◆魔剣名鑑◆#7

◆魔剣名鑑 #4【〈竜魔の邪剣ノートゥング〉】◆


制作工房なし。天地創世の七振り。序列・第四位。

黒鋼色の鎌めいた曲刃を持つ双剣。その刀身は地獄の竜の業火を思わせる禍々しい意匠を成す。

世にも稀有な、使い手を選ぶ魔剣である。


世界の礎となった七振りの魔剣であり、〈水鏡の月刃ヘレネハルパス〉の写し元。管轄する神は〈大地の竜母神フュルドラカ〉。

かつて神代の時代に大母たる竜が暴走した時、その身体を貫き穿って怒りを鎮め、以って人々の暮らす大地に変えたという伝説を持つ魔剣である。


――――この剣が担いし理は『大地』と『支配』。

魔術における『加重』の効果を突き詰めた究極の一。

司るは、万物に働く重力の如く再現される『引力』めいた力と、それを外へと反転させた『斥力』めいた力である。



使い手の肉体に収納され、そして自在に体を貫いて発現――剣劔甲冑を形成する魔剣。この際の刃は、使い手の肉であり骨であり神経を為す。

故に発現時に己の肉を裂くことへの激痛は愚か、刃に触れられることへの痛みというのも当然ながら有している。

この時彼女は、触覚として世界を“視る”。


鱗めいた刃の数は片方の剣で五十四枚――計一○八枚の刃であるが、その一枚一枚が以下の効果を持つ。


その刃は元の速度や強度や方向、質量、実体・非実体を無視して刃に触れたあらゆるものを“吸い付け”、そして“押し退ける”。

物体そのものの全体を“吸い付けること”や“押し退けること”もできれば、刃に触れたその一部分だけを“吸い付けること”や“押し退けること”もできる。その際に物体を壊すことも壊さないこともできる。

この能力で物体に力を加えることへの『反動』は基本的に存在しないが、あえて発生させることや逆にこの能力の『反動』のみの再現も可能。

つまり、逆に“吸い付くこと”も“押し退けられること”もできる。

秒速五五五メートル――超音速の加速度でそれは為される。


選ばれた使い手であるエルマリカに限っては、絶対にこれらの魔剣の権能により己の肉体を破壊や損壊させることがない。

また吸い付ける力と押し退ける力の応用で、刃に触れたものを逃さず刃の上で自在に滑らせることが可能であり、これにより別の地点で緩やかに解放することや、逆に一箇所に集積・圧縮してから射出することも可能。

これを利用することで、エルマリカは極超高速ながらも無音・無衝撃・無反動の移動を実行している。


ゼロからの急加速、トップスピードからの急停止――尋常なる使い手では斬り結ぶことは愚か、エルマリカの姿すら認識できずに斬り殺され、時にはその高温の衝撃波のみで死に至る。

もしもこの刃の全力を束ねた『反動』で己を弾き出せば、地球の重力圏を貫き大気圏を離脱することは愚か、別の惑星どころかこの恒星系の外めがけて飛翔することも可能。

転じて彼女がこれを攻撃として――即ち衛星軌道からの単身突撃として利用すれば大地の形すらも砕き変えられるであろう。

――否。その特性が故に、阻む万物を押し退け続けることで地殻も貫き、星の中心から全てを四方八方に“押し退ける”ことも可能。

事実上、星すらも滅ぼす究極の一振り。

傷という概念をもその対象にする以上、その破壊が癒えることも決してない。

それほどの――――天地創世の名に恥じない魔剣である。



無論、真価は攻撃や速度ではなく『防御力』。

能力は基本的に常に発動状態にあり、エルマリカの認識にないものすらも如何なる重量、如何なる速度、如何なる破壊力、如何なる概念であろうと自動で押し退ける。

その為彼女へのあらゆる不意打ちや急襲は不可能であり、事実上〈竜魔の邪剣ノートゥング〉を発現させたエルマリカは無敵。

体内に存在するという関係上――攻撃を受けたその瞬間に自動で迎撃に発動し、触れた物体をその速度や重さや進行方向、力に関わらず確実に弾き飛ばせる。

一繋がりや一纏まりの攻撃であれば、たとえ宇宙創生の熱ですら押し退けてみせる。

まさしく『無敵の剣』であった。


唯一妥当する方法は、既に刃に触れて押し退けられたものを無理やり後続の力で逆に押し込み、そのまま〈竜魔の邪剣ノートゥング〉の出力や加速度を上回る力で一息に押し込み続けることのみ。

継続した推力を持たないものではこの鎧を決して突破できず、推力を持ちながらも一纏まりや一繋がりのものでは〈竜魔の邪剣ノートゥング〉の支配下に置かれる。

事実上、単純な斬撃や打撃での打倒は不可能。

剣士殺しの甲冑剣刃。それが〈竜魔の邪剣ノートゥング〉という魔剣である。


原初より、魔剣に勝つべくして造られた魔剣であった。


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