第14話 閃光
「あ、でもここで首飾りに出会えたのは運が良かったです」
苦笑から一転、レコードの顔が嬉し気にほころぶ。
首飾りというのはログ君の持ってきた証拠品の一つ、踊る精霊の首飾り(偽物)の事だ。
「あの首飾りには、私が使った
「ああ、それであの時首飾りを無理やり奪ったの」
「はい、首飾りを見た時は本当にびっくりしました。それからはもう取り返そうと無我夢中で……」
ということは、ログ君が首飾りを出さなければレコードが動くことは無かったかもしれないのか。
「実は、
レコードはにっこりとログ君を見てお礼を口にした。
反対に言われた側のログ君は微妙そうな表情をしている。
まあ、自分のせいで犯人に証拠品を奪われた上、力まで返したことになるから心中複雑なのは分かるけど。
「ま、まあ話は分かった。騙された件については弁明の余地はあるが、犯罪に加担した件はそれなりに償ってもらうことになると思う」
「やっぱり、そうなりますか……」
気を取り直したログ君の説明に、レコードは悲しそうに肩を落とす。
いくら外から来た精霊だからって、島に来たからには島のルールに従ってもらわないとね。こればっかりは仕方ない。
ちゃんと刑期をクリアすれば国外追放にはならないと思うので頑張ってほしい。
「あのう、ちなみに押収されてる贋作って返してもらえるんですかね?」
「それは、ちょっと厳しいかもしれない。警察に真面目に協力すれば可能性はあるかもしれないが……」
「本当ですか!? あの、ちゃんと反省したら全部返してもらえますかね?」
レコードがログ君を期待込めた目で見つめた。
とはいえ、自分の
「悪いが、全部は無理だと思うぞ。俺が持ってきた分だって、ムラサキさんが調べたいことがあるって警察に無理言って借りてきたんだ。調べ終わったらこれだって返さなきゃいけないしな」
「そうですか……しょんぼり」
ログ君の渋い答えを聞いたレコードは、悲しそうにソファに置かれた紙袋を見つめている。
さっき、ログ君が両手で抱えて持ってきた紙袋だ。中身は私の位置からは見えないけれど、あの袋の中には他にも押収した贋作が入ってるらしい。
うーん、これで大体の事情はレコードから聞いたかな。
「じゃあ話も聞いたし。そろそろ警察に連絡しよっか?」
「え、俺……首飾りまだ返してもらってないんだが」
「レコードが首飾り奪った供述は取ったし、レコードごと警察に引き渡せば実質首飾りを返したことになるでしょ」
レコードが証拠品である首飾りを持っているのは間違いない。となれば、後は警察が取り返してくれれば大丈夫でしょう。
「えええ! 首飾りも返さなきゃ駄目なんですかぁ!?」
「当たり前でしょうが! ってか、君が使った
「そ、そうなんですけどぅ。この首飾りデザインが気に入ってるのに」
私の言葉に、レコードは抵抗するように小さく言葉を漏らした。
そういえば、装飾品が好きって言ってたっけ。
例え偽物でも気に入った物なら掴んで離さないのが精霊ってものだけど、今回ばかりは諦めてもらうしかない。
「しかし、俺が失敗した事を警察に任していいのかな」
「犯人を捕まえたんだから、そんな失敗帳消しになるって。大体、警察だって早く犯人捕まえたいだろうし」
「それは、そうだろうな」
「そもそも、しっかり犯人捕まえたログ君をムラサキさんが怒ると思う? むしろお手柄だって褒めてくれるまである!」
「! そうか、そうだよな――よし、ウェーブに警察署に繋いでもらうか!」
「レンラク! レンラク!」
私の話にログ君が納得してくれたようで、ソファーから勢いよく立ち上がった。ログ君の表情が少し明るくなったように見える。
よしよしログ君も元気になったし、後は警察とムラサキさんに連絡入れて待つだけか。
「はいはーい! 供述は終わったんだよね? じゃあ私の質問してもいい?」
――なんて、思っていると。隣のルルが待ってましたとばかりに手を上げていた。
「もう、こちらの話は終わったから彼女がいいならどうぞ」
「私に答えられる範囲ならお話しますよ。お姉さん」
「本当? ありがとうレコードちゃん」
ルルは期待に胸を膨らませた表情で、鎖に縛られたままの小箱を指さした。
「この小箱に刻まれた文字って何? どういう意味なのかな?」
そういえば、この箱の意味深で意味の分からない文章について、まだ話を聞いてなかった。
小箱はレコードが万一のために
「この文章ってお宝のありかの暗号とか? それとも、なにか隠された浪漫的なものがあったりなんかして?」
わくわくした表情で答えを待つルルに、レコードは少し間を置いてから申し訳なさそうに答えた。
「え、この文章ですか? …………ごめんなさい、別に意味は無いんです」
――意味が無い?
