後後後後編
こうして僕は恋人と会社を失い、飲んだくれとなった。飲んでは吐いて、吐いては飲んで、ゲロと酒の臭いを煙草で隠した。人生の貴重な一年を捧げた会社に一つ感謝することがあるとするなら、それは金を使う時間を僕に与えなかったことだろう。お陰でまずまずの貯金があった。質素な生活なら一年は持つだろう、という希望的観測。だけどね、希望的とはあくまで希望的ということなのね。酒税とたばこ税を馬鹿にしてはいけないのね。一日中アパートに引きこもって快適に過ごすためのコストを馬鹿にしてはいけないのね。
目をむくほどの光熱費の請求と、目はむかない代わりに腹立たしいNHK受信料と、高すぎるスマートフォン使用料。ドで始まってモで終わる通信会社だ。ちなみにNHKの変なマスコットもドで始まってモで終わる。ドとモの組み合わせには注意した方が良い。
その時僕はどん底だった。
あれだけ愛し合ったのに、僕が会社でひいひい言いながら休みもなしに働いている間、インフルエンザでひいひい言いながら寝込んでる間、彼女は他の男の腕の中でひいひい言ってたってわけで。
その男のことはしつこく聞かなかった。聞いても仕方ないと思ったし、こちらが傷つくだけだから。
僕より五歳年上で、彼女の会社の取引先の営業マンなんだそう。和歌山生まれで、聞いたことのない大学の経済学部を出て、ギターを弾くらしい。好きなバンドはONE OK ROCK、好きな映画はショーシャンク。定期的にセミナーへ通い、京都に行きつけのバーがあるもよう。SNS恐るべし。
とにかく、私はそのような版で刷って大量生産される俗物に恋人を奪われたようだ。
しかし、思ったほど怒りは湧かず、彼女の大きな胸をそいつが今揉んでいるのかと思うとやきもきするくらいで、殺したくなるくらい。
新たな仕事を見つける気力もなくなった。アルコールと煙草の煙と自堕落の残滓に埋没し、僕の世界は終わったも当然だった。
そう、とうに世界は終わっていたのだ。
セカオワ。
ひとえにこれは私の無気力さのせいである。
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