SEKAI NO OWARI

 しかし、本当に世界の終わりが訪れるとは僕も思わなかった。ぜんぜん、たなぼた的にも思わなかった。

 僕ひとりが小さな、ささやかな、細々とした、現代社会でいうところの個人主義的な終焉を迎えるものだとばかり思っていた。

 それがこんな状況になると、ホント、どうしたものか。

 きっとこの現実世界は僕の個人的でプライベートな精神世界と結び付いていて、その破綻が具現したと考えるしかない。


 まずニュースが報じるところの、ファーストウェーブが五月五日に訪れて、ヨーロッパの人口の三分の一が蒸発した。ヨーロッパ攻撃の衝撃も冷めやらぬ二週間後のセカンドウェーブではインドとパキスタンの半分が滅んで、翌日のサードウェーブではアメリカ大陸が完全に消滅した。それから二十日後のフォースウェーブで中国が壊滅状態となり、二時間後のフィフスウェーブでオーストラリアが沈没した。

 無傷で残ったのはアフリカ大陸くらい。

 熱心な宗教家は最後の審判が訪れたと叫び、あまり熱心でない信者や無宗教の人間は信仰に目覚めた。

 経済がシャットダウンされ、アラブ諸国が石油の値段を吊り上げたのに対して、我らが日本は猛烈にその姿勢を批判したのだが、大国の中でほとんど無傷の国が日本のみであったため、そのバッシングにバッシングを行う人々が増えた。金のあるものは金を払えと言うわけだ。


 そしてザングース星人のアナウンスが三日前。

 地球をザングース星人の植民地とするため、宇宙物質エクレアトコロール光線を放射するとのこと。

 地球人にはエクレアトコロール光線は有害であるため、生き延びたければ降伏し、アフリカはコンゴ共和国にある名前も聞いたことのない町へ向かえ、とのことだった。そこに行けばプトリロコンと呼ばれるザングース星の最先端バイオテクノロジーの恩恵を受けられるとのこと。

 第六過酸化酸素系塩基なる地球人には未知の物質を含むエクレアトコロール光線を実質無毒化する効用があるそうだ。

 詳細はわからないが、助かるのかもしれない。


 でも問題は助かりたくもないってことで、そもそもザングース星人の馬鹿げた空母が浮かぶ空を好きこのんで飛行したい輩なんていない。少なくとも僕はしたくない。

 自衛隊は遂に活躍の場を見つけたと意気込んで、戦闘機をザングース星人の空母に送り込んだが、目に見えないバリアが一瞬で十機の戦闘機を鉄クズにした。遠く東の空で放たれたピンク色の爆発の連続が、花火でも見てるようでなぜか心和んだ。それにも飽きたらず、八十年前の愛国精神を思い出した戦闘機が、それからしばらくの間、毎日のように突撃してはピンクの小さな明かりになって散っていった。天皇陛下万歳!日本国万歳!

 コンゴのyoutuberがプトリロコンによってザングース星人に変身する様子を中継したが、それはとてもじゃないが見ていられない光景だった。97分50秒の動画なのだが、何度も出会い系アプリのCMが挟まれたのが、この数日で一番驚いたことだった。

 結局、何をしても人類に希望はないということだ。


 だから僕は脳髄の芯までアルコールに浸して、滅びゆく今日の日を高みから見物しようと思う。

 巨乳の彼女のことは許してやろう。新しい恋人と抱き合って、果たされることのない約束を一時のモルヒネとして眠れば良い。

 君が眠る間、ザングース星人が頭上でエクレアトコロール光線の準備に精を出している間、物好きな金持ちどもが難民としてコンゴ共和国を目指している間、僕は世界の終わりを下らない文章で染めてやろう。下等生物の静かな諦念で、世界の終わりを締めくくってやろう。

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世界の終わり 赤木衛一 @hiroakikondo

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