「何も意味が無いの!? 本当に??」
「こんな謎っぽい文章なのにか!?」
「え、えーとですね……」
ルルとログ君に詰め寄られて、ルルは少し引き気味だ。
「そのう、これはダンジョン居た時の名残というか。えーと、思い出。そう、思い出です!」
「思い出って何それ?」
「ほら、よくあるじゃないですか。故郷を懐かしんで歌を作ったり、思い出を写真に残したり。それと同じですよ」
「つまり……?」
「え、あの……この文章とっても極彩色パレスっぽくないですか?」
笑顔で告げられた真実に脱力するルルとログ君。
ちなみに、私は結構真面目に考えてた時間返してって気分です。
「それって、得に謎なんてない郷愁の産物ってこと!?」
「いや、絶対何かあるだろう! 意味がないのにこんな文章刻まないだろ」
「だ、だから。これは在りし日のダンジョンを偲んだだけでして……」
「大体、こんな怪しい文章のある小箱がよく倉庫の中で放置されるのおかしくない!?」
「それはですね、クルックス邸に居た時は、倉庫の死角に隠れていたので見つからなかったんですよね。そもそも動けますし。倉庫から持ち出された時は、
……!? ちょっと、何してるんですか貴方!」
突然、私達から詰め寄られて、たじたじだったレコードが鋭い声を上げた。
いきなりだったので、驚きながら彼女の視線を追うと、そこにはさーちゃんが机の上にある小箱にふよふよと近づいているところだった。
「ひえ、あの、止めてくれませんかお姉さん? 私物をじろじろ見られるのちょっと嫌なんですけどぅ」
今までにないほど焦った表情で、レコードはルルに抗議の声を上げた。
「ごめんねレコードちゃん。さーちゃん駄目だよこっちにおいで!」
ルルが呼びかけているのに、さーちゃんは余程気になるのか小箱から離れようとしない。
さーちゃんは小箱の周りを飛び回っては動きを止め、飛び回っては小休止。と、同じ動作を繰り返していた。
止まる時はなんだか考え中にも見えるし、人間だったら不思議そうに首を傾げているところにも見える。
「言うこと聞かない精霊さんですね! いいかげん離れてくださいよ~!」
怒りながら、レコードがさーちゃんに近づいていく。
精神体同士は触れる事ができるので、彼女は無理やりさーちゃんを引きはがそうと手を伸ばした。
けど、それはちょっと遅かった。
「びー! びー!」
レコードの手が届く直前、さーちゃんの
すると、さーちゃんの目が明滅を繰り返し、警報の様な声が辺りに鳴り響いた。
「あれ、さーちゃんが反応してる?」
ルルが目を瞬いて小箱を見る。
「え、でもレコードちゃんはこっちにいるよね。まだ、
レコードを見ると、彼女はあわあわと困った表情でこちらを伺っている。ルルの質問に答えることは無かった。
「
首飾りを奪って
「もしかして、精霊が作った小箱だから
「さーちゃんが反応するのは精霊だけだよ」
私の意見はあっさりルルに否定された。
それじゃあ、一体さーちゃんは何に反応したの?
みんなの視線が小箱へと集る。
さーちゃんは変わらず警報の声を上げている。
ここまでくると思いつく事は一つだけだ。
「……この小箱の中に、もう一体いるのか? 精霊が――」
ログ君が口にした次の瞬間。
「
ぽつり。と、レコードの呟く様な声が聞こえた。
そして、彼女の声と同時に辺りは閃光につつまれる。
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