物語の綴り手

暗黒騎士ハイダークネス

第1話 あいつは・・・俺の・・・

 俺は一番だった。

 同年代の村の子供の中で一番頭がよく、体が大きく、魔力も多く、剣術にも優れていた。

 俺のことを周りの大人たちはみな神童だと持て囃していた。

 そんな噂がどこかの偉いの人の耳に入ったのか。

 俺は王都の学校へと行くことが決まった。

 今は魔物たちが活発化しており、何百年かに一度復活するという魔王という存在が復活する予兆かもしれないと言われていた。

 だからか、こんな村にまで来て、俺を誘いに来た。

 その誘ってきた人の話では、いろんなところから才ある者を集めているらしい。

 俺はその誘いに乗り・・・王都の学校へと行くことになった。




 そこでは・・・俺は下から数えたほうが早かった。

 あぁ・・・俺の上にはまだこんなにも多くの才ある人がいるんだと、俺は世界の広さを知った。

 項垂れている俺に・・・世界の広さを知った学生たちに壇上にいる誰かが言った。

 ならば・・・学べばいいと、教えを請えばいいと・・・学園長は言った。

 己の未熟さを許せないのなら、己の無知を嘆くなら、己の弱さに涙を流すのなら・・・学べと言った。

 その学校は全てはそろっている!!

 強くなるための門は全ての生徒に開いていると!

 心が折れぬのなら

 心が挫けぬのなら

 心が壊れぬのなら

 『道は開かれる』

 さぁ、若人よ、選択せよと


 俺は学んだ。

 多くの生徒が学んだ。

 実力が10番以内であっても、次の日には順位を落とす。

 そんな過酷な世界だった。


 剣術を学び、己の未熟さを学んだ。

 魔術を学び、その深遠へと触れた。

 世界を学び、共に研鑽する友を得た。


 やがて、俺は学園ランキング2位へと至った。

 1位は共に学んだ女の友であった。

 女だからと、心のない誰かは言った。

 彼女はそれを真正面から打ち破り言った。


「私より強くなりなさいよ!」


 彼女は誰よりもまっすぐだった。

 彼女は誰よりも気高かった。

 力に驕らず、高みを目指すのなら、誰よりも優しく、厳しかった。

 何回やっても、何回挑んでも、俺は倒せなかった。

 何度も試行錯誤して、挑んで挑んで挑んで・・・こいつさすがに強すぎるとだれもが言った。

 俺は諦めなかった。

 その高みがまだあるのならば、挑み続けた。

 共に剣術を研鑽し、魔術を学んだ。

 だから、その女に挑む以外の開いている時間は朝から剣を振り、夜には魔術の明かりで、もっとより多くの魔術の知識を得た。

 やがて、多くの学生から『学園不動2番』などとも呼ばれ始めた。

 挑む以外にも、挑まれる勝負のことごとくを圧勝したからだ。

 そして、今日も今日として、彼女に魔術を試そうと闘技場へと足を運ぼうとしたら、人だかりができている学園の掲示板に目が言った。


 そこには世界は暗闇へと戻ると・・・魔王が呼びがえったという知らせがあった。


 そして、そこにはまた、こうも書かれていた。

 アリス・クロッカス

 勇者の剣に選ばれたの彼女だった。

 その日のうちに・・・各地から選りすぐり英雄とともに彼女は旅だった。


「無事に帰ったら、伝えたいことがあるから、私が魔王倒してくるまで、死なないでよね!」


 別れ際にそう言い残して・・・




 半年後、あいつが死んだという知らせが届いた。

 ・・・ウソだ

 正義は悪に勝つんじゃなかったのかよ!

 なんで!なんで!? 彼女がなんで死ななきゃならないだよ!

 彼女は!俺の目標で、俺の親友で、俺の最愛の人だった。

 まだ、伝えてもらってない。

 まだ、伝えられていない。

 倒すって、俺にそう言ったじゃないか。


 急いで駆け込んだ病室に横たわる彼女・・・ただ眠っているように見える彼女。

 俺が来たのを見ると、みんな横にひいて、道を譲った。

 握りしめた彼女の手は酷く冷たかった。

 どこかの誰かがこう言った。

 決してもうその手は暖かくはならないと。


 俺の目から、あふれでる涙がその体を濡らしても、その優しい手は俺の涙をぬぐってはくれない。

 ただ・・・彼女は静かに横たわっているだけだ。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 泣き。嘆き。その体に縋りつく。


 ただ・・・彼女のたびについていってもらえなかった自分のふがいなさが許せなくて

 ただ・・・彼女が死んだという現実が受け入れなくて

 

 わがままをいう子供のように、何も言わない彼女を抱きしめ、涙をあふれさせる。


 泣いて、泣いて、泣いて


 泣きつかれた幼子のように、彼女のそばで眠った。











 世界は平和になった。


 俺は勇者の剣には選ばれなかった。


 勇者の剣は異世界から呼び出された男が抜いて、魔王を倒した。


 勇者とともに戦った俺のことをみなは英雄と呼ぶ。


 俺の歩んだ道は栄光の道だと


 この国の誇りだと・・・


 だが、俺は知っている。


 俺達の道は死体だらけだということを


 俺の手は酷く血に塗れていることを


 俺の心はもうあの時から枯れていることを


 戦った


 戦った


 あの地獄のような日々を戦い抜いた。


 学生からの友人の多くを失った。


 戦場をともに戦った多くの戦友を失った。


 家族を、友人を、故郷を失った。


 国から地位を、富を、美女を与えられそうになった。


 そのどれもを断り、ただの1人の男として、彼女の墓参りに来た。


 戦いの終わりを、勇者の凱旋を喜ぶ王都の喧騒はここには届かない。


「あぁ・・・久しぶりで汚れているか」


 もうここに来る友人もすくなったということを感じ、悲しくもあいつはみんなの中では過去のものなのだと、実感してしまう。


「・・・アリス、俺さ、頑張ったんだよ」


 何も言わない墓標にそう話しかける。


「俺のことを英雄なんて呼ぶんだ、ははは・・・お前に勝てなかった俺をさ」


 汚れている墓標を洗いながら、雑草を抜きながら、コップの水を入れ替えながら、線香をあげる。


 久しぶりに帰ってきて、全部終わったことを話す。


「俺さ・・・お前のことが忘れられるのつれぇよ・・・そして、どうしても、お前の笑顔が、お前の言葉が、お前の顔がどんどんと俺の中からも薄れていくのがとてつもなく怖ぇよ」


 少しの涙を流し、こう続けた。


「だからさ・・・俺はお前の物語を描こうと思うんだ・・・」


「俺、物語なんて書いたことなんてねぇが、下手でも、俺が俺なりにお前を残す物語を描こうと思うんだ」


 忘れちゃいけない、忘れたくない、忘れらない記憶の中の彼女の話を


 あいつがなるはずだった・・・


 『勇者』の物語を描こう


 あいつが生きていた証を


 俺の最愛の人へ綴る・・・綴れなかった想いを本に込めて







『 勇者 アリス 』

              作者 永遠の二番手


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