3.森の脅威
「な、なんじゃこりゃぁあああ!!」
野営地から少し離れた森の中、私の叫び声が辺りに響き渡った。
私の両手は血で真っ赤に染まっている。
夕食後、すっかり懐かれてしまったアルヴィン君と戯れていたのだけれど
突然股間に湿り気を感じたため慌てて抜け出してきたらこんな状態になっていた。
いや、何が起きたのかは分かっている。
初潮がきた。
あと10年ぐらいは大丈夫と思っていたのに胸が急に育った影響なのだろうか?
冷静さを欠いていた為にネタっぽい大声をあげてしまった。
まあ、一度言ってみたかったんだけども
とりあえず何をどうしたら良いのか分からず血でぐっしょり濡れたパンツを握りしめてオロオロするばかりだ。
100年生きてきたけれど私の女子力は、高くない。
エルフだから人間の10歳相当だもん!
「どうしたー嬢ちゃん!何かあったのかー!」
ディグホースが私の叫び声を聞きつけてくれたがレスポンスが早すぎる、まさかコイツずっとスタンバっていたのだろうか?
彼の声は半にやけ気味でラッキースケベとかを期待している感があった。
姿は見えないけど走ってくる足音は、嬉しそうなリズムを刻んでいる。
「ぎゃあああ、大丈夫だから!何でもないから!こっちにこないで!来たら殺すよ!」
「遠慮すんなって、今俺が助けにいくぜ・・・アバババババババ…ケペッ!」
雷魔法の〈サンダーピック〉で痺れさせてやろうかと思ったら横から雷系の魔法が飛んできてディグホースは完全に気絶していた。
一体誰がと思いつつ魔法が飛んできた方向を見ると、護衛の女魔法使いが居た。
皆の前では頑なにフードを被っていたのに今は、素顔をさらしている。
見た目20代前半ぐらいで透明感のある金髪をショートカットにしており目は碧眼で凄い美人・・・耳が尖ってる?
「・・・エルフなの?」
疑問形だったのはエルフの耳は通常の人間の耳がちょっと尖ったぐらいなので分かりづらいからだ。
「貴女もそうでしょ、何かやたら胸がデカいみたいだけど?」
胸と言う辺りに棘を感じた。
彼女は、標準的なエルフに準じて貧乳だった。
あ、この人・・・私の呪いとか臭いとか大丈夫なのだろうか?
「あ、あの私臭くないですか?」
「いえ、血はそんなに臭わないわよ?というか・・・貴女もしかして初潮?一体いくつなの?」
あれ?この人は私の近くに居ても平気みたいだね?
「えっと、100歳です。」
「100歳!?まだ子供じゃない!弓の腕も凄いし
確かに、エルフは見た目じゃ年が分からないからね。
お爺ちゃんは、見た目高校生ぐらいだったし、お父さんは25歳ぐらい。
お母さんに至っては小学生にしか見えない有様で私の方がお姉ちゃんに見える。
〈聖域〉は、魔物に対して周囲の音や光、匂いを認識阻害させて安全を確保する魔法だ。
野営地に着いたときに使用してあるので血の臭いをさせても大声でギャアギャア騒いでも問題ない状態なのだ。
先日森の中で気絶しながらも無事でいられたのは〈聖域〉のおかげだったりする。
「色々あって、里を追い出されちゃいました。」
「そう、詳しくは聞かないわ。それよりその恰好、目の毒だからさっさと処理しちゃいましょう。」
「あっ...。」
下半身丸出しなのを忘れてた・・・。
何やかんや生理についてアドバイスをしてもらい〈浄化〉で体と服を清めて〈ソープウォッシュ〉で汗や血の臭いを消した。
「ありがとうございました。あ、名前言ってませんでした。私スティファニーです。」
「サーシャよ。歳は内緒ね。」
エルフに遭遇したのはびっくりだったけれど呪いの影響が無い様で助かった。
もしかして里に帰っても良いのでは?とも思ったけれど一度追放された身だし外の世界も見てみたいかな。
私とサーシャさんはディグホースを
◆◇◆◇
相変わらず街道が続き私の胸もリズムに乗って揺れる。
昨晩に服飾魔法でブラジャーと新しい服でも作ろうかと思ったけれど何だかんだで魔力を使い過ぎていたので断念した。
まだまだ魔力に余裕がある気がしたけど無理をして気絶したら目も当てられないからね。
私はアル君を、膝に乗せて代わり映えの無い景色を見ている。
「この分なら夕方までには街に着きそうだ。」
「楽しみですね。どんな町なんですか?」
「アールスト・・・都会ってほどじゃないが、まあまあの街だぜ。」
「まあまあですか、美味しい食べ物はありますか?」
「少なくとも今食ってる保存食なんかより美味いもんがあるぜ。ああ、酒が飲みたくなってきた!」
「私は、未成年なのでお酒はちょっと・・・娯楽施設とかはないんですか?」
「んー?なら公衆浴場だな。何かあったかい湯が勝手にわいてくるらしいぜ?」
「温泉!楽しみかも!」
ディグホースに街のことを色々と質問してみたが暇つぶしみたいなもので内容自体はどうでもよかった。
百聞は一見に如かず、口できいてもよく分からないし異世界ならなお更だ。
行ってみたらガッカリだったというパターンもあるかもしれないし。
GROOOOOONNNN!!!!
