第21章 時間切れ
巡らせた
「激震霧散!」
激震霧散は相手を気絶させる魔術だ。
ただし、肉体に影響を与えるものなのでそれが無い精霊には効かない。
極彩色パレス達にははったりで効くふりをしたけど、当然効くわけが無い。
――と、今まで思っていた。
思いついたのは煙風一撃を極彩色パレスの開いた口に叩き込んだ後。
あの時、私が起こした煙風に極彩色パレスはゲホゲホと苦しそうにむせていた。
つまり、あの小箱は咳き込んだりできる気管みたいなものがあるってことだ。
激震霧散は精神だけの存在なら使えない魔術。でも、極彩色パレスには小箱のからだがある。
しかも、電話を宿にしているウェーブ君と違って精神体と別れていない。極彩色パレスは小箱と精神体が一体の精霊だ。
だったら、出来るかもしれない。
物理的な姿があって、それが外からの刺激に影響されるなら。
そう、激震霧散で極彩色パレスを気絶させることが!
「!?……――」
術が発動した瞬間、極彩色パレスは小箱の姿を一度大きく震わせると微動だにしなくなった。
同時に、動かない極彩色パレスに合わせた様に浸食の動きがだんだん遅くなっていく。
「……嘘、本当に効いちゃった!?」
自分で使っておいてあれだけど、こんなあっさり!?
「本当に効いたって何だよ?」
驚きの声を上げた私をログ君がジト目で見ている。
「いや、激震霧散は精霊には基本効かないから……あれ、もしかして、ログ君あの時はったりだって気づいてなかったの!?」
ってことは、あの時私に合わせてくれたんじゃなくて、本気で言ってたんかーい!
などと、私が言うとした瞬間。
「何だと! 貴様、我を騙したと言うのか――!?」
「って、起きてるー!?!?」
びっくりした!
極彩色パレスの大きな声に本能的に小箱から間合いを取るくらいびっくりした。
「何で起きてるの?? 間違いなく効いたと思ったのに!」
一瞬本気で喜んだのに……!
「はっ! …………我は、今意識が…………消えたような」
極彩色パレスはの途切れ途切れの言葉と共に、止まりかけていた浸食がまた進みだした。
「くっ、完全にに意識は落ちなかったか」
「くく、く……よく分からぬが。どうやら、手詰まりの、様だな……」
悔し声を漏らす私に対して、極彩色パレスはか細い声で勝ち誇った。
極彩色パレスは自分の身に何が起こったか良く分かってないみたいだけど、 つまり激震霧散は失敗した。
私の激震霧散は極彩色パレスの意識を少しだけ落としただけだった。
とはいえ、普通の精霊なら効かない術が少しでも効いたのは間違いない。この小箱の姿は激震霧散の有効範囲にかすっているはずだ。
「そうだ、少しでも効くことは分かったんだ。肉体とはいえないけど小箱の姿っていう物質に効く理由が何かあるはず。術の使い方とか方法を色々試して、もっと効果がある様に調整を……」
「我で! 実験するな!」
今まで毒が回って鈍っていたとは思えない大きな声が返ってきた。極彩色パレスの動揺に合わせて相談所への浸食が一瞬揺らぐ。
これ、極彩色パレスの精神状態が浸食に少し影響を受ける感じっぽい……?
なら、完璧に気絶させれば浸食止まる可能性かなり有る?
「まあ、よい。…………どうせ止められん」
そこで、限界になったのか極彩色パレスは動くのを止めた。アレスト君の体が重くなる毒が完全に回り切ったみたいだ。
それでも、相談所を浸食する彼の
「ふん、魔術士が実験の機会があるのに躊躇いますかってーの」
魔術士っていうのは、自分の術についてあれこれ考察とかしたくなる人種だ。
今まで見たことが無い状況があるなら調べたくなるのは性とか職業病って奴なんだよね。
どうせ、止められない。そんなこと言われて、はいそうですか。なんて言うわけがない。
「あらあら皆様。無駄なことなどお止めになって逃げた方がいいですよ。早くしないと浸食に巻き込まれてしまいますよ☆」
「黙ってて。こういうのは最後まで諦めないのが勝ちって相場が決まってるの」
なんて、レコードに言い返してみたけど……実際どうする?
ウェンディ―ネ君はレコードを妨害中。
アレスト君の
近くにあった机が、外の日差しが入っていた窓が、じわじわと灰色の石畳に飲み込まれていく。
どうしたらこれを止めることができる?
絶対、相談所が完全に飲み込まれる前に止めたいけど、そんないい考えなんてぽんぽんと出てくるものじゃないし。
こうなったら……。
「やりますか! 無限激震霧散チャレンジ!」
「待ってください!」
私が博打こと激震霧散連発して、運が良かったら止まるかもチャレンジを始めようとしたその時。
ティムリエ君の大きな声が私を引き留めた。
「
「そういえば、
ログ君の言うう通り、
ってことは、激震霧散チャレンジで極彩色パレスが完全に気絶しても意味が無い?
「それじゃあ、後はどうすれば……」
「ふふん。これこそがダンジョンの意志と呼ばれる主様の超
「つまり、
「でも、この小箱さん凄い固いですよ。リリエの掌底当たってびくともしなかったもの」
ルルの言葉通り私の掌底は極彩色パレスの小箱に傷一つもつけることができなかった。
「なるほど、そこの小箱の精霊は物理で倒すのは難しい、と」
ふと、私はティムリエ君の立ち位置が変わっていることに気が付いた。
入り口を塞ぐ様に立っていたはずだったのに、いつのまにか相談所の中にいた。彼もウェンディ―ネ君も扉の邪魔にならない場所に移動したので、開いた扉から外の見慣れた景色がよく見える。
「でしたら、ここは
うんうん。と、頷いていたティムリエ君は、アイスブルーの瞳を細めると、レコードに声をかけた。
「もう!
何かに気が付いたレコードが声に詰まる。
それと同時に、開いた扉から飛び込んできた影が一つ。
水の壁に阻まれたレコードにはその姿は見えないはずだ。
それでも、押し黙った彼女の記憶にはその姿はきっと残っている。
「――アレスト、離れろ!」
飛び込んできた影を見て、ログ君が叫んだ。アレスト君は慌てて巻き付いていたしっぽをほどくと、極彩色パレスから距離を取った。
私も極彩色パレスから距離を取ったまま彼の姿に目を向けた。
極彩色パレスは私達が離れても微動だにしない。
アレスト君の体が重くなる
黒い影は極彩色パレスの前に跳躍すると大きく吠えた。
「――――――っ!」
ログ君は仕事を片づけたら帰ってくると言っていた。
そして、レコード自身が言っていたじゃないか。
早く逃げないとあいつが来ちゃいますよ、と。
レコードの言ったことは正しかった。まあ、結局時間切れだけど。
逆に私達目線から見ればぎりぎり間に合ってくれた。
さすが、事件を解決するのが得意なだけはある。
扉の前にはいつの間にか人影が一つ立っていた。
仕事が終わって帰ってきたムラサキさんがイーター君に指示を出す。
イーター君の声を聞いたレコードの悲鳴が響き渡る。
それに重なる様に低い咆哮がかき消した。
そして、イーター君の
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