13.慢心の代償

今日は、光の日。

昨日は、たっぷり遊んでたっぷり休んだから、とても気分が良い。


お肌もツヤツヤテカテカ輝いてるね♪

買ったばかりの鏡を見ながら私は、満足げに頷く。


上機嫌で着替えをして鏡を見ながら髪を整える。

頭頂部からぴょこんと飛び出した毛だけは、何度とかしても元に戻ってしまう。

昔からこうだから仕方ないんだけどね。


キャンディスから貰ったお気に入りのリボンを着けて完成!

今日も私は、超絶美少女だ!


「さあ、アル君〈起床〉ゲットアップ♪」

「うぅん?・・・おはよう、おねえちゃん。」


朝ご飯を食べよう。元気の源だからね!

私達は、階段を下りて食堂に向かった。


サーシャさんとウィルさんが、まーたイチャイチャしてるよ。

さすがにちょっと鬱陶うっとうしいかも?



さてさてと・・・アル君を孤児院に預けてギルドへ行く。


「セリーナさん、おはようございます!」

「あら、一日休んで元気いっぱいになったわね、いい顔してるわよ。リボンもよく似合ってるわ」


「ありがとうございます。欲しい物とか買えましたし、お友達もできたんですよ!」

「あら、お友達?良かったら今度紹介してね?」

「・・・うっ!」

「何か問題でも?」

「ちょっとクセが強めの人なので・・・。」

「そう?なら気が向いたらでいいわよ?」

「そうします。」


さあ!冒険者ギルド営業開始だよ!



朝の依頼獲得競争がひと段落したころ血と泥で汚れた30人ほどの集団が慌ただしくギルドに入ってきた。

防具はボロボロであちこち怪我だらけで無事な人は、一人もいない。


「ポーション!強力なポーションは無いか!ケイレブが死んじまう!誰か助けてくれ!」

あまりの剣幕にギルド長も部屋から出てきた。


「なッ!どうしてお前らがそんなにボロボロになってんだ!」

「そんなことより急いでくれ!ケイレブが!」


「もう…いいんだ…、目が…見えないし…寒くて…眠いんだ」

体中が傷だらけで両腕と左足を失った男が掠れた声でそう呟く。


「馬鹿野郎!お前には嫁や生まれたばかりの子供がいるだろうが!」

そう言って無駄に怪我人を揺する男の人。


揺らしちゃダメ!ちょっと急ごう。


「どいて!」

「何だお前!ケイレブに触るな!」

「うるさい!怪我人を揺らさないで!」


邪魔だからノーダメージのノックバック武技で興奮した男を飛ばす。



〈浄化〉ピュリファイケーション〈体力増強〉スタミナアップ〈修復〉リペア〈造血〉ブラッドフォーミング・・・〈エリアヒール〉!」


殺菌、気付け・体力確保してから、手足の欠損を回復させて血を補充、ついでに他の人達の怪我も癒した。

危なかったー、死にかけなのに下手に揺らすからケイレブさん昇天しかけてたよ!


「っ!」

連続で高度な魔法を使ったせいか眩暈めまいがしてケイレブさんを押しつぶすように倒れてしまった。


「苦しい、暗い・・・!体の痛みがなくなって・・・何だかとっても柔らかくて気持ち良くていい匂いがして・・・」


スッと現れたエミリー先輩が、私を起き上がらせてくれた。

ケイレブさんの右手が、私の左胸を鷲掴みにしている・・・先程まで欠損してたから本能が触覚を求めていただけだと思う。

私は、別に嫌じゃなかった・・・好みのタイプだし。


「あ、あれ?(もにゅもにゅ)」

「っん♡」

おっぱいをにぎにぎされてしまった。


その瞬間に周りの男達から闘気が立ち昇る

「「「「「野郎ぉ!ぶっ殺してやる!地獄へ行けやぁ!!!」」」」」

「へ?ぎゃあああ!!!!」

四方八方からの拳の嵐が襲い掛かった。


せっかく命が助かって怪我も治ったのに、この人達何してんの・・・

ケイレブさん、折角治したのにボコボコにされてしまった。




◆◇◆◇




「恐ろしく強い黒い豚の魔物に襲われただと?」


先週オーガロード討伐隊は、調査隊に名前を変えて周辺地域を確認して回っていた。

帰還日である今日、街から2時間ほどの所で、黒い豚の魔物に襲われて命からがら帰ってきたとの事だった。


「しかし、Aランクでタンクのケイレブがあんな状態になるとはな・・・」

「凄まじい破壊力を持ってやがるし、防御力も高くてこっちの攻撃が一切効かないんだ!」

「幸い、移動速度が然程でもなかったので逃げ帰れましたが・・・街から近すぎるんですよ。」


「Sランクのアレも行方不明だし、居ても役立つかどうか微妙だしな・・・」

「ギルド長!いや、元Aランク剣士【暗黒の執行人】デニス!アンタと【鉄壁】のケイレブが組めばあるいは!」


「やめてぇ!その二つ名、言わないでぇ!」

手の平で顔を覆ってイヤイヤと上半身をフリフリするギルド長・・・大丈夫なの?【暗黒の執行人】?