突如として森中に雄叫びが響き渡った。
「・・・何か聞きたくない感じの声が聞こえた気がするんだが。」
「奇遇ですね、私も聞こえちゃいました。」
「拙いかもね、恐らくだけれどオーガの上位種だと思うわ。ディグホースさん、逃げることだけ考えて下さい。」
「ああ、俺は逃げるのだけは得意だぜ!」
「ウィルも、絶対に戦っちゃだめよ。」
「マジか!?そこまでヤバいのか!」
現実逃避気味の私達にサーシャさんが指示を飛ばす。
剣士の人は、ウィルという名前らしい。
乗客たちは先ほどの雄叫びのせいで恐慌状態になっている。
「おねえちゃん、こわいよー!」
「大丈夫よ、アル君はお姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね。」
それは、木々をなぎ倒しながら馬車に近づいてくる。
黒っぽい肌の2メートルぐらいの人型の魔物だ。
「あれ?意外と小さい・・・?」
「全員で畳みかければ行けるんじゃないか?」
「見た目に騙されちゃ駄目よ!桁違いのパワーを感じるわ、牽制しながら撤退するわよ!」
私とウィルさんの呟きにサーシャさんが苦言を呈する。
「撤退って言っても奴は馬車より早いぜ!すぐ追いつかれちまう!」
「任せて!
私は、幌の上に立ち足止め用の〈影縫い矢〉を放つ
人型魔物は2秒ほど止まったがまたすぐに走り始めた。
「うそぉ!?効いてないよぉー!」
猛獣を丸一日足止めできる技なのに!?
サーシャさんも雷魔法の〈サンダーボルト〉を当てたものの痺れた様子はなく距離を詰めてくる。
黒光りする体は恐ろしく頑丈なようだ。
「く、たばれー!」
私の最強の技、
パァン!
頭部を狙った矢は、クロスした腕に防がれたけど、右手の手首から先を吹き飛ばすことができた。・・・がそれまでだった。
GAAAAAAAAA!!!!
魔物は怒りの声を上げ左手で岩を拾って投げつけてきた。
「ウィンドシールド!」
「マナ・ウィンドシールド!」
サーシャさんの風属性の盾と私の無属性・風属性混合の盾が岩を阻むも防ぎきれず砕けた岩の破片が馬車を突き抜けた。
乗客たちから悲鳴が上がる。
「パパ!パパー!」
アルヴィンの悲痛な声が聞こえる。
どうやらアルヴィンを庇って父親に岩が当たったらしい。
「ぐっ、くそっ!」
ディグホースの脇腹にも岩が突き刺さっている。
その間にも魔物は距離を詰めてきており吹き飛ばしたはずの右手も再生していた。
「調子に――――」
限界を超えて全身及び、弓・矢に闘気を巡らせる。
弓からギシギシキリキリと嫌な音が鳴り響くが次の1射にだけ耐えられればそれで良い。
「――――乗るな!」
キュゴッ!
五重の〈パワーシュート〉が唸るような音を立てて放たれる。
クロスガードごと人型魔物の頭部を消し飛ばすことに成功した。
「―――っづ!」
二重以上の
意識が保てずに昏倒してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます