卒業

黒秋

前略

ーーー卒業式が終わった。

なんというか、とても静かなものだった。

いつも喧騒を作り出している仲間達も

あの時だけは皆、

どこぞの偉い人の言葉を流しながら、

自らの記憶に没頭していた。




私は今日から社会人である。

新たなる生活が楽しみな反面、

大きな喪失感を今抱いていた。


卒業式が終わり、

2日間が経過しているというのに、

貫かれた心の空白の正体を探している。


卒業式、合唱なんかしたなぁ。


定番曲の「旅立ちの日に」


卒業式で泣く人は結構いるけど、

歌に集中している合唱の時は

そういう人が少なかった。


私たちの旅立ちを祝福する歌が、

何かを誤魔化し、何かから目を背けるための

綺麗で寂しい音楽に見えた。



…懐かしい。

卒業式ですら、

ぼやけた画質のビデオテープという形で

脳内に再生されているような感覚を覚える。


体育祭、修学旅行、学園祭…

一体何だったんだろう。

あの時、特別だと感じた熱意は。




このままノスタルジーに浸り浸って

なんとも言えない気分を味わいのも良いけど

そろそろ仕事に向けての準備などで

忙しいので、そろそろ動くとしよう。







…この謎の喪失感も、倦怠感も、悲哀も、

おそらく一ヶ月も経たない内に忘れている。


だが私は、いや人間は人生で何度も

過去を振り返ることになるのだろう。


過去を振り返ることに何の意味があるのか、

それはまだ自問自答の余地がありそうだけど

私は哲学者じゃないんだから

深くは考えなくて良いかな。



私は卒業した、学校生活から。

そして人生にこらから刻まれていく

過去 の一つから。



あぁ、うん、ダメだなぁ。

複雑なことを考えても、

そろそろ誤魔化しがききそうにないや。




涙が、今になって溢れてきた。









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卒業 黒秋 @kuroaki

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