それにしても、ギルド長ってめっちゃ弱かったけど、どれだけブランクがあるのかな?

私オリジナルの最弱・・魔法〈サンダーピック〉で気絶するぐらいなのに・・・

一般の初級魔法〈サンダーボルト〉の10分の1なんだよ?アレ。



ケイレブさんは・・・先程ボコられて顔面青あざだらけでいい男が台無しだよ。

「柔らかかったのか?気持ち良かったのか?良い匂いだったのか?オォン?」と皆に凄まれている。


正直この二人が組んでも黒豚の討伐は、駄目そうな気がする。


話は、まとまってないけれど私の勤務時間は終わったので孤児院へ向かう。


お昼を食べた後は、新作の男の子向け紙芝居を朗読する。

イキった双剣使いが無双するお話だ。

強い魔物をバタバタ倒して魔物一匹につき女の子を一人ゲットしていくような安直なストーリー展開で中二病の人がヨダレを垂らしまくる感じのアレだね。


男の子達に、空前の二刀流ブームが巻き起こりしばらくチャンバラ遊びに付き合うことになってしまった。


「うおおお!せつ†な!」

「やあああ!ぜつ†えい!」

「ひっさつ!すたーばーすと†いくりぷす!」


「「「「・・・。」」」」

女の子達が、男の子達を冷めた目で見ている。


やりすぎたぁあ!

バランスが難しいね。


皆とおやつを食べた後、私は孤児院から抜け出す。


先日のオーガロードは、単体だった。

勉強した限りだと、たくさんの取り巻きに囲まれている筈で単体で発見されることは、まずあり得ない。

今日の黒い豚の魔物・・・オークの上位種だと思われるけれど、こちらも話を聞いた限りは単体だ。


あり得ない事が2回続くことは、あり得ない・・・・・

何者かの意図を感じる。


考えても分からないので、さっさと黒豚さんなんか倒しちゃおう。


大丈夫、私は強いんだから!







◆◇◆◇


















・・・・・・私は、『失敗』した。




1人で魔物を倒しに行ったツケがきた




慢心していた




調子に乗っていた




可愛くなってチヤホヤされて、ちょっと強くなったぐらいで有頂天になって周りが全く見えていなかった




だからこんな様になっている




捕えられて動くこともままならない




痛めた足は、大分前から感覚がなく・・・もう痛みすら感じなくなっていた




逃げることすら叶わない




自分には、勝てない強者が目の前にいる




あまりの恐怖に少し漏らしてしまい、下着がしっとり湿って気持ちが悪い




目から涙が溢れて止まらない
















「――――御免なしゃい、セリーナさん・・・・・・。」



「本当にもう!前に気を付けてって言ったわよね?」

「ひゃい。」


頭に三段重ねのたんこぶをこさえて涙目で正座中です。はい。


「それなのに、『女の子』が『1人』で『ヒラヒラした服』で推定SSランクの魔物に挑むなんて何考えてるの!!!」

「・・・しゅみませんでした。」


「次からは、大人にちゃんと相談するのよ!分かった?」

「はい・・・。」


ようやくお説教から解放されて孤児院へアル君を迎えに行く。

・・・その前に、トイレに行ってパンツを替えよう。スカートにまで染みてないよね?



黒豚?あんなの一太刀で倒したよ!もうっ!全部アイツのせいだよ!

プンプンしながらアル君を連れて宿に戻る。



美味しいご飯を食べたら、ゆったり温泉に浸かろう!

今日は、お説教のせいでキャンディスより少し遅れて入った。


「今日は、遅かったのね?」

「ちょっと色々ありまして・・・」

「・・・あら?心なしかお小水の臭いが」


ビクッ!


「さあ!アル君!体を洗いましょうね!」

慌てる私をキャンディスがニヤニヤしながら見ていた。

くッ!やり返された!何処でバレたの!?

今日は、入浴している間ずっとキャンディスに弄られてしまった。


部屋に戻ったらまったりとする。

少しだけ時間があったのでアル君と魔力循環の訓練をした。

さあ疲れたから、もう寝よう。


「お休み、アル君。・・・寝ちゃったか。」



明日は、普通の日でお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る