2章 アールストの日常 4年目
1.アルヴィンの成長と行方不明のお姫様
Side:アルヴィン
ボクは、アルヴィン。
よく覚えてないけれど、今より小さかったころにティファお姉ちゃんと暮らすようになった。
パパが死んだのはちょっとだけ覚えている。
ママのことは、ほとんど分からない。
でも今は、とても幸せだ。
いっぱいあそんで、おいしいものを食べて、いっしょにおんせんに入って、同じふとんでねて
毎日がすごくたのしい。
「アール君っ♪」
ティファお姉ちゃんがニコニコしながら話しかけてきた。
「どうしたの、ティファお姉ちゃん?」
「アル君の新しい服を作ったんだー、着てみて♪」
「うん、分かった。」
「着替えたら夕ご飯だから食堂に来てね♪」
ティファお姉ちゃんは、いつもよりきげんがいいみたいだ。
はやく着がえて、ごはんを食べに行こう。
ティファお姉ちゃんが席にすわってニコニコしている。
今日のごはんは、ごうかだ。
少しふしぎだけどティファお姉ちゃんだからね、たまに・・・よく分からないことするし
テーブルのまん中、何もおいてなかった場所にティファお姉ちゃんがアイテムボックスから何かを出した
「アル君、お誕生日おめでとう♪」
すごくおいしそうなケーキ・・・『アル君 おめでとう♡』ってかいてある
「あ・・・、ありがとう!」
そうだ!今日は、ボクのたんじょう日だった。
うれしくて涙があふれてくる。
ボクは・・・幸せだ。
「6歳になったから、今日から一人で温泉に入れるね♪」
・・・え?
「ひとりで・・・おんせん・・・?」
「アル君なら大丈夫。もう体の洗い方も完璧だし!」
なん・・・だと・・・?
チラリと宿をにいる冒険者さんたちを見る。
おひげが、もじゃもじゃしてるし汗クサそうだ・・・。
ティファお姉ちゃんやキャンディスお姉さんのはだかが頭の中をぐるぐるする。
(※注 アルヴィン4歳の頃から水着の着用をやめている)
もう、いっしょに入れない・・・
ショックで力が入らない。
かなしくて涙があふれてくる。
ボクは・・・不幸だ。
あまいはずのケーキは、とてもしょっぱかった。
(後に、アルヴィンは語る。ある意味人生で一番不幸な日であったと。)
◆◇◆◇
Side:スティファニー
私は、スティファニー。
金髪碧眼の超絶美少女エルフです☆
アールストで暮らし始めて丸3年経ち、103歳になりました。
先日、一人で温泉事件から激しく落ち込んでいたアル君も「8歳になるまでは、おっぱい揉み放題(但し、服越し)」と伝えたら一応は、元気を取り戻している。
さあ、今日も元気に頑張ろう!
朝食の後、部屋に戻って身だしなみを整えたら出勤する時間になる。
「よし、アル君行こうか?」
「うん、行こう!」
二人で通いなれた道を通って孤児院へ向かう。
「おはよう、アル君!」
女の子が、元気に挨拶をしてアル君の手を引いて建物の中に入っていく。
モテモテだねアル君♪
微笑ましい光景を見ながらギルドへ向かった。
私は窓口に座り、笑顔で依頼者や冒険者達を迎える・・・
「いらっしゃいませ、ようこそアールスト冒険者ギルドへ♪」
3年経って、私も立派な受付嬢になっていた。
◆◇◆◇
Side:セリーナ
前日のギルド長室にて・・・
「エルフのお姫様の捜索依頼・・・ですか?」
「ああ、数年前から行方不明になってるらしくてな…大分離れてるこの街にも依頼が来たんだ。しかも名前がスティファニーだってよ。歳も同じだ。」
「スティファニー!?」
「ほら、似顔絵もあるぞ。」
「確かに美少女だけど少し地味ですね。うちのスティファニーとは違うみたいですけど?」
「だよな。サーシャは、分からないと言っていた。一応スティファニーにも聞いてみてくれないか?」
「分かりました。明日、聞いてみますね。」
◆◇◆◇
Side:スティファニー
「スティファニー、エルフのお姫様って聞いたことある?」
セリーナさんが、そんなことを聞いてきた。
「お姫様ですか?う~ん、聞いたことありませんね。里長なら知ってますけど。」
そんな人居たかなー?
