10.奴が来た
今日は、風の日。地球では・・・私が知る限りでは風曜日というのは無かったね。
今更だけれど、この世界では、闇・光・火・水・風・土の6日で一週間。
毎月30日を12ヶ月、360日で一年となる。
おはようございます。スティファニーです。
朝から気力が満ち溢れております。最高にハイってやつです!
身だしなみを念入りにチェックしてからアル君を起こす。
朝食を食べに行くとウィルさんが悟りを開いた仏のような顔になっていた。
体調は戻っているみたいだけれど、大丈夫かな?
アル君を孤児院に預けて、ギルドに出勤する。
今日も書類仕事をしつつ受付の先輩の補助業務だね。
「キャロラインよ、今日は宜しくね。」
「はい!こちらこそ宜しくお願い致します。」
キャロライン先輩は、20歳の落ち着いた大人の女性でかなりの美人さんだ
解せないのは、男性冒険者から先輩に対して好色な気配が希薄なこと。人気ありそうだと思うんだけど?
不思議に思いつつ業務をこなしていると11時ごろ、奴が来た。
ナルシストっぽいポーズでギルドに入ってきた変態は、昨日遭遇したマイルズとかいう王子様風のイケメンだ。
イケメンではあるけれど、私の好みではない。
「やぁ!キャリー、今日も君は素敵だね!」
「もう、マイルズ君ったら朝まで一緒だったでしょ♡」
「はははっそういえばそうだったね!」
ああ!昨日聞いたキャリーって、キャロライン先輩のことだったのか・・・。そういえば、受付嬢もよくあるヒロイン枠だったね。
ギルド員の皆さんがマイルズを見た途端に苦虫を3倍ぐらい噛み潰したような顔をしている。
ああ、分かるよーその気持ち。
ふとマイルズの視線がこちらに向く。
とりあず私は、虚空を見つめて気付かない振りをする。
「おや?そこに居るのは、マイエンジェルじゃないか!」
「・・・。(誰がマイエンジェルか!?)」
「ここで再会するだなんて、まさに運命的じゃないかい?」
「・・・。(安い運命だな~)」
「どうしたんだい?マイスウィートハニー?僕に可愛い顔を見せておくれ?」
「・・・。(超キモい!でも我慢、我慢よ私!)」
「あら?マイルズ君、スティファニーと知り合いなの?」
「へぇ?スティファニーっていうんだ可愛い名前だね。
不穏当な言葉の響きにブワッっと鳥肌が立つ。
どうするの!?今は空いている時間だから問題ないけど営業妨害だよねこれ。
いつもはどうやって対処しているのだろう?
とりあえず泣いてみようかな?
「っ、ひぐぅ・・・」
怯えた表情で涙を一筋こぼしてみた。
ざわり・・・とギルド内が怒りに包まれる。
主に男性冒険者たちがマイルズに対して殺気を発したのだ。
よし!いいぞぉ!やったれぇ!
しかし、殺気に反応したマイルズがクルリと振り向くと穴の開いた風船のように萎んでしまった。
何で!?どうしてそこで諦めるの!?そこで!?
セリーナさんに駆け寄って泣きついた振りをして小声で聞いてみる。
「ちょっと、アレどうしたら良いんですか?(ハスハス)」
「普段は、もう少し大人しいんだけれど、気に入った女性を見つけるとああなるのよねぇ。それに・・・」
「それに?(スピスピ)」
「Sランク冒険者だし、庶子で継承権はないけれど一応王族だから厄介なのよ。」
「うわぁ・・・属性てんこ盛りじゃないですか。ギルド長の手にも余る感じなんです?(フンスフンス)」
「ギルド長も強く言えないわね・・・。ねぇ?さっきから鼻息荒くない?」
セリーナさんの匂いを堪能しつつどうしたものかと考える。
うーん、そうだ!
◆◇◆◇
ガシャリ、ガション、ガションという音と共にギルドの入り口から2m越えの全身鎧を着こんだ巨漢が入ってきた。
この場に居る誰もが知らない人物だった。
全員の視線が鎧の人物に釘付けになる。
その風貌から、ただそこに居るだけで大気が震えるような錯覚を受けてしまう。
束になったとしても敵わないと冒険者達に思わせる凄まじい存在感を放っていた。
Sランクの実力者であるマイルズすら冷や汗をかき警戒している。
全身鎧は、ガシャガシャと歩いてマイルズの前に立つ
「な、なんだ貴様は!?僕に…ブッ」
マイルズが喋っている途中にもかかわらず全身鎧は拳骨を落として一撃で気絶させてしまう。
周囲が唖然とする中、全身鎧は一顧だにせずマイルズを担いで去って行った。
「「「「「・・・・・・。」」」」」
何なのアレ?
ほぼ全員がそう思った。
◆◇◆◇
「何だったのかしら?面倒事がなくなって助かったけれど。」
「さぁ?何だったんでしょうね?(すっとぼけ)」
苦肉の策で遠隔操作した全身鎧に対処させたけれど根本的な問題は解決していない。
どうしたら良いのやら。職場がバレちゃったし。
さっきは嘘泣きだったけど、ストーキングされたらガチで泣くよ!?
そんな不安を抱えつつ勤務を終える。
孤児院で昼食を取り、昨日に続いて紙芝居を朗読した。
子供たちがぐいぐい食いつくので、私もつい調子に乗って次回作も読んでしまった。作品のストックを増やしておかないとね。
「おねーちゃん、またあしたねー!」
「うん、また明日ね!」
女の子達とも少し打ち解けてきた気がする。ちょっと嬉しいかも。
宿に戻り、魔物について勉強をする。
そろそろアールスト周辺の魔物については十分な知識を得られたので一区切りして、他の魔物については追々覚えていくことにしよう。
夕食を食べたら温泉でキャンディスお姉さんの裸体を拝みストレスを発散だ!
部屋に戻ったら紙芝居を描く。前回は、男の子向けだったので女の子向けの作品にしようかな。
うろ覚えだったけれど、どうせアレンジするから気にしないでおこう。
気づけば深夜になってしまっていた。
今日は、もう寝よう。
おやすみなさい。
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