おはなし
黒秋
とある夜
「ねぇお嬢さん」
「なに、お姉さん」
「こんなところで何しているの?」
「…星が、綺麗なんだ」
「たしかに、山の上のここなら
邪魔な物が無くて…星が明るくて…
良いわね、うん。本当に綺麗ね」
「わかるの?」
「わかるわよ。
こんな綺麗な星空、生まれて初めて見たわ」
「…良かったね」
「えぇ、すっごく良い経験をしたわ」
「お姉さん、お星様って、
なんでこんなにあるの?」
「…難しいこと言うわねぇ。
お月様だけだと暗くて寂しいからよ」
「じゃあ、太陽さんは一人じゃないの?」
「太陽さんは月さんより凄く明るいでしょ?
だから太陽さんからは私達が
ハッキリ見えてるから寂しくないのよ」
「へぇ…」
「…」
「…」
「…」
「あのね、お母さんがね、
この場所教えてくれたんだ」
「あら、そうだったの?」
「うん、お母さんとお星様を見ると
寂しくないんだ。お月様とお星様に似てる」
「…」
「…」
「…」
「…お姉さん、ありがとう。
久しぶりに、寂しく無かった」
「それは良かったわ」
「お母さんに、会いにいくね」
「えぇ、きっと、お星様になって、
貴女を待っているんでしょう」
「バイバイ」
「お母さんといっしょに、
パパのこと見守ってあげてね」
「うん、パパが来るまで、見守る!」
「………バイバイ」
ーーー
「…そう、ですか、そういうことが」
「えぇ、娘さんは…
きっとお母さんに会えましたよ」
「私では、役不足でした。
幼い頃から仕事に目を向けすぎて、
彼女も娘にも何もしてあげられなかった。
あの山上に登って娘と会っても、
お母さん と呟きながら夜空を見ていた。
娘は、もしかしたら私のことを恨んで…
「それは無いですよ。
お父様のこと、いつまでも
星空でお待ちになると言っていました」
「………あの豪雨の日、
二人の元に居られなかったのが
私の罪です。ですが彼女たちに罪は無い。
度々言いますが。
娘を母親と合わせてくれて
ありがとうございます…」
「…娘さんのことが
放っておけなかっただけですよ。
さて、私は次の 話し相手 の方が
待っているので」
「はい…この恩は…忘れません…」
「その恩はお金に変えて、
年に一回くらい娘さんやお母様に
プレゼントでも送ってあげてください。
それと…星を毎日見上げてみてください」
「はい……っ…はい……っ」
彼女の仕事は話すこと。
単純だが、彼女にしか出来ない。
この世に未練を残す人との最後の おはなし 。
おはなし 黒秋 @kuroaki
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