「そのお姫様行方不明らしくて名前が貴女と同じだから何か知ってると思ったのだけれど・・・」
「エルフにお姫様が居るって初めて知りましたし。やっぱり分からないです。」
「そう、ありがとね。」
羨ましいな、探してくれる人がいるなんて。
追い出された私とは、違うから・・・
・
・
・
そんな会話から1ヶ月後・・・
お父さん・・・パパがアールストにやって来た。
「おい!先日出したスティファニーの捜索依頼どうなっている?この街に同じ名前のエルフが居ると聞いたが?」
あの後姿、100年も一緒に居たんだから見間違えるはずがない、パパだ!
必死な感じで窓口のセリーナさんに話しかけている。
見知った里の人達も6人いた。
私のことを一生懸命探してくれていたんだ!
パパ・・・パパが!私を迎えに来てくれた!!!!
すごく嬉しい!
「パパ・・・パパぁ!」
私の声を聞いてパパが振り向く・・・
「何だ貴様は?お前のような下品な胸の女にパパと呼ばれる筋合いはない。」
とても冷たい目で私を見てそう言った。パパからは、里で一緒に過ごしていた時の温かみが一切感じられない。
里の人達も怪訝そうに私の顔を見ている。
視界が涙で歪む
「・・・・・・ぐすっ、う…うぅ…うえぇええん。パパなんか・・・パパなんか・・・大っキライ!!!!」
私は、その場を離れてギルドの休憩室に駆け込んで声を上げて泣いた。
前の人生を含めてこんな悲しい気持ちは初めてだった。
迎えに来てくれたのは嬉しかった・・・でも、パパは
バタバタバタと足音が聞こえてドンドンと乱暴に扉が叩かれる。
「ティファ!ティファなのか!頼む開けてくれ!」
「絶対にイヤ!もう帰って!」
「さっきのことは謝る!だからお願いだ!ティファ!」
「謝ったってダメよ!」
「何故だ!どうして駄目なんだ!」
「私は、パパから
「すまない、失言だった。ティファだと気づかなくて・・・気が立っていて、つい。」
「だから、私が『娘』でなければそう見えるってことがダメなのよ!!!」
「悪かった!許してくれ!」
「許さない、絶対に。私は、今の私が大好きだから悪く言う人は、大キライ!」
「どうしても許してくれないのか?」
「どうしてもよ!もう、顔も見たくないから早く帰ってよ!」
「本人も、こう言っておりますので、お引き取り下さい。」
セリーナさんの声だ・・・
「うるさい人間!エルフの王である俺に口を出すな!」
「・・・嫌われたのは、そういう所なのではないですか?」
「ぐッ!」
「・・・お引き取りを。」
「ティファ・・・また、来る。」
「もう二度と来ないで!!!」
◆◇◆◇
ギルドを早退して孤児院に行き何とかアル君を回収して宿の部屋に戻った。
私は、夕食も食べず温泉にも入らずに布団にくるまっている。
「ティファお姉ちゃん・・・」
アル君に心配をかけさせてしまっている。
情けない。でも、あと少しこのままで居させて欲しい。
パパ・・・よくよく考えたら何であんな人が好きだったのか分からなくなってきた。
一緒にお風呂に入らないと泣くし、ベタベタ触ってくるし、いつもお尻にカタイのが当たってたし。
着がえは覗くし、パンツを嗅ぐし、たまに盗るし・・・
あれ?好きな要素が全くない・・・?
・・・私も、あの人を『父親』という記号でしか見てなかったのかも。
ただ愛してる、愛されていると妄信していただけなのかもしれない。
まったく、人のことは言えないね。
心がスッと軽くなり涙も止まる。
「ごめん、アル君。私は、もう大丈夫だよ。」
明日から、また頑張ろう。
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