2.森の街道
森に囲まれた街道の中、相変わらず馬車の震動で私の胸がプルンプルンと揺れる。
「おねえちゃんから、いいにおいする。」
先ほどまで父親に抱き着いて寝ていた3歳ぐらいの男の子がトコトコと私の方に歩いてくる。
赤い髪のとても可愛らしい子だ。
「ふふっ、ありがとね。」
エルフの里を臭いとかいう理由で追い出されてしまった私は、かなりの精神的ショックを受けていたんだと思う。
前世が男だったとはいえ今の私は女の子なんだから臭いとか言われて、とても悲しかった。
男の子の言葉がうれしくて胸を隠すのも忘れて男の子の頭をなでていた。
「だっこー。」
「うん?仕方ないわね~♪」
嬉しかったからね。これくらいサービスしちゃおう。
どうやらこの子の母親は乗り合わせて居ないらしいけれど・・・?
「ひゃ、んーっ!」
どういう訳か男の子が服の上から私の乳首に吸い付いてきた。
「ふっ、くっ......」
変な声が出ちゃう!
視界の端では、男性客達が喜びを全身で表すようなガッツポーズをしている。
私が顔を向けると軍人のようなピシッとした姿勢と表情になって真正面を見つめて誤魔化していた。
バレてるからなお前ら!
「ふぁぁっ!やめっ...」
男の子が吸い付きながら甘噛みをしてきた。
感じたことのない刺激に意識が朦朧としつつもどうやってやめさせるか考える。
小さな子供なのだから乱暴に止めさせるのも違うと思うし、ああ考えがまとまらない!
潤んだ瞳で男の子の父親に助けてという視線を送ったところ・・・
「アル、止めなさい。お姉ちゃんが困っているだろ?」
渋々といった感じで男の子を引き剥がしてくれた。
私は、両手で胸を庇ってジト目で父親の方を睨みつける。
他の男性客と一緒に嬉しそうにガッツポーズしてたのを知ってるんだからな!
それに、どういう教育してるの?おぉん?
「いや本当に申し訳ない。この子、アルヴィンの母は最近亡くなってしまってね寂しかったと思うんだ。乳離れも遅い子で三ヶ月前までその・・・」
視線の圧力に負けたのか、そんな言い訳をして来た。
まあ、理由が理由なので怒るに怒れないのだが・・・。
まだ胸がジンジンする。ううっ、危うく新たな扉が開きかけたよ。
「分かりました。子供のやることですし怒ってませんから。」
と言って手打ちにした。
次のトイレ休憩では、何故か男性たちの時間がちょっと長めだった。
◆◇◆◇
乗合馬車は順調に進んでいたけれど御者のディグホースが突然馬を止めた。
「チッ、ゴブリンの待ち伏せだ。突破は・・・無理そうだな。俺は馬車と客を守るから蹴散らしてきてくれ。」
「ああ、分かった。」「まかせなさい。」
ディグホースの言葉に、護衛の若い男剣士とフードを目深に被った女魔法使いが応じた。
ただ乗りしている私が言えた義理ではないけど、護衛の人数が少ないと思う
比較的安全な街道なのか、護衛の腕がいいのか分からないけれど
心配なのでアイテムボックスから長弓と矢筒を取り出して何時でも援護できるように構えた。
集中した私の視界にゴブリン達の姿が映し出される。
エルフの視力は6.0~10.0ぐらいあるし木の裏に隠れた程度であれば透けて見ることができる
有効視界に7匹、隠れているのが15匹で合計22匹・・・多すぎる!
ディグホースの隣に行きつつ隠れていたゴブリンに
エルフの弓術にかかれば遮蔽物を回り込んで射ることができるんだからね!
師匠のようにぐにゃぐにゃと障害物を避けまくって命中させるのは無理だけど、S字程度の曲射なら私にもできる。
「ヒューッ、やるじゃねぇか嬢ちゃん!」
「油断しないで後19匹よ!」
「なッ!19匹だと?」
私の声掛けにディグホースが驚愕する。見立てていた数より大分多かったらしい。
「そいつは、出し惜しみをしている場合じゃねーな!
ディグホースの手にリボルバー式の
驚いたことに弾丸は急激に曲がりゴブリン2匹を貫いた。
1匹に2発撃ち込むことにより確実に仕留めている。
「どうよ、銃って言うんだが・・・まあ分からねーか。」
ドヤ顔されましたけれども、元日本人なの十分で知ってますよー
弾丸を曲げられるのには、ちょっとびっくりしたけど
「せあああ!」
「貫け〈マナボルト〉!」
「援護するわ!〈トリプルシュート〉!」
剣士が1匹切り裂き、魔法使いが1匹魔法で倒した。
私も後衛のゴブリンを3匹倒したので残り12匹
ゴブリン達も石や矢を飛ばしてきたが剣士は自力で切り払い、魔法使いに当たりそうなものは私が全て撃ち落とす。
射程外の一番奥に居たゴブリンが剣士に目掛けて魔法で攻撃をしてきた。
「うわぁ!」
偶然躱せたようだけど何発も魔法を撃たれると危ない。こちらから狙おうにも距離もあるし障害物で射線が通らない。
なら―――当たるようにするだけよ!
私は、弓に闘気を流す。これで弓が強化され飛距離が飛躍的に増す。
矢にも闘気を流す。貫通力が増して樹木ごと敵をブチ抜くために。
目に魔力を込めて標的をロックする。
限界まで弓を引くと、キリキリと
「隠れたくらいで調子に乗ってるんじゃないわよ。
私の取って置き〈ロングシュート〉と〈パワーシュート〉の合わせ技だ。
ピシーン!シュゴゴゴ!!!
矢は、狙い通りに樹木ごと魔法を使うゴブリンを貫いた。
しかし、私は急に襲ってきた激しい痛みにガクリと体制を崩す。
「く―――っ!?」
「どうしたエルフの嬢ちゃん!無茶な攻撃でもしたのか!?」
「い、いえ弓の弦が胸に当たっちゃって自滅しただけよ。」
「は?ハハハ・・・」
ディグホースは驚いた後、何とも言えない表情で苦笑した。
笑い事じゃないよ!
ピシーンって弦が当たって凄く痛かったんだよ!
乳首が取れちゃうかと思ったわ!
まさか、こんなところにも巨乳になった弊害があるとは、うぐぐ・・・
その後は、危なげもなくゴブリン達を全滅させることができた。
「援護助かった。いい弓の腕だ、うちのパーティに欲しいぐらいだぜ!」
「ありがとう、魔法が撃ちやすくてとても助かったわ。」
と護衛たちからお礼を言われた。
私が9匹、ディグホースが2匹、剣士6匹、魔法使い5匹と護衛のお株を奪うような形になったけど緊急事態だったので問題なかったみたい。
少し肝が冷えたけれど、その後は何事も無く野営地に到着することができた。
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