1-2章 アールストの日常 1年目

4.温泉の街アールスト

ガタンという馬車の揺れで目が覚めた。


「―――うぐッ!」


起き上がろうとしたら全身に酷い筋肉痛のような痛みが走る。

武技アーツを五つも重ねる無茶をしたからだろう。


「・・・起きたか、エルフの嬢ちゃん。」


ディグホースが御者台から呼びかけてきたが怪我をしているためか声に力がない。

応急処置はされているけど包帯に血が滲んでいて痛々しい。

乗客たちも少なからず怪我をしているようで皆ぐったりしている。


「あれからどの位経ったの?」

「嬢ちゃんが寝ちまってから大体2時間ぐらいだぜ。・・・いっつッ!」

「先に怪我を治すわ、私も痛くて動けないし。〈エリアヒール〉」


私を中心にして緑色の光が広がり人々の傷を癒した。

まだちょっと体が痛いけれど、これで私も起き上がれる。


「・・・ありがとな嬢ちゃん、痛みが取れたぜ。」


怪我は治ったはずなのにディグホースの声には力がない。

馬車の中も会話がなくお通夜ムードだ。


そして私は気付く

アルヴィンの父親は、頭部に布をかけられたまま横たわっていることに。


「あっ・・・」

「そいつは死んだよ、坊主も可哀そうにな。」

「私の治療が遅かったから・・・」

「いや、頭に岩が突き刺さっていたからどの道即死だったさ。シールドで軽減してこれだからな、直撃なら下手すりゃ全員死んでたんだ。気にするな・・・つっても無理か。」


アルヴィンは、父親の亡骸に抱き着いたまま寝てしまっている。


正直、遭遇した人型魔物の事を考えるとよく倒せたなと思う。

意外と私の体がもってくれたからだけれど弓の方は完全に壊れてしまっていた。


「この子は、どうなってしまうんですか?」

「身寄りもないしアールストの街についたら孤児院に預けるのが妥当ね。」


馬上で周囲を警戒していたサーシャさんは、そう言った。

まあ、冷たいようだけれど、その対応が妥当なのだろう。


「あ、そうそうスティファニーに渡しておく物があるわ。」


サーシャさんは、巾着袋っぽい感じの革袋を渡してきた。


「何ですコレ?」


何だかプニプニしていて、とても触り心地が良い。


「貴女が倒したオーガロードの睾丸こうがんよ。」

「きゃぁあ!ばっちい!女の子に何てモノ渡すんですか!」

「いや私も、女の子なんだけど・・・凄く高く売れるのよソレ。」


投げ捨てた革袋はウィルさんの頬にブチ当たり実に嫌そうな顔をしていた。

だよねー。ウィルさん御免なさい。

それににしても、あの魔物オーガロードだったのか・・・何か強そうな名前だし。

凄く嫌だけど高く売れると聞いたのでアイテムボックスにしまうことにした。

一文無しでさえなければ、うぐぐ・・・


暫くしてアルヴィンが目覚めたけど、私にくっ付いて離れなくなった。

こんな状態で孤児院に預けられるのかな。




◆◇◆◇




感覚的にだけれど、4時頃アールストの街へ到着した。

ラノベとかでよくある身分証のチェックやらお金を払って街に入るような事は無かった。

ちょっと心配していたけれど警備の人間は居てもノーチェックで通行可能だったので安心した。

馬車は、街の中をゆっくり進み停留所に到着した。


「まったく今回は、とんだ旅になっちまったな。」

「普通だったらどうなの?」

「何時もは、せいぜいゴブリンが数匹出てくる程度でそこそこ安全な道のはずなんだぜ。」

「私は、大外れの時に乗っちゃったのね。」

「こっちは命が助かってラッキーだったぜ。やっぱ美人には声をかけておくもんだ。おっとそうだった約束の報酬を頼むぜ!」

「はいはい。(チュッ)」

「ウヒョー!!」


ディグホースの頬に〈祝福の接吻〉をする。

初めて使ったけれど一年ほど幸運値が上昇するスキルらしい。

乗車賃として頼まれていたのはタダのキスだったけれど大サービスしてあげた。


またねと挨拶をしてディグホースと別れる。

彼は、馬車の修理が終わったらまた人を乗せて街道を戻って行くそうだ。


「じゃ、私達は冒険者ギルドに向かいましょうか。」

「・・・?」

サーシャさんの言葉に私は首をかしげる。


「オーガロードの件をギルドに報告しないといけないし換金も必要でしょ?食べる物や寝る場所だってそれに・・・」


チラリとサーシャさんは、私の足元に視線を送る。

アルヴィンがスカートの裾を固く握りしめていた。


「アル君を孤児院に預けるにしても今日はもう遅い時間だわ。」

「分かりました。行きます。」

アルヴィンを抱っこしてサーシャさん達についていく。


冒険者ギルドに着きサーシャさんがフードを脱いで入ってゆく。

ウィルさんと私も続いて入口をくぐる。

ギルドは、お役所みたいな感じだった。

私のラノベ脳では、酒場が併設されて飲んだくれ共が騒いでいるイメージがあったけれどそんな事はなかった。


そんなことを考えながら周りを見ていたら何だか私達は注目されていた。

ああ、サーシャさん美人だもんね。

サーシャさんは、エルフの中でも上にあたる顔面偏差値だし顔を比べられてると思うと正直凹みそう。

その代り私は、胸にだけは視線を集めている。

あ、サーシャさんが「ぐぬぬ・・・」って顔している。

ウィルさんは最初こそドヤ顔をしていたが後半は、男性冒険者達の殺気で縮み上がっていた。


受付にオーガロードを討伐した件を伝えるとギルド長室に通された。

おお、お約束ってやつ?


「災難だったな。もっと早く倒せたら良かったんだが君らが街に着く直前に討伐隊が出たところだったんだよ。」

「結果論だけれど、運がよかったわ。あのオーガロードに当たっていたら多分討伐隊は壊滅してたと思うわよ。」


え?そんなにヤバい奴だったの?


「それほどの魔物をそのお嬢ちゃんがほぼ一人で倒したっていうのが信じられんのだが・・・」

「これが魔石よ。調査が済んだらスティファニーに渡してあげて。」


ごとりと拳大の水晶のようなものをサーシャさんはテーブルに置いた。


「デカい!それに凄まじい魔力だ!」


ギルド長から調査が終わったら連絡をくれるということになった。

オーガロードの睾丸は、半年は余裕で暮らせる金額になったので冒険者ギルド直営の宿屋に泊ることにした。

ちなみにサーシャさんウィルさんも同じ宿だった。


「ご飯も食べたし温泉に入ろう!」

「おーう!」


腕を突き上げた私は、元気づけようとしたわけじゃない。

単純に温泉が楽しみでテンションが上がっていただけだ。

とはいえアルヴィン・・・アル君もちょっと元気が出てきたのは良かった。

何しろ先ほどまでほとんど喋らなかったからね。


アル君を連れて女湯へ行く。


「うわー、でっかいお風呂!」

「おふおー!」


ちょっと早めの時間だったためか誰も居ないので貸し切り状態だ。

更にテンションが上がり今すぐにでも湯に浸かりたいのだけれど我慢。


「さあアル君、体を洗いましょうねー。」

「えう?」


ゴシゴシと洗っていると長旅だったからか結構汚れが落ちる。

私は、魔法で清潔にしているから軽く洗う程度でよい。


「はぁあああ、極楽ぅ~♪」

「ごくらう~♪」


やっぱり湯に浸かるのはいいね~

魔法じゃこの気持ちよさは味わえない。


あまりの気持ちよさにアル君がうとうとしてきたので抱っこしてあげる。


「ふふふ、おねむかな~・・・はひゃぁああ!!」

かぷりと結構な強さでアル君が私の乳首に噛みついてきた


「直は、直はだめぇ~、強すぎりゅうう!!!」


噛まれる刺激と蠢く舌の感覚に私の意識が明滅する。

体がビクンッと跳ねた拍子に噛みつきから解放された。


「はぁ、はぁ・・・もう嫌ぁ~。」

アル君を湯船の外に出し、私は湯船の淵に体を預け肩で息を整える。


「誰よ、卑猥な声を上げてるのは!」

ガララと戸を開けて入ってきたのはダークエルフ?のお姉さんだった。

褐色の肌がとってもセクシーというかエロい。

ふむふむ、推定Bカップか

私の顔とアル君を見るなりフンと鼻を鳴らした。


「あらあら、貧乳のエルフが子育てかしら?あーあ、可哀そうにボクちゃん洗濯板の感触しかしらないのね。」

そういってダークエルフは、ドヤ顔でアル君を抱き上げた。


まあ、数日前までの私ならその辺に転がってる石を拾って殴りかかるレベルでキレたと思うけれど・・・


「それはどうも――――――」


ばるるーんと湯船で隠れていた武器を取り出し両手を前で組む。

ギュッムと寄せられた胸を強調しつつ頭を下げる。


「―――貧乳ですみませんでした。」


私は、口を三日月のようにして笑っていた。

下を向いているからダークエルフの彼女には見えない。

計画通り!


「何ぃィーー!私よりデカいってどういうこと―――あひぃ!」

あ、アル君が彼女の胸に吸い付いた!


「んぁあああ!ダメ、ダメぇ!これ、この子取ってぇ!」

「子供は豊満なおっぱいが好きなんですよー?」

「謝るから!洗濯板とか言ってすみませんでした!私調子に乗ってました!だからぁああ早くぅう!」


それから数分ほど焦らしたら彼女は息も絶え絶えになっていた。


「このぉ、覚えてなさいよ!」

「うん、貴女の喘ぎ声を一言一句忘れないわ。」

「やっぱ忘れなさいよぉーーー!」


翌日、この宿に居た男性冒険者達は寝不足で仕事にならなかったらしい。

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