第20章 ユニークスキル

 ログ君は私が投げ渡した踊る精霊の首飾り(偽)を掴むと、アレスト君に不敵な笑みを向けて言い放った。


「アレスト。使うぞ、特異特技ユニークスキル!」


「! 了解シタ!」


 ログ君の指示にアレスト君が嬉しそうに答えた。

 そんな二人が頷き合う中で、低い怒りに満ちた声が床の方から聞こえてくる。


「ゴホっ。おのれ、我の宝物庫から盗みを働くとは。

ダンジョン内の宝箱の中身以外を奪うなどマナーがなってない……ゲホゲホ!」


 極彩色パレスは咳き込む度、蓋を開けて中から白い煙を吐き出している。

 まだ、私が叩き込んだ爆風一撃の余韻は極彩色パレスの中で残っているみたいだ。

 それにしても、贋作売りさばいてた相手にマナーとか良く言えるなこの箱。


 そんな極彩色パレスの抗議には答えず、ログ君が特技スキル発動した。


「いくぞ、アレスト。特異特技ユニークスキル――罪を噛むギルティバイト!」


 ――特異特技ユニークスキル

 主従契約を結んだ精霊使いが獲得できる特技スキル。それが、特異特技ユニークスキルだ。


 精霊と契約を結んだ相手によって、手に入れる特異特技ユニークスキルは千差万別。ただし、どんな特異特技ユニークスキルが生まれるかは契約しないと分からない。

 さらに、契約解消すると特異特技ユニークスキルも使えなくなるっていうのは不便だと思う。

 そして、アレスト君と契約したログ君の特異特技ユニークスキルというと――。


 ログ君が特技スキルを発動すると同時に、アレスト君の姿が鎖の姿へと変化していく。

 銀の鎖となったアレスト君は、極彩色パレス目掛けて真っすぐ飛び掛かった。そして、アレスト君は小箱にとぐろを巻く様に絡みつく。


「何だ芸の無い……あ痛!」


 冷めた声から極彩色パレスの小さく悲鳴が上がる。


 アレスト君が鎖の姿から頭でいつもの蛇っぽい頭に戻して、極彩色パレスを思いっきり噛んだせいだ。

 とはいえ、極彩色パレスが痛がったのは噛まれた一瞬だけ、見た目に大したダメージを受けた様には見えない。


「わはははは! 少々痛かったがそれ以外はただの拘束技か。ふん、再度言うがそんな技なぞ我には効かぬわ!」


 極彩色パレスが拍子抜けと言いいたげにログ君を煽り散らしている。

 確かに、極彩色パレスから見ればアレスト君の特技スキル石鎖捕りロックキャプチャーに捕まった時と大して違うと思えないか。

 

「おっと、それはどうかな?」


 極彩色パレスの感想を否定するようにログ君が口を開く。

 手には私が取り返した首飾りがある。それをログ君は、ぐいっと目の前に突き出してみんなに見える様に掲げている。


「極彩色パレス、確認だがお前がやったことは島への不法入島をして、オークションでこの贋作を騙して売りさばく事に手を貸していた。で間違いないな?」


「うむ、我が野望のためにしたである! で、それがどうしたと言うんだ?」


 極彩色パレスの答えを確認したログ君は、首飾りを持つ反対の手で彼に指を突き付けた。そして、大きな声でする。


「――条件達成を確認。毒は間違えない。犯人はお前だ!」


「ふん、我の頑丈さはそこの娘の攻撃で既に披露済みだ。拘束して噛みついた程度で、我をどうにかしようなどと、は……無謀な、り……」


 極彩色パレスの偉そうな声は次第に小さくなっていく。それから、あきらかに困惑した声が聞こえてくる。


「? なんだ……動きが鈍く……」


「たいした事ないって余裕ぶっていて助かったぜ。この特異特技ユニークスキルは発動条件が面倒だから、あんたがお喋りじゃなきゃ詰んでた所だ」


 ログ君はほっとした様に息をつくと、突き付けた指をゆっくりおろした。


「ねえ、小箱君どうしちゃったの?」


「これは、ログさんの特異特技ユニークスキルです。相手の罪に合わせて体を重くする毒を与える能力です」


 不思議そうにしているルルにティムリエ君が答えてくれた。


「馬鹿な、毒ごとき我に効くはずは……」


 信じられないと言った感じの極彩色パレス。だけど、その言葉に対して体を崩して逃げ出さない辺り効いているはずだ。


「残念だが、これは毒といっても呪いに近くてな。人だろうと精霊だろうと絶対に毒にかかるようになっている」


 ティムリエ君に続いて、今度はログ君本人が特異特技ユニークスキルについて説明をしてくれた。


 ログ君の特異特技ユニークスキル罪を噛むギルティバイトは発動条件が揃えば、相手の動きを封じる事ができる超強力な特技スキルだ。


 ただし、超強力な分条件がかなり厳しい。

 まず、対象者の罪(悪い事)、証拠、自白の三つが揃わないと使えない。

 使用できるのは一日一回だし。

 宣言した悪い事が間違いだったら発動しない。つまり空打ちしたら一日やり直しが効かない。


 とはいえ、この条件が揃えば相手は毒が回って体が罪の重さに合わせて重くなる。そして重さに耐えきれずに動けなくなる。

 強力な特異特技ユニークスキル|であることは変わらない。

 うまく発動するば、ごらんの通りだ。


 毒が回り始めた極彩色パレスはだんだん動きが減り、今までの威勢も無くなってしまった。


「そうか……もはや、これまでか」


 ほとんど動かなくなった極彩色パレスから諦めの言葉が零れる。

 よし! これで一件落着。後は警察呼んで引き渡せば終了。ジエンドだ。


「――なれば、最終手段を使うまで!」


「はあ!? まだ何かあるの?」


 完全にこっちは終わったつもりだけど!?


「くくく、我はダンジョンの精霊……。お前らに特技スキルがあるように、我にもあるぞ隠し玉が……!」


 不穏な事を告げた極彩色パレスから魔力マナの気配が一気に膨れ上がる。


「主様! お姿は見えませんが、まさかここでお使いに!?」


 水の壁越しにレコードの驚く声がする。

 何を使うつもりか知らないけど、絶対碌な物じゃないことだけは確信できる。


「くくく……次は我の特技スキルを披露する番、だ……!」


 そう言って笑う極彩色パレスの声は息も絶え絶えで苦しそうだ。

 ログ君の特異特技ユニークスキルが効いているのは間違い無い。

 それに比べて、小箱を中心に爆発的に膨れ上がった魔力マナは今にも暴れ出しそうな程、力に満ち溢れている。こんな膨大な魔力マナを使って何をするつもり!?


「我が特技スキル……。その名も、大建築オープン・オブ・ダンジョン


 私の心を読んだように極彩色パレスは自分の特技スキルついて語り始めた。


「我の創作特技スキルはダンジョンを作るためのもの、だ……。贋作作りなぞ、その僅かな力を使ったに過ぎん……」


 よく見ると、極彩色パレスがいる下の床が変わったというか、小箱と同化してない!?


「貯めていた魔力マナも。先程取り返した贋作の魔力マナも。全て使い、この場を我のダンジョンに作り替える……!」


「ねえ、小箱さんが今凄い事言わなかった!?」


 ルルの声に、極彩色パレスの言っている意味が頭で回り始める。

 この相談所を新しいダンジョン極彩色パレスにする……?


「変な冗談言わないでよ!」


 正直言って、嫌すぎる。

 仕事先がトラウマのある最悪ダンジョンに生まれ変わるとか、悪夢!?


「くくく……冗談では、無い。我はダンジョンの意志……。我がいる限りダンジョン極彩色パレスは何度だって復活、できるのだ……!」


「きゃ~☆ 主様さすがです。最高~!」


 水の壁越しにレコードの黄色い声援が聞こえてる。腹立つ~。


「ダンジョンに相応しい土地を手にしてから使うつもりだったがやむを得ん。完全に毒で動けなくなる前に……! この場を完全にダンジョン極彩色パレスに作り替えて見せる!」


 じわり、と極彩色パレスが転がっていた床の色が変化していく。

 木目のブラウンの床が、彼の小箱の姿に似た汚れ一つない白い石造りの色合いに変わっていく。


「ログさん! 先程の毒は動けなくなるまでどれだけかかるんですか!?」


「いや、いつもならもう毒が回り切って体の重さに耐えられなくなるはずなんだが……」


 困った表情のログ君を見るに、毒の周りはいつもより遅いようだ。

 それが、ダンジョンの意志なんてレア精霊のせいなのかは分からない。

 けれど、このままだと毒が回る前に新しいダンジョンに生まれ変わってしまうかもしれない。ローレンス精霊専門相談所あらため二代目ダンジョン極彩色パレスが。


「このような……手狭な場所にダンジョンを作るのは不本意だが仕方ない……。さあ、我がダンジョン復活に立ち会う幸運を喜ぶがいい!」


「喜べるかそんな悪夢!!」


 極彩色パレスの言葉に私は叫んで駆けだした。

 今度はアレスト君の毒が回って体が重くなっているので、極彩色パレスが逃げる事はなかった。私の右手はあっさりと小箱を捕まえていた。


 私が触れた場所は、アレスト君が巻き付いた部分から見える、白い小箱に唯一刻まれた文章がある面、上の蓋の部分だった。


「くく……我に魔術を使う気か? 無駄だ。もはや我の特技スキルは誰にも止められない」


 極彩色パレスの途切れ途切の声。

 言い返してやりたいとこを堪えて、小箱を見すえる。

 私は大きく息を吐くと、自分の右手に向けて魔力を巡らせた。

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