歯が立たず仕方なく一旦宿の裏口から内部に潜入した。


裏口のカギは、俺からしてみたら子供の玩具の様なものだった。

さて、ターゲットの居る72号室に向かおう。


部屋に着いたら早速ピッキングを試すも全く開かない。構造自体は簡単なのだが、内部の部品が硬すぎて回らない。

試しにその辺の部屋のカギをいくつか開けたら、どの扉も2秒とかからなかった。


一体どうなってやがる?


不本意だが日中に殺すとしよう。

凶器が残ってしまっても出所が分からない物ばかりだから組織にたどり着くことはできまい。




◆◇◆◇




よし、ターゲットが朝食を終えて宿を出る・・・今だ!

死角から延髄に目がけて毒が塗布されたナイフを投げる。


・・・決まった!


と思った瞬間、ナイフが肌に突き刺さる数ミリ手前でターゲットがナイフを掴みとり道端にナイフをポイっと捨てて行った。


なん・・・だと・・・!?

ターゲットは、連れの若い男とにこやかに談笑しながら此方を振り返ることなく早足で歩いて行った。



孤児院で若い男と別れたターゲットが大あくびをした。・・・今だ!


「くしゅん!」


ナイフが刺さったと思った瞬間にターゲットが盛大なくしゃみをしてしゃがみ込んだせいでナイフは外れて地面に突き刺さった。


バカな!?


「ぅぅ・・・昨日うっかり裸で寝ちゃったから冷えたかな~?」


何事もなかったようにターゲットは職場に向かって歩き始めた。


クソッ!俺が2回も仕損じただと!

冒険者ギルド内で殺せなくもないが他の冒険者達に感ずかれるのは不味いので昼に出直そう。



体調を万全に整え、作戦を練った。

目撃者にバレるのは仕方ないと諦めてナイフを複数投げよう。

俺が一度に投げれる最大本数8本なら絶対に当たる。


時間までひたすらイメージトレーニングを繰り返す。



昼になりターゲットが昼食を購入して両手がふさがったところで仕掛けた。・・・これで終わりだ!



頭、両肩、胴体、両腿、両脚にナイフが飛んでいきターゲットに命中し











そのまま地面に刺さった。



何っ、一体何が起きた!?


確かにターゲットに当たったはず・・・

ターゲットの姿が溶けるように消えた・・・だと!?



「おじちゃーん!このイチゴ全部ちょうだい!」

「いや、スティファニーちゃん買占めはダメだよ?」


何!100メートル程移動しているだと!?


「そんなー!5粒しかないんだからいいでしょ?」

「希少なロイヤルホワイトストロベリーなんだから1人1粒までだよ。」

「ぅぅ・・・分かったよおじちゃん、1粒ちょうだい。」


しょんぼりした顔でターゲットは歩いて行った。


・・・残像を生み出すほどのスピードでイチゴに食いついたというのか!?



次のチャンスを待ったが孤児院から宿への帰宅時はSランク冒険者のダークエルフが同伴したため襲撃は断念した。


入浴時を狙うことにしよう。




・・・ダメだった。



音は筒抜けなのに異常なほど強力な結界がこれでもかと張り巡らされておりアリ一匹でさえ通り抜けられそうにない。

因みに、男湯には簡単に入れた。


諦めて先に部屋へ潜入する作戦に切り替える。

昨日苦戦した扉のカギはあっさり開いた。納得がいかずその辺のカギを開けてみたがどのカギも全く同じ仕様だった。昨日のは一体何だったんだ?

まあいい、ターゲットが部屋に帰ってくるまで息を殺して待とう。



ガチャッ


「ふぃ~今日もいいお湯だった~♪」


ターゲットは戸締りすると服を脱いで下着だけの姿になった。デカい!・・・いや、何でもない。


「ふっふふんふん、ふっふふん、ふっふふんふん♪」


何やら鼻歌を歌い始め薄い本をいくつか取り出した。

女性同士が抱き合っている表紙の本と男性同士が抱き合っている表紙の本だ・・・どういう趣味をしてるんだ?



「おっと、〈絶対領域〉アブソリュートテリトリー・・・よし防音、覗き見、侵入対策オッケー・・・じゃない!出てきなさい変質者!」


チッ、バレたか、どうやら魔法がお得意のようだ。・・・が関係ない。もう死ぬからな。

ありったのナイフを投げつけるも全て受け止められてしまった。


「いきなり女の子にナイフを投げつけるなんて・・・」


当たらないんじゃ仕方ない。部屋ごと毒まみれにしてやる!


「どういうつも・・・ゴホッ、ゴホッ」


ターゲットがうずくまって苦しみ始めた。

やっとだ・・・存外苦戦したが終わりだ。解毒薬は俺の歯に仕込んでいる1人分しかないし、もう飲んでしまった。


既にヒューヒューと変な呼吸になって死にかけている。

念には念を入れて首をかき切って心臓にナイフを突き立て捻ってから引き抜く。


血だまりが広がる。この出血量では助かるまい。


依頼完了だ。




◆◇◆◇




「フヒヒヒヒ!俺が最強の暗殺者だ!」


酔ったような声で男は言う。


「ヒャハハハハハハ!!!」


何がおかしいのか笑い続ける男・・・




う~ん、気持ち悪いな~


私は、床に転がって笑い続けている暗殺者っぽい男を見下ろしながら若干引いている。



お楽しみタイムを邪魔されて激おこ状態だったけど哀れな男を見たらすっかり怒りも性欲も冷めていた。

毒を使われた時には焦ったけど、まあ・・・焦っただけだね。私に毒は効かなかった。


魔法で幻覚を見せて情報を引き出してみたけどゴミみたいな情報しか出てこない。ただの使いっ走りだねコイツは



唯一分かったことと言えば、狙いは私の命。

しかもオルティスの名を知った上で殺しに来ている。


正直よく分からない。

とりあえずコイツを帰らせて組織を潰しておこうかな~



なんて私は軽く考えていた。



暗殺者っぽい男は、街を出た途端に体が弾けて死んでしまった。


「・・・・・・。」


何コレ・・・恐い。

クルリと踵を返して宿に戻る。


パジャマに着替えて枕をギュッと抱き締め足をガクガクさせながらアル君の部屋へ急ぐ。

恐いよぉ~、今夜は一人じゃ寝られないよぉ~


コンコン・・・返事がない。何度かノックしても反応なし。やだ!ウソでしょもう寝ちゃったの!?

ドアノブをひねったらカギがかかっていなかった。

あれ?まだ明かりはついてるし


「「あっ・・・」」


アル君が棒を白い布でゴシゴシしていた。すごくゴシゴシしていた。

お互いに目が合って非常に気まずくなる。


「「ご、ごめん・・・」」


何故かお互い謝った。


私は、そっとドアを閉じる。

防音したけどカギをかけ忘れたのか・・・



どうしよう、恐くて一人で寝れないのは変わらない。

キャンディスの部屋に行こう・・・。



「ん、ああ・・・ああああ♡」



こっちもカギが開いてるし防音すらしてなかったよ!ナニしてるんだよホントにもー!


何かバカらしくなってきたので自分の部屋に戻って普通に寝たよ!

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